第64話 幕間──ランチタイムは素直になって③
注文したパフェやケーキは、あかねちゃんがペロリと完食していた。
美味しそうに食べていたし、本当に甘いもの大好きだというのも伝わってきて。これなら奢り甲斐もある。
すでにお皿は下げられていて、今は優雅な食後のティータイム。のはずだったけど、話題はとても優雅とは言えないものだった。
「お兄って言うこと細かいんですよね~。自分はだらしないのに……」
「あはは……。でも、良いお兄ちゃんだと私は思うけどな」
「だったら、藍さんにお兄あげましょうか?」
「いやいや。なんだかんだ前田くんは、あかねちゃんが大好きだからね。私はもらえないよ」
気づいたときには、あかねちゃんから前田くんの愚痴が止まらなくなってて。
ファミレスに入ってすぐにしてた会話の内容とのギャップに、私は苦笑を浮かべる。
「藍さんって、お兄にちょっと補整がかかってますよね」
「そ、そう……?」
「最初の出会いのせいか、変に王子様っぽく見えているような……」
その言葉を出されると返すのに困ってしまう。
いつだったか冗談半分、本気半分で同じことを言った覚えがあるし。
「まあ、ナンパから助けるなんてベタな展開。確かにカッコよく見えるのは分かりますけど」
「あかねちゃんは、前田くんのこと好きじゃないの?」
話の流れでなんとなく発した質問だった。
けど、今度は逆にあかねちゃんの言葉が詰まって……。答えが返ってくるのに少しだけ間が空く。
「……お兄のことは嫌いです」
「それなのに、こうして喧嘩の仲裁には来てくれるんだ?」
「これはお兄じゃなくて、藍さんのためなので。お兄はあたしの気持ちを全然分かってないし……」
「だったら、あかねちゃんも前田くんと話し合わないと」
「それはいいんです! 逆に藍さんもこのままにしておくと、あたしたちみたいに口喧嘩ばかりになりますよ」
なんとも説得力のある言葉だなと思わされた。
本音を隠してる今の私は、あかねちゃんのような立ち位置。
もちろん、家族と友達って違いはあるけれど。
だからこそ一度の口喧嘩で、二度と戻れないほど距離が離れてしまうかもしれない。
「想いを言葉にしなきゃ関係も進まないと、あたしは思います」
「それはあかねちゃんも……って言いたいけど、まずは私からだね。とりあえず、ちゃんと会って謝らないと……」
「あたしとしては、悪いのは勝手に首を突っ込んだお兄のほうなんですけどね。でも、会ってくれるなら安心しました」
あかねちゃんの言葉は頭の中に入れておいて。私の気持ちを正直に打ち明けるかは、前田くんと話してから決めればいい。
とりあえず大事なのは、昨日の電話での失態を謝ることだ。
話が切れたところで、スマホをチラッと見るあかねちゃん。
「あたし、そろそろ行かないとなので」
「ん、もしかしてこのあと何か用事があった?」
「はい、藍さんはこのままゆっくりしてていいですからねっ」
「それなら私も帰るよ」
「せっかく来たんですから! あたしのことは気にしないでください!」
そう言われても、一人でファミレスにいてもやることがない。
暑さに関しては家でもエアコンをつければいいだけだし。くつろぎたかったらベッドで横になればいいし。
「そういえば、お兄からちょっと話を聞いたんですけど、中学の知り合いと喧嘩してるって……」
「喧嘩……?」
「五十嵐って人と喧嘩してるんじゃないんですか?」
私も帰る支度をしようかと思ったとき、急に出てきたあの人の名前に心臓がドキッと跳ねる。
前田くん、そのことも話してたんだ……。
ただ、あかねちゃんは違った話を聞かされているのか不正確な部分があった。
ひとまず、あかねちゃんの話に乗っておこう。
「そ、そうなんだよね……」
「そんな人のこと気にする必要ないんですよ! 知り合いの彼女だろうと、ガツンと文句を言ってやればいいんです!」
「あはは……。あかねちゃんは強いなぁ……」
「あたしもそんな人付き合いは得意なほうじゃないので。口だけなんですけどね」
正直、どんな反応をすればいいのか困った。
だって、自分の気持ちをぶつけられないのは前田くんに対してだけじゃないから。
花火大会のときに言えていたら。そもそも中学時代に文句を言う勇気があったらと思う。
けど、今も私は耳障りのいい言葉だけを並べて過ごしている。
もう気を遣う必要もないあの人にまで。
下手くそな作り笑いで、私がこの話題を乗り切ろうとしていたとき────店内の入り口のほうを見て、片手をあげるあかねちゃん。
「あっ、お兄~。こっちこっち」
「えっ……!?」
あかねちゃんが手を振っていた先には────さっきまで私たちの話題の中心だった、前田くんが立っていた。




