第58話 友達と幼なじみとターゲット②
星野と五十嵐のカップルに、二階堂と宇佐美のカップル(正式には後者はまだ違うらしいけど)に挟まれて。
五人でやって来たのは、駅から十分ほど歩いたところにあったパンケーキ屋。
ただ、店にはすぐ入れたわけじゃない。それは店の前の行列を見れば分かったことで。
並ぶことさらに三十分。正直、真夏の三十分は地獄でしかなかった。
前も氷川とクレープ屋に寄り道したときに思ったけど、どうしてデザート屋にそんな並ぶんだろうな……。
「ここ、ずっと来てみたかったんだけど想像以上ね」
「私もっ! でもなかなか並ぶ気になれなかったんだ」
「こうしてメニューを見たらあの行列も理解できるわ」
メニューのパンケーキの写真で目を輝かせる女性陣二人。
確かに美味しそうではあるけど、値段がいかついと思うのは雰囲気を壊すだろうか。
男からしたら、こういうところはどうにも落ち着かない。
星野も二階堂も食い入るようにメニューを見てるから、慣れてないのは陰キャの俺だけなんだが。
ひとまず注文を済ませると、星野が場を仕切り始める。
「じゃあ、まずは自己紹介から! って言っても、俺と遊介はあんまする意味ないよな」
「まあ、顔見知りではあるのか?」
「私は前田くんも聞きたいなっ。さっき呼ばれてるの聞いて、やっと名字も知ったくらいだから」
駅で話してるときに名前の呼び捨てだったのは、単に名字を知らなかったからか……。
やたら距離の近いやつだと思っていたけど、それを聞いてどこかホッとした自分がいた。
「じゃあえっと、前田遊介。妹が一人いる。あとは……なんだ?」
「そうだな~。学校で人気の女子と仲良くなっておきながら、別で彼女作ってる意外と積極的なところとか?」
「わあ、そんな風には見えないのに……」
「誤解だ。それには事情があるんだよ」
「……前田、ずいぶん変わったのね。中学の頃は女子嫌いだったのに」
「本当に違う。お前まで勘違いはやめてくれ」
事情は決して説明できないけれど。確かに何も知らない側の目線から見れば、急に一部の女子と絡みだした奴ではある……。
「次はアタシ。名前は駅で会ったときに言ったわね。桜原高校の一年で多分同い年なはず」
俺の次に自己紹介を始めたのは、宇佐美椿だった。
「服を見たり、自分で着たりするのが趣味。将来の夢はデザイナー」
「椿、そこまで本格的な自己紹介じゃなくても……」
「椿さんってデザイナー志望なんだ! なんかカッコいい……!」
「椿でいいわ。歳は同じなのに名前をさん付けされるのは落ち着かないから」
「じゃあ、椿ちゃんでどうかなっ?」
「それでも構わないけれど……」
これが本来あるべき距離の縮め方だろう。
というか、宇佐美の顔が若干にやけてるし……。嬉しいのなら恥ずかしがらずに喜べばいいのにな。
「にしても、宇佐美はよく参加してくれたよな。俺としては断られると思ってた」
「渚が誘ってくれたからね。あなたたちがいても来るわよ」
「本当にこいつら……。これでまだ付き合ってないって……」
「何かと理由をつけて、渚は関係を進めたがらないから」
「そういうわけじゃなくて。僕も色々考えてるっていうか……」
二階堂としては、カップルになることで生じる関係の変化が怖いらしく。なかなか告白に踏み切れないのだとか。
付き合う前から別れたときの心配もしてたし、この調子じゃまだまだ幼なじみという関係は続きそうだ。
当の宇佐美のほうもそれは分かっているようで、特に表情に変化はなかった。
「ほらほら、そんな暗くなる前に渚の番だぞ」
「……じゃあ僕も簡単に。二階堂渚です。椿とは幼なじみで、透也と遊介とは中学から今も同じ学校なんだけど────」
星野に促されて切り替えた二階堂も、無難な自己紹介をしていく。
