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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ
第2章

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第48話 トラップorハプニング


 滑り台に乗ってからというもの、どこか氷川との距離感は掴みづらくなっていて。

 その原因を作ったやつに文句の一つでも言ってやりたいところだったけど、姿がなかなか見つからなかった。


「ったく、あかねのやつ……。どこにいったんだか」


「もしかして迷子になっちゃったのかな?」


「あいつに関してそれはないだろ」


 ああ見えてあかねは結構賢いほうだ。その能力をズル賢く使っているけどな。

 迷子なんて子供っぽいミスはするようなやつじゃない。


 ひとまず、あらかじめ集合場所として決めておいた、プールに入らず座ってゆっくりしている母さんの元へと戻ることに。

 ただ、その先でかけられた第一声は、冗談を言ってる場合じゃないと思わせてくるものだった。


「あら、あかねは一緒じゃないの?」


「むしろ、母さんのとこに戻ったと思ってたんだけど」


「一度も見かけてないわよ。もしかしてはぐれちゃった?」


 その問いかけに、俺は答えることが出来なかった。

 それだけで事情は察したようで、母さんの表情は心配そうなものへ変わる。


「迷子センターに行ったほうがいいかしら……」


「もう一回探してみるよ。三十分後にまた戻ってくるから、母さんはここにいてくれ」


「あかねちゃん心配だし手分けして探そうか?」


「いや、氷川を一人にするのは……。変なやつもいるだろうし」


「そうねぇ。藍ちゃんも行くなら二人で行ったほうがいいと思うわ」


 これだけの人の数なんだから、探す目は多いほうがいい。

 でも、水着姿の氷川を一人で放り出せば面倒なことが起こるのは想像できる。

 そして、それはあかねにも言える話で……。

 俺は氷川と一緒に、再び賑やかなプールのほうへ向かった。


「多分、滑り台の辺りから遠くには行ってないよね」


「だろうな。悪い、せっかくの旅行なのにあかねのペースに巻き込ませて」


「ううん。これだけの人混みだし私だって迷子になってたかもしれないし」


「そうじゃなくて、滑り台の件も。あんま得意じゃなさそうだっただろ。それに、あの距離の近さも……」


 あのときのことを思い出すだけで、背中の感覚までもが脳内で再現されて顔が熱くなる。


「……あれは、引き返すことだって出来たんだから。私の選択だよ」


 氷川にしてはボソッとした声で。それでもハッキリとした自分の意思。


「……だとしたら、他の人のときはそんな選択しないほうがいいぞ。あれは近すぎだから……」


「他の人とはプールすら行かないよ。それに、前田くんだから良いかなって思ったの」


 そんな言葉を聞いて、思わず隣を歩く氷川を見るけど、ゴーグルをかけているせいでその表情は分かりにくかった。


「ねぇ、前田くん。あれ……!」


 俺の頭が本来の目的に集中できていなかったときだった。

 突然そんな声をあげて、ある方向を指差す氷川。


 長く綺麗な指先を目で追ってみると、そこには見覚えのある水着のやつが。


「え~ホントですか?」


「マジマジ。めっちゃ可愛い!」


「俺たち、何人かで集まって飲む予定なんだけど一緒にどう? 女の子もいるから安心だよ」


 案の定、ろくでもないやつに捕まっていたか……。

 演技だろうけど、満更でもない顔するな。


「はぁ……。見捨てて帰りたい」


「ダメだよ。助けてあげないと」


「……氷川は後ろにいてくれ。何も言わなくていいから」


 ああいう輩は自分で突き返せるのがあかねだけど、変に相手の怒りを買うことになっても面倒だ。

 俺はため息をつきながら、あかねとナンパ男二人に近づく。


「あかね、探したぞ!」


「あっ、お兄!」


「お兄……?」


 男が話しかけてくると思ってなかったのか。それとも、お兄という言葉に反応してか。

 ナンパ男たちは、俺のほうに怪訝そうな目を向けてきた。


「妹に何か用ですか?」


「えっ、あ~。妹さんが可愛かったんで、良ければご飯でも~って誘ってたんすよ」


「中学生に手を出そうとしてるんですか?」


「はっ? 中学生!?」


「はい! あたし、中二なのでっ。まだ純粋な子どもをナンパするとか最低ですね」


 あっ、これはスイッチ入ったな……。あかねの満面の笑顔が怖い。

 出来れば、あかねが直接口を出す前に済ませたかったんだけど……。

 さすがにマズイと思ったのか、ナンパ男二人は見るからに焦りだしていた。


「いやいやいや、知ってたら声かけてないんだけど」


「ってか、マジで時間の無駄だったな。ブラコンのガキとか興味ないわ」


 どうしてナンパ男の去り際は、相手を貶して去っていくのか。

 追い返せたのは良かったものの、やはり関わりたくない人種だ。

 そんな俺の気なんて知らないとばかりに、迷子の愚妹は気楽な表情を浮かべていた。


「藍さ~ん。探しにきてくれてありがとうございますっ!」


「大丈夫だった? あんな人たちの言葉、聞かなくていいからね?」


「クズ人間の言葉なんて気にしてないのでっ!」


 これだけ毒舌に返せる余裕があるなら、メンタルは大丈夫そうか。

 あかねのこの強さだけは、不本意ながら凄いと思う。


「おい、それより氷川に謝ることあるだろ」


「迷子になってごめんなさい!」


「そうじゃなくて……」


「それより藍さん、ショー観たかったんですよね? もう少ししたら始まるみたいなので行きましょ!」


「えっ、ちょっとあかねちゃん……」


「だから、話を……」


 相変わらずの慌ただしさだけど、あかねにとってはあれがマイペースなのだろう。

 あの調子だと、いつまた迷子になることやら。

 でも、ひとまずは無事に見つけられて内心ホッとしていた。


 集合場所に戻ると、母さんと氷川が移動の準備をしている隙に、あかねが話しかけてくる。


「ねえ、どうだった?」


「なにが」


「滑り台だよ。藍さんとくっつけたでしょ?」


「あんなこと二度とするな」


「はっ? せっかくあたしが気をきかせたのに、感謝の一つもないの?」


 この妹ときたら……。やっぱりかわいくない……。

 にしても、やっぱりこいつが仕組んだことだったか。


「お前な。あれ、二人での乗り方を知ってるか?」


「ああ~。ふ~ん」


「なにニヤニヤしてんだよ」


「別に~? やっぱお兄は気持ち悪いなって思っただけ~」


 せっかく助けてやったのにこの仕打ち。拳を頭に落としても文句を言うやつはいないよな。

 ぜひともこいつには、しおらしさという言葉をぜひ覚えてもらいたい。


 こうして、プールでのハプニングの連続は終わりを迎えたのだった。


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