第57話 友達と幼なじみとターゲット①
今さら外出の予定が一つ増えたところで、そこまで変わりない。
そう思っていた過去の自分を、今の俺はひどく憎んでいた。
外に出る日に限って空は雲一つない晴天で。灼熱の太陽だけが激しくこちらに主張してきている。
最寄り駅から十分ほど電車に乗って、やってきたのは────流行の最先端が集まる街。
あくまで俺のイメージなだけで、それすら合っているのかも分からないけれど。
一つ言えるのは、自分からは絶対に行かない街ということだ。
だったらなぜ今日は来たのかというと、待ち合わせでこの駅を指定されたから。
今日は星野、二階堂と約束したトリプルデート。いや、実際は二人のダブルデートに俺がちょっかいを出す形だな……。
氷川に断られたあと、俺も断りの連絡を入れようとは思っていた。
ただ、中学時代の氷川のことはもちろんだけど、星野の彼女の五十嵐来実が妙に気になって。
今日ばかりは勝手なことをしたと反省している。
「遊介、そんなに険しい顔をしてどうかした?」
先に待ち合わせ場所に来ていた二階堂からそう声をかけられると、俺は取り繕うように冗談っぽく笑う。
「いや、俺だけ一人で参加していいのかと思ってな」
「そこは気にしなくていいんじゃない? あいさん、予定が入って残念だったけど……」
「なんか悪い」
この謝罪は色々なことに対してだ。
カップルのダブルデートに邪魔をすること。
『あいさん』の正体を隠していること。
氷川に黙って今日ここに来ていること。
こう考えると、今日だけでかなりの罪を重ねているな……。
「でも、こういう集まりって遊介は苦手だと思ってたからビックリしたよ」
「まあ、気が向いただけさ」
気が向いたというのだけは本当だ。誰に頼まれてもないのに、積極的に他人を探ろうだなんて普段は思わない。
ちょっとした引っかかりがモヤモヤしたから、夏休みの一日を捧げてみようというただの気まぐれ。
二階堂と話しながら少しの間待っていると、手を繋いで改札から出てくる星野と五十嵐の姿が目に入った。
「悪いな。待たせたか?」
「まだ約束の時間より前だから大丈夫だよ。もしかして、その人が透也の彼女……?」
「ああ、来実だ。まあ挨拶は全員揃ってからってことで」
「はじめましてっ。今日はよろしくねっ?」
「うん、こちらこそ」
「あと、遊介だよね。花火大会のときに会った!」
「覚えててもらえるとは」
「もちろんだよ! 今日は相手の子に会えなくて残念だけど……」
そのことはすでに星野から聞いてるのか。
中学時代のこいつは、他人をイジメるようなやつだった。
そう聞いたあとだと、俺には見抜けないだけでこの笑顔には裏があるのかと勘繰ってしまう。
まあ、常に警戒し続けていたら一日体力は持たないし焦らずじっくりといくとするか。
「それより、宇佐美は?」
辺りをキョロキョロと見回しながら、星野がそんなのとを呟く。
そう、今日はトリプルデートの予定だ。
二階堂の相手も来るはずみたいだけど、まだ彼女だけ姿を現していなかった。
「それがまだ来てないみたいで。道に迷ったりしてるのかな……」
「そういや方向音痴だったっけか?」
「えっ、だったら迎えに行かないとじゃない? 連絡は?」
「向かってるから心配しないでって」
「あいつはそういう性格だよな……」
とりあえず、二階堂のスマホに新たな連絡が来るのを待つしかないか。
二階堂の幼なじみとだけあって、俺と星野も何度か遊んだことはあるけれど……。
助けを意地でも必要としないところに彼女らしさを感じるな。
そんな風に、俺たちは最初から諦めていたときだった。
「あっ、いた」
スマホを片手に俺たちの集団を見つけて、立ち止まる派手髪の女性が。
一瞬、人違いをしてるのかと思ったけれど、よく見るとその顔は俺たちが待っていたその人物で間違いなかった。
「椿、良かった……。ちゃんと来れたんだね」
「ええ。三十分前にはこの駅に着いてたんだけど、別の出口に出ちゃったみたいで」
「そ、そんな前からいたの……!?」
「遅刻したら悪いじゃない。実際、集合時間ピッタリになっちゃったわけだし」
この駅で三十分も迷えるほうが逆にすごいけどな……。
俺たちが顔を見合わせて苦笑を浮かべていると、宇佐美の目はこちらを捉えてくる。
「それと、前田と星野も久しぶり」
「高校生になったからって羽目外しすぎじゃね?」
「そう? これでも注意はされないけれど」
「マジか。そんな校則ゆるいのかよ……」
「……不良だ」
「聞こえてるわよ、前田」
俺の記憶の中の宇佐美は、綺麗で長い黒髪だった。
それが今ではなんと金髪になっているのだ。
最後に会ったのはまだギリギリ中学生だったときだから、明らかに高校デビューのタイミングで変えたんだろう。
あまりのイメージチェンジっぷりに、全く面識のない初めましての人と接してる気分になる。
「それより、そっちの子は?」
「ああ、俺の彼女」
「五十嵐来実です! ちゃんと会えて良かったよ~」
「心配させたならごめんなさい。宇佐美椿よ」
「ひとまずこれで全員揃ったな」
「あれ、前田は? 相手いないの?」
「グサッと刺してくるなよ……」
変わった見た目も相まってか、宇佐美の強気な口調はなんだか火力が上がったような気がする。
「急な予定が入って来れなくなっちゃったんだって」
「相手はちゃんといたんだ。前田はそういうの興味ないと思ってた」
「友達だけどな。こいつらが勘違いしてるだけで」
「でも、一人で来るくらいならあかねを連れてくれば良かったのに」
「宇佐美と二人ならまだしも、こんな大勢のところには来ねぇよ」
「あかねさんって?」
「遊介の妹だよ。宇佐美と似た雰囲気の子」
「妹いるのいいな~。私、一人っ子だから憧れる」
この台詞、前にもどっかで聞いたな……。
そして俺の反応も決まってこうだ。
何をそんなに妹という存在に憧れを持っているのか、と。
現実と理想はかけ離れたものだということを、俺は妹から教え込まれた。
「全然似てないぞ。あかねのほうがもっと棘がある」
「それ、アタシが返す言葉に困るんだけど」
まあでも、星野の説明も間違っているわけじゃない。
例えば宇佐美の服装は、あかねも着ているようなガーリー系のファッションだ。
それもそのはずで、あかねの服や見た目へのこだわりに関しては宇佐美の影響だった。
憧れて真似をした結果が今のあかね。
だから、似ているのも当たり前と言える。
「それより、みんな揃ったわけだからさっそく行くか! ゆっくり話すのは店に入ってからってことで」
「そうだねっ! 私、今日すごく楽しみだったんだ~」
「ほら、渚も行くわよ」
「うん。椿、迷子にならないようにね?」
「……本家カップルと同じじゃねぇかよ」
星野と五十嵐が手を繋ぐのは、まあカップルだから分かる。
ただ、二階堂と宇佐美も同じような距離感だったからこそ、俺は二組の背中を見て愚痴が溢れてしまった。
やっぱりダブルデートに一人ぼっちは気まずさがあるな。
冗談抜きであかねを呼べば良かっただろうか。
そう思いながらも、俺は五十嵐に目を向ける。
お節介。突っ込みすぎなくらい首を突っ込んでることはよく分かっている。
今日のこの行動が、趣味の悪い好奇心だとも。
ここに来てしまったからには何か知れたらいいと俺は一人で気を引き締めた。




