第59話 友達と幼なじみとターゲット③
パンケーキを食べ終わった後は、星野の先導のもと、近くのカラオケボックスにやってきていた。
正直、カラオケは苦手だ。でも、無理に歌わせてくるやつらじゃないし、これも今日の目的のためだと思おう。
ただ────今は聞いているだけなのに、カラオケに来たことを少し後悔している。
「これを聞かされてるこっちは、どんな反応を求められてるんだ……」
「確かに……」
「生温かい目で見るのが一番効くんじゃない? アタシはああはなりたくないけど」
「……宇佐美は辛口だな」
どうやら、目の前で繰り広げられている星野と五十嵐の熱いデュエットに苦笑いを浮かべていたのは、俺だけじゃなかったらしい。
俺としてはそのラブラブっぷり以外にも思うところがあってなんだけど。
五十嵐の過去次第では────星野に別れることを勧めなければならないからな……。
あんな二人の様子を見せつけられると、それも気が引ける。
「おいおい、目線冷たすぎねぇか?」
「なんか椿ちゃんから殺気を感じたんだけど……」
「気のせいよ。そんな目付きになるわけないじゃない」
「次、僕が入れた曲だ」
「はい、マイク。頑張りなさい」
「ほら、俺らに向ける視線と全然違う!」
まあ、考えてることは全部俺の勝手だな。
ちょっとした引っ掛かりから行動して。過去をハッキリさせれば何かが変わると……。頼まれてもないのに、これが氷川のためになるとか思っているのだ。
いつから俺はこんな馬鹿になったのか。
きっと、今年の夏は外に出すぎて暑さで頭がやられているのだろう。
二階堂が歌うちょっと古めの曲を聞きながら、そんなことを考える。
「やっぱり渚は上手いわね」
「発声しっかりしてるよなぁ」
先ほど見せつけられたデュエットと比べて、二階堂は演劇部だからか、発声の違いが素人でも分かるほどだった。
基本的には星野と二階堂が積極的に歌ってくれていて、五十嵐はたまに歌う程度。
俺と宇佐美に関しては、一曲ずつ歌ってからはマイクを拒否していた。
俺の目的は歌うことじゃなくて、話すことだからな。そこは許してもらおう。
そんな中で、さっきの入れ替わりのタイミングのときに五十嵐が隣に座ってきていて。せっかくだし話を振ってみることにする。
「……さっきは楽しそうに歌ってたけど、こういう場所って得意だったりするのか?」
「ん~楽しいとは思うけど、人前で歌うのは慣れてないかな」
「学校のやつらと行ったりは……」
「ないよ、私は部活ばっかりだし。休日に遊ぶのも透也くらいだから」
「来実は陸上馬鹿なとこあるからな」
「透也のそういう言い方きらい」
五十嵐の話を全て信じるのなら、いま見せてる姿と学校での姿が違うようにすら思えてきた。
それに、イジメるやつ特有の群れているイメージだって、聞く限りでは感じ取れない。
「彼女に馬鹿なんて言うものじゃないわ。そんなだから喧嘩もするんでしょ」
「わ、悪い……」
「今度から透也と喧嘩したら椿ちゃんに相談しよ~」
「それはお断り。痴話喧嘩に巻き込まれるのは勘弁だわ」
「えぇ~! あっさり見捨てられた……!」
カップルの会話って、聞いてるだけなのにどうしてこうも疲れるんだろうな。
それに今日一日、五十嵐のことを探ろうとしすぎてもう頭も回らなくなってきている。
ちょうど二階堂が歌い終わったタイミングだし、少しだけ気を緩めにいくか。
「飲み物取ってくる」
「あっ、私も取りに行こ~」
ただ俺の作戦は、五十嵐の無邪気な一声であえなく失敗に終わった。
取ってこようか。なんて、彼氏がいる前で言うのもあれだし一緒に行くしかない。
「いってらっしゃい」
「来実がナンパされないように頼むわ~」
「じゃあ、お前もついて行けよ……」
そこからドリンクバーコーナーまでの短い廊下は、やけに長く感じた。
女子とする世間話なんてないし、そうなれば色々な部屋から漏れてくる歌声がよく聞こえてきて。
この数十秒の気まずさがかなりの疲労感に。
五十嵐に気づかれないよう、ため息に近い息を吐きながら。ウーロン茶のボタンを押して、茶色い液体が注がれていくのをジッと見つめる。
「ねえ、そんなに私の学校のことが気になるの?」
一瞬、誰がその声を発したのか分からなかった。
だって、あまりにも声のトーンは低くて。背筋が凍りつくほどだったから。
一緒についてきたのは五十嵐だけなはず。
後ろを振り返れば当然だけど五十嵐と目が合って、周りには他に誰もいない。
「……どうして?」
「椿ちゃんには聞かないのに、私には何度も聞くから」
「宇佐美とは元々知り合いだったから、なんとなく知ってるんだよ」
「その割には、あまり話を振ってるようには感じなかったけど」
「あいつとはいつでも話せるからな」
「そもそも、前田くんってあまり自分から話さないよね。私の学校の話題以外は」
やっぱり、陰キャが慣れないことをするとバレバレだよな……。さて、どう誤魔化そうものか。
「透也から探るように頼まれてるの?」
「それは違う。あいつは関係ない」
「じゃあ、なんで?」
俺が勝手にやったことで、星野まで巻き込みたくはなかった。
けど、咄嗟に出たその一言は、遠回しに探っていたことを肯定するものにもなってしまって。
いっそのことハッキリと切り出してしまおうかとも思ってしまう。
ただ、氷川にとってはトラウマに近い問題だ。俺の勝手で済まされるのは、ある一定のラインまで。
「単に俺自身が気になっただけだ……」
「私、前田くんからは嫌われてると思ってるんだけど……。そんなに興味を持たれるようなことあった?」
「星野が悪い女に引っ掛かってないかって」
「前田くんの評価は?」
「ノーコメント。情報が無さすぎて判断ができない」
「……私、学校のことは話したくないの。これ以上は聞かないでくれる?」
「……分かった。無理に話を振ったのは悪かったよ」
五十嵐の言い方からして、星野が相手でも学校の話題を避けてたのは意図的か。
こう釘を刺されてしまっては、もう俺が引き出せることもないだろう。
「……地味で目立たないってことは事実だから」
最後にそれだけ言い残して、五十嵐は先に部屋へと戻っていった。




