第56話 今年の夏は波乱づくし
夏休みは毎日が休日のはず。ずっと家にこもってたって文句は言われないはずなのに、今年の夏はとにかく外出ばかり。
とは言っても、今日はそんなに気を使うような相手でもないから気は楽だけど。
「へぇ、遊介がそんなところ行くなんて珍しいな」
「父さんが無料宿泊券をもらってきてな。家族で行ったんだ」
「それでなんだ。ありがとう、わざわざ買ってきてくれて」
「いや、ついでだからな。気にしないでくれ」
「俺たちはついでだとよ、渚……」
「遊介もたまに一言多いときあるよね……」
「文句があるなら、回収したっていいんだぞ?」
なんだか久々にすら感じるな、この空気感は。
この夏休み、氷川よりこいつらと会うほうが少ないとは思いもしなかったけれど。
「てっきり例の彼女とでも行ったのかと」
「例の……? もしかして花火大会のこと言ってるか? あれは勘違いも────」
「そうそう、僕も気になってたんだ! 女の人と花火大会に行ったって透也から聞いて」
「……なに勝手に話してんだよ」
「わりぃわりぃ」
本当にこいつは……。普段は言いふらしたりするようなやつじゃないけど、俺たちの間となるとどうにも口が軽くなる。
「あのな、俺に彼女はいない。そして作る気も、出来る気配もない。彼女持ちのお前に言われると喧嘩売られてんのかと感じる」
「悪かったって。でも、どういう関係なのかは気になるだろ。妹ではなかったし……」
「確かに、遊介って二人で花火大会ってキャラじゃないよね……」
「そう。何か引っ掛かけられてんじゃないかとすら思えてくる」
「俺はそこまで馬鹿じゃねぇよ」
まあ、二人がそういう反応になるのも分からなくはない。
俺が二人の立場なら同じことを思っていたはずだ。
それくらい俺が女子と関わっていること自体がありえないことだった。
「どういう関係かと言われたら……ある約束をした間柄……?」
「なんだそりゃ。ますます遊介が何かの詐欺に合ってる気がしてきたわ……」
「本当に関わってて大丈夫な人?」
「ダメなやつなら縁切ってる。そもそも、花火大会のときの浴衣を着付けたの母さんだから」
「はっ? なんかそれ俺たちより関係進んでないか?」
「星野にそう言われてもな……」
そもそも、聞いてる限りじゃ親の教育方針が違いすぎる。
俺のほうは家族が乗り気だからこそ、出会って数ヵ月の友達にしては深い付き合いになっているし。
「それと、一緒にいたのって同じ高校のやつじゃないだろ。あんな女子、学校で見たことないぞ」
「遊介が他校の人と!? ますますあり得ないような……」
いや、同じ学校だし同じクラスでもあるぞ。絶対に口にはしないけどな。
「さっきから聞いてれば、さらっと酷いことばっか言ってないか?」
「わるいわるい。来実もちょっと気になってたみたいだからさ」
「へぇ……」
────五十嵐来実。星野の彼女で、氷川の中学の同級生。
この間の花火大会で初めて会ったけど、イメージは星野から聞いていた通りの雰囲気だったな。
せっかくその名前が出てきたのなら、少し聞いてみるか……。
「なあ、お前の彼女ってどんなやつ?」
「来実か? 明るくて楽観的だけど、陸上に関してはめっちゃ努力家」
「それは何度も聞かされた。なんていうか、もっと他の……。学校での立ち位置とかさ」
「そりゃ、話しやすいし人気者なんじゃないか?」
「なんか抽象的じゃない?」
「よく考えたら、来実から学校の話ってあんま聞いたことないんだよなぁ……」
通ってる学校が違うのなら、お互いの学校の話をしそうなものなのに……。
そんな俺の考えがおかしいだけなのだろうか。
それとも、五十嵐が意図的に隠しているとか。二面性のある人間っていうのは、そこまで珍しくもないし。
ただ、星野から見た印象と氷川からの印象だとだいぶ違う気がした。
「あっ、そういえば……。例のあいさんって人のこと、どっかで見たような気がするとは言ってたな。もしかしたら来実と同じ学校だったりして」
「……! そ、それだけか?」
「すげぇ興味持ってくるな……。もしかして何か知ってたり?」
「そういうわけじゃなくて……」
五十嵐のほうは氷川を覚えていたりするのか……?
星野のイメージで補整がかかってるせいで、いまいち人間性も見えてこない。
俺自身も女子絡みの嫌な経験を過去にした影響か、同じ雰囲気ならなんとなく感じ取れることがあるんだけど……。
五十嵐の雰囲気は、その嫌なやつらとは少し違うような気もしていた。
「まあ、いいや。何か気になることがあんなら直接話してみるか?」
「いや、そこまでじゃ……」
直接会って話すなんて、いくら友達の彼女だとしてもさすがに首を突っ込みすぎだ。
氷川が困っているわけでも、探ってこいとお願いされたわけでもないんだから。
「ダブルデート……。いや、トリプルデートなんてどうだ? 渚も混ぜて」
「えっ!? 僕は相手いないんだけど」
「幼なじみがいるだろ」
「椿とはまだ……」
「じゃあ、今回のデートで関係を進めるチャンスじゃん!」
「そう……なのかな……?」
「おい、勝手に話を進めるな」
俺が黙って考えてる間に、星野と二階堂が勝手にとんでもない話を実現させようとしていた。
自分史上、この夏休みはかなりアクティブな生活を強いられているのだ。
これ以上はもう出かけたくないし、本当に勘弁してほしい……。
「え~じゃあデートじゃなくて、ただの遊びってことで」
「それは一緒だろ。そもそも俺だけじゃ決められない」
「じゃあ聞くだけ! ダメならそれでもいいからさ」
「……まあ、聞くだけ聞いてみるけど。ダメって言われたら本当に諦めろよ」
正直、氷川の過去を考えればきっぱり断るべきだろう。
それに誘ったところで来るとも思えない。
ただ、一度引っかかったものはどうにも気になってしまっていたのだ。
友達と付き合ってる彼女が、俺の別の友達をイジメてたなんて、複雑だし快く思えないからな……。
勝手に探るのはどうかと思うけど、俺としては参加してもいいという気持ちがどこかにあった。
星野と二階堂にきちんとお土産を渡し終えて家に帰ってくると、メッセージで今日の件を氷川に伝える。
『(前田) なあ、花火大会で星野に会ったこと覚えてるか?』
『(藍) もちろん覚えてるよ』
『(前田) そのときダブルデートとか言ってただろ』
『(前田) あれ、本気にしてるみたいで』
『(藍) ごめん』
『(藍) あの人と会う気はないかな』
返ってきた答えはおおよそ予想通り。
この文面からしても、どれだけ誘ったって氷川は絶対に来ないと感じ取れた。
氷川に分かったと返してから、俺は別の人物のメッセージ画面へと移動する。
移動した先は、画面の上に星野透也と表示されているページ。
そこに俺は、参加するという短いメッセージを送った。




