第51話 旅行の最後はお揃いで
朝食のバイキングを食べ終え、レジャー施設も悔いが残らないように見尽くして。
そんな旅行の最後に寄るのは────
「う~ん、いっぱいありすぎて困るよねぇ」
沢山のお土産が並んだ棚を、険しい顔で物色するあかね。
そう。帰りのバスに乗る前に、俺たちはお土産を買いに来ていた。
「お前が真剣になるなんて珍しいな」
「お兄、失礼すぎ。あたしだって感謝を伝えるときは真面目に考えるから」
自分や友人へのお土産はもちろんだけど、何よりも父さんへのお土産を考えてなくてはならない。
こうして楽しめたのも、父さんが宿泊チケットをくれたからで。そのことをあかねも分かっているからか、いつになく真剣だった。
「氷川は何か決まったか?」
「うん。私は結構あっさり決めちゃうから」
その手には、小さな箱のお菓子が三個ほど。
優柔不断な俺やあかねと違って、確かに氷川には迷いがなかったみたいだ。
「チョイス良いな。俺もあいつらに買っていくか……」
「星野くんと二階堂くん?」
「ああ。夏休みが終わるまでに会うだろうし、その時に渡そうかと思って」
「ふふっ。仲良いよね」
「普通だろ。あいつらとは旅行とか行ったことないし」
そんな言葉を口にすると同時に、氷川との距離はものすごい速度で縮まっているんだと、改めて実感する。
花火大会のときには、これからもこういう関係を続けていきたいとは言われたけど……。
このままだと、いつか学校の人間にバレるんじゃないかとも不安になる。
「あっ、このウクレレ良くない!?」
きっと、俺の感覚を狂わせてるのは、こいつをはじめとした俺の家族なんだろうな……。
「……お前、本当に父さんのこと考えてるか?」
「考えてるよ! お部屋に置いたらオシャレになるかなって」
「氷川。何か言ってやってくれないか……」
「えっと……。私だったらちょっと困るかも……?」
「むぅ……。藍さんがそう言うなら」
「でも、お菓子じゃなくて記念に残るものはいいと思うよ」
「記念ねぇ……」
こういうところで買った記念品って、時間が経つと邪魔な置物になる気がして、俺はあまり買ったことがなかった。
修学旅行とかでも、木刀を買うやつの気持ちが分からなかったし。
「じゃあ、この変な人形は?」
「お前が変だと思ってる時点で無しだろ」
「文句ばっか! お兄は何かないのさ」
「父さんへは無難にコーヒーに合いそうなお菓子でいいんじゃないか。ウクレレとかはお前が自分用に買えばいいだろ」
「……お兄、たまには良いこと言うね」
じゃあ、どうしてそこで不満げな顔をするんだよ。
もう少し俺の心が広ければ、ああいうのが可愛いと思えるんだろうか。
妹が欲しいと嘆く世の男子たちに聞いてみたい。
「氷川は何か記念品は買わないのか? ウクレレとか」
「いやいや、ウクレレは……」
「あかねの前じゃ、やんわり否定するだけだったのに」
「だって、ハッキリ言ったらかわいそうじゃん」
「あははっ、冗談だよ。ごめんごめん」
「もう……」
とはいえ、氷川がすぐに決めたというお土産の全てが消耗品で。
記念に残るものを買わないのかは気になったまま。
そんな俺の考えがバレバレだったのか、心を読むように氷川から答えが告げられる。
「私は、旅行の記念品とか見ると寂しくなっちゃうんだよね」
「寂しく?」
「今日が終われば、この思い出は過去のものになって。楽しかった時間が戻ってくることもない。それを思い返すのって、ちょっと寂しくならない?」
物憂げな表情で、そんな想いを吐露する氷川。
思い返すと寂しくなる……か。
その考え方は、きっと経験してきた過去から生まれたものなんだろう。
俺にはあまり共感できそうにないが、それでも一つだけ言えることはあった。
「また行けばいいだろ。別に今日で会わなくなるわけじゃないんだし」
出会って数ヶ月だけど、寄り道をしたり家でバーベキューをしたり。こうして泊まりで旅行だって行くくらいだ。
きっとこの先も、様々な時間を積み重ねて。
寂しいと感じるよりも前に、楽しい思い出がどんどん増えていくはずだ。
目を見開いていた氷川は、少しの沈黙の後。吹き出すように笑みを浮かべた。
「ふふっ。やっぱりキミは優しい。そんなだから私は甘えちゃうのかも」
「甘えられてた感じはしないけどな」
「じゃあ、もっと甘えさせてもらわないと。キミとの思い出は、これからもずっと大事にしたいし────」
そう言うと氷川は突然、軽い足取りで駆け出していってしまう。
何も説明されないままで、いまいち状況が飲み込めない中。とある一角を物色している姿を遠くから眺める。
少しして再び駆け足で戻ってきた氷川は、あるものを差し出してきた。
「これ。お揃いにしない?」
「これって、亀のキーホルダー?」
このレジャー施設の名前が刻まれたプレートと、水色の亀がぶら下がったキーホルダー。
氷川の手元を見ると、そっちではピンク色の亀が揺れていた。
「見かけたときに良いなって思ってたんだ。これを見れば、キミのさっきの言葉も思い出せるし。記念にピッタリでしょ?」
記念品なんて、そんな買うタイプでもないけれど……。
泳ぐように揺れる亀を見ていると、自然と口角が上がってきた。
「そうだな。これなら良いかも」
氷川とのお揃いは、これが初めてというわけではない。
初めての寄り道で、ゲームセンターに行ったときに取った小さなぬいぐるみ。
部屋に飾ってあるそれにも、思い出は詰まっていて。
そしてこの亀のキーホルダーも、今日のことを鮮明に思い出させてくれるのだろう。
「良かった。気に入ってくれて」
「これでいつでもこの旅行を思い出せるな」
「でも、さっきの言葉も期待してるから。これからも楽しいこと、いっぱいしようね」
二日間の長いようで短かった旅行は、どこかハプニングも多くて。距離感に戸惑うこともあったけれど。
それでもやっぱり氷川との時間は心地好いと、改めて思わせてくれるものになった。




