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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ


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第6話 内緒の約束


「これ。ちゃんと洗ったから返すな」


「ああ、わざわざありがとうね」


 俺は、スクールバッグから巾着袋を取り出して氷川へと返す。


 月曜日の放課後にあのナンパ事件があってから、氷川と一緒に帰ったり昼ご飯を食べたり────色々な出来事があった今週も、今日で終わりだ。


 何の取り柄も無くて目立たない男子高校生の一週間が、こんな風になると想像出来たやつはいないだろう。もちろん、俺を含めて。

 今日も今日とて、帰り道は氷川と一緒なわけだけど────



「なぁ、いつまで一緒に帰るんだ?」



 少し気になっていたことを、俺は聞いてみる。

 休みを挟んで来週も、一緒に帰るつもりなのだろうか。


「いつまで、か……」


「あっ、別に氷川が迷惑で聞いてるとかじゃないからな?」


「ふふっ、分かってるって。けど、いつまでもキミに付き合ってもらう訳にもいかないよね」


 隣を歩く氷川は、顎に手を当てて考える素振りを見せる。

 だけどすぐに、並んでいたところから一歩前に出て俺のほうへと振り返ってきた。

 道の真ん中で、俺は氷川と向かい合う。



「名残惜しいけど、今日で終わりにしよっか」



 その言葉は笑顔で告げられた。でも、それは今週見てきた中で一番控えめな笑みにも見えて。

 それが分かるようになるくらい、この一週間は俺も楽しんでいたことを実感する。


「……そうか」


 返事をすると同時に、俺は心の隅に意外な感情があることに気づく。

 こうして一緒に帰ることが無くなれば、学校で話すこともまず無いだろう。氷川との関わりが無くなることに、寂しさを感じるなんて……俺らしくもない。


「まぁ、このまま一緒に帰ってたら、いつクラスのやつらにバレるか分からないしな」


 俺は平静を装って、そう付け加える。

 氷川と約束をしていると、星野や二階堂からの誘いを断ることも増える。そうなれば、ますます怪しまれるだろう。


 たまには一緒に帰らないか────なんてここで言ったら、それこそ特別視していることにもなるだろう。


 何よりも特別視されることを嫌っている氷川にそれは出来ない。

 俺が出来る返事は肯定することで────今日で終わりにすることだ。


 初めて帰った日ですら会話が途切れなかったのに、今日は静かな時間が多い。


「あっ、コンビニ……」


 突然、一歩前を歩く氷川が足を止めると、辛うじて聞こえるくらいの声でそう呟いた。

 視線の先には────こうして関わるきっかけになったあのコンビニ。


「アイス買ってきてもいい?」


「あぁ、外で待ってるよ」


 店内に入っていくその姿には、いつものキラキラオーラを感じなかった。

 なんというか、見た目通り地味な雰囲気の……ちゃんとした女の子。

 コンビニ前で一人になると、頭の中でグルグル回っている感情に意識を向ける。



「なんと言っていいのか……」



 意識しない内に、自分の口からそんな言葉が漏れた。



「なにが?」


「うわぁ!」



 突然、首元に冷たい感覚が襲ってきて身体が跳び跳ねる。

 慌てて身を引くと、すぐ隣にはアイスを持った氷川がいた。


「はぁ、またやられた……」


 前と同じ手でからかってくる氷川と、その手に二度も引っ掛かる自分に向けて深いため息を吐く。


「隙だらけだったよ? はい、あげる」


「どうも。ってか、早くないか?」


「買うものは決まってたし、こんなもんでしょ」


 それより────氷川は、そう言葉を続けながら俺の顔を覗くように近づいてきた。


「ずいぶん辛気くさい顔してたね?」


「……そういう氷川も、さっきまで同じような顔してたと思うぞ?」


 コンビニを出てきてからは、いつもの表情に戻ってるみたいたけど。

 急にこんな距離詰められると、意識してなくてもドキドキしてしまう。


「あ~。さっきはちょっと考え事してたからね」


「考え事……?」


「他の人にバレるからって理由で、この楽しい時間が終わっちゃっていいのかな~。なんて……」


「はっ? それって……」


 隣を見れば、氷川の視線はどこか遠くの────かすかにオレンジの色が差し込んできている夕空の、その向こうを見つめているようだった。



「キミの意思なら、しょうがないと思うよ? けど、外野に邪魔されて終わるなら嫌だなって思ったんだ」



 淡々と呟かれるその言葉に、引き込まれそうになる。

 そして、ゆっくりと氷川の顔がこちらに向いてきて目線が交わった。



「だからさ────もしキミが良ければ、これからも一緒に帰らない?」



 同じことを思っていた。その事実を知った途端、急に俺の心臓はうるさくなる。

 その理由は理解出来ないまま、とりあえず呼吸だけを整えて口を開いた。



「お、俺でいいなら」



 絶対、声は震えてたし上擦っていただろう。答えてから、一気に恥ずかしさが襲ってきて顔が熱くなる。


「ホントに!? なら、言って良かったぁ」


 そういう氷川も、緊張から解放されるように大きく息を吐いていた。

 その様子を見ていると同じ気持ちだったんだって、段々と俺の心も落ち着いてくる。


「けど、毎日は無理だぞ? 出来ても週に一回程度……」


「分かってるよ。毎日だなんて、カップルじゃないんだしね」


 この天然なのか、からかってるのか分からないイケメンムーブ。氷川らしさになんだか安心する。



「じゃあ、毎週水曜日の放課後はどう? 水曜日の放課後、いつものところに集まるの」



「分かった、じゃあ毎週水曜日な」



 こうして、二人だけの内緒の約束を交わして────俺と氷川の秘密の付き合いは始まったのだ。


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