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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ
第2章

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第54話 繋がる点と隠し事


「一人暮らし……!?」


「えっと……」


 氷川の父親である則文さんから発せられた『一人暮らし』という言葉。


 俺が驚いたことに三人が戸惑っている様子からして、事実なんだろうけれど……。

 その言葉のインパクトのせいか、理解するのには少し時間がかかった。


「もしかして言ってなかった……?」


「てっきり知っているものだと……。悪いね、前田くん。今のことは忘れてもらえたりは……」


「いいよ。前田くんには話すべきだったと思うし」


 娘が秘密にしていたことを、思わぬ形で暴露してしまったんだから、親としてもそりゃ動揺するだろう。

 ただ、一足先に落ち着いたのは氷川のほうで。

 俺のほうに向き直った氷川は、固い表情のまま口を開いた。


「ごめんね、前田くん。今までずっと秘密にしてきて」


「いや、謝らなくていいって。ちょっと驚きはしたけど、色々と理由があったんだろ?」


「……変な心配をかけさせるかなって思ったの。前田くんにもだし、優しくしてくれるご家族にも」


 最初こそ、氷川が一人暮らしをしていると知って驚いた。

 だけどそれとは別に、今まで引っ掛かっていたことが全て解き明かされたような感覚もあったのだ。


 料理が上手いのに、親に作ったことがないと言っていたり。

 俺の家からの帰り道に見せていた、あのどこか影のある表情。


 この家に来たときだってそうだ。家族で暮らしているには殺風景だと感じたのは、そもそもこの家には氷川が一人だけだったから。


 引っ掛かったその全てが、一人暮らしだからってなると説明がついた。


「この家を見ていたら、知っていたはずだろうし。清いお付き合いなのが分かってホッとしてはいるけれど……」


「ごめんなさい、こんな形で伝えることになってしまって」


「本当にすまなかった」


「い、いやいや。むしろ俺のほうがなんかすみませんというか……」


「それこそ、前田くんが謝ることじゃないよ」


 則文さんと香織さんからも頭を下げられると、なんだか秘密を知ってしまったのが申し訳なくなってくる。

 氷川がフォローしてくれたけど、それでも空気はどこか重たいまま。

 思わぬ形で踏み込んでしまった一歩に、俺もまだ整理しきれてなかった。


 そんな中で則文さんが再び口を開こうとするけれど、こういう話になったからか、今度は慎重な様子で恐る恐る切り出される。


「藍、その……昔の話はしたのかい?」


「うん、ちゃんと話したのはこの間の花火大会のときだけど」


「じゃあ前田くんは、藍の中学時代のことを……」


「ええ、なんとなくは聞かせてもらいました」


「そう、きちんと信頼できる子を見つけられたのね」


 ここでその話を出してくるということは、一人暮らしと中学で受けたイジメが関係しているとなんとなく想像がついた。


 自分を変えるため、気持ちを新たに高校生活を始めるには、中学の知り合いがいない遠くの高校が良かったんだろう。

 親としては聞いてあげたいけど、話からして則文さんと香織さんは仕事が忙しく、一緒に引っ越すことが出来なかった。


 今まで聞いた事情を踏まえるとこんなところか。


「最初は迷いもあったんだ。年頃の娘に一人暮らしをさせるなんて。考えただけで危険な話だ……」


「すごく話し合ったものね。近くに頼れる人がいなくて大丈夫なのかなって……」


「でも、楽しくやっているようで少しは安心できたよ」


 その言葉を聞いて、俺はなんとも複雑な気持ちだったし────隣の氷川に目を向けることが出来なかった。


 この様子からして、氷川は学校のことをあまり話していないんだろう。

 今の抱えている悩みは、おそらく俺にしか打ち明けていないのかもしれない。


「こんなこと、同じ年齢の君にお願いするのは無責任かもしれない。それでもどうか藍をよろしく頼む……」


「は、話が大きいって。お父さん……」


 則文さんの信用や、氷川からの信頼が重いとは感じる。

