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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ
第2章

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第50話 眠れなさそうな夜


「前田くんにお願いしたいことがあって……」


 ホテルの一角。狭いスペースに設置されている自動販売機の前のベンチで、氷川はそう切り出してくる。


「お願い?」


「実は明後日、お父さんが日本に帰ってくるみたいでさ。そのときに前田くんに会いたいって言ってるの」


「俺に……!? っていうか、明後日!?」


「うん。どうかな……?」


 確か、氷川の父親は海外で仕事をしてるんだっけ。

 長期休みには帰ってくるとも前に言ってたけど、急な話すぎて驚きの気持ちが大きい。

 ただ、それ以上に衝撃的なこともあった。


「ちょっと待て。俺のこと親に話してるのか?」


「たまに電話したときに……。学校のことで話せるのって、キミとの時間くらいだから……」


 言いづらそうにそう答える氷川。

 中学での出来事を思えば、確かに学校の話もするんだろうが……。


「なんか恥ずかしいんだけど」


「お父さんは、前田くんのこと良く思ってるはずだから大丈夫だよ……!」


「何も大丈夫ではないような……」


 心配しているのはそこじゃない。

 俺が氷川の両親と会ったとして、どんな挨拶をすればいいのか困ってしまうのだ。

 それに異性の親に挨拶とか、恋人がするようなことにも思えるし。


「お父さんにもお母さんにも心配かけてるから……。ちゃんと友達もいるって安心させたくてさ」


 俺が答えに渋っていると、胸の内を明かすように氷川がポツリと呟く。

 そんな風に言われて断れるほど、俺は薄情な人間じゃない。


「……分かった。空けておくよ」


「……っ! ありがとう、前田くん」


「にしても、そんなに緊張することなかっただろ」


「断られたらどうしようって思ってたから……。親に会ってほしいとか完全に私の事情だし」


 気が抜けたのか、綺麗な顔が崩れてふにゃっとした笑みを浮かべる氷川。

 どれだけ緊張していたんだって、つられるように俺も笑ってしまったけど、きっとそれだけ真剣に考えていたんだろう。


「まあ、紹介する友達が俺でいいのかって思いはあるけど」


「それ、他に友達がいない私の前で言っちゃう?」


「ご、ごめん……」


「ううん。でも、前田くんは私にとって大事な人だから。キミが良いんだよ」


 氷川のこういう一面には、やっぱりドキッとさせられる。

 演じることなく、俺に見せるこの表情を学校でも見せることが出来たら……。

 少しは過ごしやすくなるんじゃないかと思うんだけどな。


「そういう言葉、真正面から伝えられると照れる……」


「ふふっ。じゃあ前田くんを困らせたいときはこうしよう」


「なんで氷川は恥ずかしくないんだよ……」


「それは秘密っ」


「はぁ……。そろそろ戻るか。あかねに文句言われそうだからな」


「そうだね。私のわがままに付き合ってくれてありがと」




 部屋に戻ると母さんがすでに温泉からあがっていたようで。ぷくっと膨れて、ふて腐れてるあかねをなだめていた。


「やっと戻ってきた~。遅いよお兄!」


「ごめんね、あかねちゃん。私がちょっと引き留めちゃったから」


「藍さんが? もしかして────」


「違う。お前が想像してるようなことじゃない」


 こいつは何かあると、すぐそういう方向に持っていこうとする……。


「あらあら、また迷子になっちゃったかと心配したわ~」


「あかねと一緒にしないでくれ」


「私もお兄と一緒にされたくないっ」


「うふふ。元気なのはいいけれど、明日も朝ご飯はバイキングみたいだから。今日は早めに寝ちゃいましょ」


「夜もバイキングだったのに朝まで……。贅沢すぎるじゃんっ。お父さん、ありがとう……」


「どんなタイミングで感謝してんだよ……」


 そもそも、朝からそんなに食べられる気がしないんだけどな。

 寝る前だというのに、あかねは相変わらずのはしゃぎっぷりだ。

 そんな姿を見て呆れながら、俺は窓際に敷かれている布団に入る。


「あたし、藍さんの隣ねっ」


「いいよ。寝相が悪かったらごめんね?」


「藍さんになら、お腹を枕にされても平気なのでっ」


「お前、そろそろ鬱陶しいって言われるぞ」


「お兄、変なことしたら潰すからね?」


「だからどこをだよ! 蹴るとか潰すとか、その言い方やめろ」


 氷川とは一番離れているし、変な気を起こすつもりは本当にない。

 ただ、さっきのベンチでした会話がどうにも忘れられなくて。

 跳ねる心臓が落ち着くまでは、なかなか眠れなさそうだった。


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