店に着いてから色々と会話が進んできたけれど、ここまでは俺が知っている情報だ。
「二階堂くん。よろしくねっ」
「これであとは来実だけだな!」
基本的には他人の自己紹介なんて興味がない。
けど、今日ばかりは目的の人物にしっかりと目を向ける。
「えっと、五十嵐来実っていいます。ちょうど一年前くらいから透也と付き合ってて……。喧嘩することもあるけど、なんとか続いてる感じですっ!」
「おい、俺たちの関係ってなんとか続いてるくらい危ういものなのかよ……」
中学のときから、星野の彼女として存在は知っていた。
実際に会ったのはあの花火大会が初めてだったけど。
少し日焼けした肌に、Tシャツとショートパンツといったスポーティーな格好。
そして本人の性格も見た目通りの元気系って感じで、今のところは裏があるようには見えない。
「でも、学校が違うのに関係が続いてて凄いよね。僕なんか心配で無理かも……」
「そこは頻繁に会うことで上手くやってるかな。放課後に部活がないときとか」
「来実、絶対に運動部でしょ?」
「うん、陸上部だよ。そんなに分かりやすかった?」
「陽キャオーラが溢れてるのよ」
「そんなことないと思うけどなぁ。クラスの中じゃ割と普通だよ」
「運動部に入る人は、総じてアウトドア派の陽キャ。これは疑いようもないわ」
「椿ちゃんすごい偏見だね……」
五十嵐についての会話の流れが出来ている今なら、俺も話題を振れそうだ。
「五十嵐さんは友達多そうだよな。星野もゆったり構えてられないんじゃないか?」
「おい、お前までなんてこと言うんだ!」
「あははっ、友達は全然いないよ。目立たないし地味だから話し相手も少ないし」
「地味ではないだろ。五十嵐さんは、孤立してる奴にも優しくしてそうなタイプっていうか」
そのとき、一瞬だけ顔が引きつったのが分かった。
宇佐美が聞いた部活のことは普通に答えてたけど、学校での交友関係は答えるのに躊躇するのか……。
「そんなにできた人間じゃないって。前田くんは私に良いイメージを持ちすぎじゃない?」
「普段、星野からの自慢話で、五十嵐の良いところを聞かされてる影響かもな」
「えっ、それはちょっと恥ずかしいかも」
「なんだかんだ遊介は分かってくれてたのかよ~」
「五十嵐は学校でこいつの話とかしてるのか?」
「……そういう話にはあまりならないかな。私に彼氏がいるって誰も知らないと思う」
ここまでの五十嵐の印象は、フレンドリーで距離の縮め方が上手い人物。
そんな奴が学校では親しい友達がいないなんて……。
言葉通りに受け取るならどうにも想像しにくかった。
「ほら、透也の惚気話がおかしいだけなんだよ」
「いやいや、来実を見てくれよ! こんなに可愛いんだから自慢したくもなるだろ!」
「もう……透也はそんなに私の話をしてるの?」
「一晩中付き合わされたこともあった……。この間はどうすれば仲直りできるのか、とか……」
「お熱いカップルだこと」
「それはなんというかご迷惑を……」
こんな五十嵐にも、過去に氷川をイジメていた裏の顔がある。
情報を手に入れるほど彼女が分からなくなった。
この会話の流れで知ることができたのは、無難な話題でも分かりやすく避けてるラインがあることだけ。
「お待たせしました~。宇治抹茶パンケーキのお客様────」
ただ、いいところで注文の品を持ってきた店員が入ってきて、会話の流れも途切れてしまった。
次の瞬間にはもう話題はパンケーキへと移っていて、自己紹介タイムもおしまい。
仕方ない、この店で探るのはここまでにするか。今日はまだ長いのだ。
夏休み終盤にして重くのしかかってきた好奇心だけど、パンケーキの甘ったるさで今はなんとか誤魔化した。




