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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ
第2章

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第53話 子どもっぽい氷川の一面


 氷川家の面々に俺が混ざった四人での会話は、思いのほか和やかな雰囲気で進んでいた。

 すんなり話に入れたのは、つい先日、一緒に行ったレジャー施設の記憶が新しいおかげかもしれない。


「これがそのときのお土産だったのか」


「はい。藍さんには、うちの母や妹の無理によく付き合わせてしまって」


 テーブルの端に置かれていたお菓子を見て、則文のりふみさんがそう呟く。

 にしても、氷川の両親の前だから名前で呼んでるけど。藍さんって慣れないな……。


「ううん、謝るのは私たちのほう。仕事ばかりで藍に何もしてあげられてないのに……。あろうことか他のご家庭に頼りきるなんて……」


「本当に親として不甲斐ない……」


「い、いえ俺は特に何も……」


 俺から誘うのは学校帰りの寄り道くらいで。

 言われたようなやつは、母さんやあかねが無理やり約束をとりつけたみたいなものだ。


「前田くんにも、前田くんのご家族にも本当に感謝をしているの」


「ああ、藍はいつも楽しそうにキミとの話を聞かせてくれてね」


「ちょっと!」


「いいじゃないか。前田くんからも藍の話が聞きたいんだよ」


 話のペースは則文さんと香織かおりさんが握っていて。

 それに振り回され気味の氷川が狼狽えてる姿は、少し珍しいものを見た気分になった。


「そんな風に話題に上がっているなんて、なんだか少し恥ずかしいような……」


「恥ずかしがることなんてないのよ。最近の私たちの楽しみは、キミと遊んだという話を聞くことなんだから」


「前田くんは、藍との時間の中で特に思い出に残ってることはあるかい?」


「俺ですか……!? えっと、学校帰りに寄ったゲームセンターですかね……。初めての寄り道だったのと、藍さんがすごく楽しそうな表情だったので」


「藍の顔、好き?」


「えっ!? き、綺麗な顔をしてるなって思います……!」


「ふふっ」


 答えた瞬間、香織さんにすごい笑顔で見つめられた。

 質問の流れに乗せられて口にしたことだけど、なんだかとんでもない台詞を発してしまったような……。


 香織さんの視線が俺の隣に移ったのを見て、俺も目を向けると────両手で顔を覆う氷川が。


「なんでそういうこと真面目に答えるかなぁ……」


「ご、ごめん」


「私たちが伝えても軽く受け流すのに、男の子に言われると照れるなんて……。我が子ながら本当に可愛い反応っ」


「少し複雑でもあるけどな。藍にもそういう相手が……」


「お、俺たちは友達なので!」


「ははっ、そうだったな。こちらまではしゃいでしまったみたいだ。藍はあまり友達のことを話す性格じゃなかったから」


 中学のときの出来事を聞かされていると、それもそうだろうなと思ってしまう。

 だからこそ、親に話そうと思うくらいに、氷川がこの関係を気に入ってくれてるのが嬉しくもあった。


「そういえば、藍とは何がきっかけで話すようになったんだい? いつの間にか藍の口から、キミのことが出てくるようになってね」


「えぇっと……」


「変な人にナンパされて、そこを前田くんに助けてもらったの」


「なんだって?」


 どこまで話していいのか困って、ちらりと氷川に視線を送ると。すぐに嘘偽りなく語られた。

 それは話して良かったのか……。聞いた瞬間に、則文さんがすごい怖い顔で驚いているけれど。


「前田くん、よく助けてくれた! そんな失礼なやつから守ってくれてたとは」


「そ、そこまでのことでは……。実際、相手が逃げ出していったのは藍さんの言葉ですから」


「ハッキリと言えたのは前田くんがいたからで……」


「つまりは、その段階で二人の相性は良かったってことだな」


「本当に前田くんには感謝ばかりね。藍は私に似て背が高いけど、そういう変な人はどうしてもいるし」


「小さい頃に空手でも習わせるべきだっただろうか」


 学校での王子様としての振る舞いに加えて、空手まで極めていたら……。

 ちょっと考えただけで、黄色い歓声がすごいことになっていただろうなと想像がついた。

 今のメガネをかけている氷川の姿でも、ギャップがあっていいと思うけど。


「何か変な妄想してない?」


「してないしてない。ちょっと空手をやってる氷川を想像しただけで……」


「どうだった?」


「見てみたい世界線ではあった」


「ははっ。でも、小さい頃の藍は絶対にやってくれなかっただろうな」


「そうそう。小さい頃といえば、アルバムを持ってきたの」


「えっ、なんてもの持ってきてるの!? 前田くん、見ないでいいよ!」


「ちょっ、氷川……近いって……」


 氷川が俺の目を覆うように手を伸ばしてきて、その反動で身体が少しくっつく。

 ただでさえ、先日のレジャー施設であった滑り台の一件のせいで、生々しい想像になってしまうのに……。

 しかも、氷川のご両親がいる前なんだから勘弁してもらいたい。


「ふふっ、本当に仲良しなのね。でも、小さい藍だってすごく可愛いんだから。前田くんにも見てもらわない?」


「見てもらうにしても、心の準備っていうものが……」


「実は、さっきからチラチラと見えてはいる……」


「えっ!?」


 氷川が慌ててたからか、スラリとした指の間からでもアルバムは見えていて。

 俺がそう言うと氷川の手は離れ、視界がハッキリしてくる。


 改めてじっくり見てみると、小さい頃から顔が整ってるなぁ……。というか、お母さんもかなりカッコいいし。

 真正面に座るご両親にチラリと目を向けると、遺伝というものはあるんだと強く感じさせられた。


 幼稚園のとき、小学校低学年、高学年……。

 どれも表情としては明るいわけじゃなく。氷川の素の笑顔を知っていると、暗い印象を抱くけれど……。小さい頃の写真なんて、全員こんなものだろう。

 可愛いというのはそれでも確かに伝わってくる。

 アルバムにまだ空きはあるものの、写真は小学校の卒業式で終わっていた。


「そうだ、前田くんと写真は撮ってないの? せっかくだからこのアルバムに……」


「ないよ。写真に写るのが嫌いなこと知ってるでしょ」


「……そうだったのか」


「前田くんもその反応やめて」


「おや、前田くんは何か知っているのかい?」


「いえ、怒られそうなのでやめておきます……」


 プリクラがあるけど、それは見られたくないんだろうな……。俺としても恥ずかしさのほうが勝つし。


「あははっ、いい男の子だな」


「私たちが心配するまでもなかったかもね」


「最初は一人暮らしなんてどうかと思っていたんだが────」


「あっ、お父さん……!」


 さらりと会話の中に出てきた単語。


 氷川が反応していなければ、聞き逃していたかもしれないくらいで。



「はっ? 一人暮らし!?」



 当たり前のように発せられたその言葉は、俺の頭を再び混乱へと導いた。


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