 俺はそこまで万能じゃないし、立派な人間とも言えないだろう。



 ただ、頼まれたことへの答えは────氷川と約束を交わした日から変わっていない。



「もちろんです。藍さんとは友達なので。どういう事情があっても、これからも仲良くしたいって気持ちは変わらないです」


「ふふっ、本当に頼もしい子だね。末永くお願いしたいくらい」


「そ、それは進みすぎじゃないか? まあ、頼もしいというのは同じ意見だが……。時間をかけて前田くんのことも教えてほしい」


「あはは……。お手柔らかにお願いします……」


「そうだ、お夕飯も食べていったら?」


「あっ、今日は……。親にも夜までに帰るって言ってしまったので」


「そうか、残念だな……。なら、また次の機会にでもゆっくりと話させてくれ」


 途中から真面目な話になった影響か、話に集中してしまって。

 気づけば窓から夕陽が差し込んでいて、そろそろ帰らなければいけない時間になっていた。


「バス停まで送るね」


「いや、暑いしいいよ」


「私が話したいの」


「……じゃあ、お願いするかな」


 やっぱり氷川の微笑みってズルいなと思う。そんな表情でそんな台詞を言われたら断れない。

 前々から綺麗で整った顔だとは思っていたけど、気づかぬうちに俺に刺さるようになってるような……。


「ではまた。今日はわざわざ来てくれてありがとう」


「私もなるべく仕事の合間を縫って、こっちの家に来るようにするから。そのときはお話しましょう?」


「はい、お邪魔しました。あと、お菓子もごちそうさまでした」


 そうして則文さんと香織さんに見送ってもらいながら、緊張の両親へのご挨拶は無事に済ませることが出来た。





 さっきまでは四人で話し続けていたからか、氷川と二人きりだと妙に静かに感じる。

 実際、それは間違っていなくて。エレベーターに乗っている間も、バス停に着いてからも。氷川家を出てから会話は一言もなかった。


 話したいことがあるっていうのは、嘘だったんだろうか……。

 そう思い始めてたからこそ、氷川の言葉は突然のものだった。


「……ビックリした?」


「何が?」


「一人暮らししてるってこと」


「……どちらかと言えば納得のほうが大きかったかな。話を聞くまでは、氷川の私生活で引っ掛かってたことが結構あったから」


「あはは……。私もまだまだだね」


 俺の前ではそんなこと隠さなくてもいいのに。

 でも、そう言ったって氷川の性格から難しいんだろうな。


「変な心配しないでね? 今まで通りに接して」


「そりゃもちろん。さっきも言ったけど、どういう事情があろうと俺の気持ちは変わらないよ」


「ふふっ、やっぱりキミは優しい」


「実は悪巧みしてるかもしれないぞ」


「だったらもっと悪い顔してるでしょ」


 別に恩を売りつけようとか、何か見返りを得ようって気持ちはさらさらない。

 ただ、氷川のことを知れば知るほど、学校で被っている仮面の出来には驚くけれど。


「それと、ありがと。学校でのことも黙っててくれて」


「誰にでも色々な事情はあるからな。そこに茶々いれて踏み込むのは、俺の趣味じゃない」


 まあ、全く心配がないかと言えば嘘になるし。そもそも、お互いに踏み込んで始まった関係でもあるから今更な気もする。


 たった一度の俺らしくない行動が、氷川と繋がるきっかけを生み出した。

 氷川からしてもそうだ。守ってきた仮面を外したことで、あのナンパされてた人と同一人物だと俺が気づいた。


 最初からちょっと特殊な出会い方だったんだ。そう考えると気にしすぎるのも変な気がしてくるな。


 そんなところで遠くのほうにバスが見えてきた。


「私が話したかったことはこれだけ。 改めてだけど、この三日間すごく楽しかったよ」


「今日のことは母さんとかあかねには言わないでおくから。良かったら、またうちに夕飯でも食べにきなよ」


 きっと、氷川には無駄な気遣いかもしれない。

 それでも俺は、バスに乗る直前にそう声をかける。

 氷川が何か返してくれたのかは、扉が閉まったから分からなかった。


 夕焼け空と一緒に遠くなっていくその姿を見つめながら、俺は自分でも言葉にできない寂しさを感じていた。


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