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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ
第2章

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第45話 浮かれ気分は俺も……


 わずかに揺れるバスの車内の空気は、どこか高揚感で満ちている。

 それもそのはずで、このバスの行き先は南国をモチーフにしたリゾート施設。

 夏休みも中盤に差し掛かったこともあってか、座席はかなり埋まっていた。


 そしてすぐ隣には、メガネをかけたほうの氷川ひかわが。

 窓の外を見つめるその姿に、俺の目は奪われそうになる。


「何か見えたか?」


「ううん。特別なものはないけど、普段は見ない景色って面白いから」


 やることが限られるバスの車内で、流れていく景色を楽しむとは。なんて大人な楽しみ方だろうか。

 それと比べて前の席の妹きたら……。


「ん~、これも美味しそうだなぁ」


 景色なんかよりもパンフレットを見て、何を食べるのか考えるのに夢中みたいだ。


「ねねっ、せっかくの旅行なんだからいっぱい食べてもいいよね?」


「なんだかんだお金も浮いているし、少しくらい贅沢しちゃいましょうか」


 いつもお金には厳しい母さんだけど、今回は少し甘めになっている。

 その理由は乗っているこのバスにあって……。レジャー施設の宿泊者には、無料で送迎バスを出してくれるサービス付きなのだ。

 宿泊代もかからなければ、交通費もかからないという。なんとも家計に優しい旅行だった。


「氷川は何か調べたりしたか? 食べたいものとか、遊びたいアトラクションとか」


「うん、行ったことなかったからね。ショーを見てみたいのと、せっかく行くなら全部回りたいと思って。迷わないように地図は頭に入れておいたよ」


 これから行く施設ってめちゃくちゃ広かったよな……。

 落ち着いた声で話す氷川だけど、その表情にはどこか、楽しみだという気持ちが滲み出ているように見えた。


「そっか。急に声かけたからどうかと思ってたけど良かった」


「むしろ、誘ってくれてありがとうだよ」


「こちらこそ。あのままだとチケットが一枚無駄になるところだったからな」


 去年までだったらそのまま無駄になっていたか、そもそも行かなかっただろう。

 この数ヶ月で新しい家族が増えたみたいな……。

 そんな感覚を氷川はもたらしてくれていた。


「にしても、少しだけ意外かも。前田まえだくんってレジャー施設とか興味なさそうだから」


「宿題にうんざりしてたし、気分転換にちょうどいいかと思ったんだよ」


「結構進んだ?」


「全く。頑張って進めてはいるけど、これは終盤まで残るコースだな。氷川は?」


「私は八月に入った辺りで終わっちゃった」


「マジかよ……」


「家だとやることないし。せっかく課題があるならやっておこうかなって」


「いくらなんでも真面目すぎるだろ。あかねなんか、最終日に徹夜コースだと思うぞ」


「お兄、イス倒すね」


「ダメだ」


「聞こえな~い」


 盗み聞きされていたようで、前の席がゆっくりと倒れてきて俺のスペースが狭くなる。

 こいつ、もしかして窓側じゃなくて通路側に座ったのはイスを倒すためか……。後ろが氷川だったら倒せないもんな……。

 相変わらずの妹の計算高い身勝手っぷりにため息が漏れる。


「ふふっ」


「どこに笑う要素があった……?」


「いや、やっぱり妹とかいると賑やかそうでいいなって。私って一人っ子だから」


「実際に妹が出来たら、そんなこと言えなくなるぞ」


「そうなのかな?」


「こいつと一週間も過ごせば、そんな気持ちは絶対になくなる」


「お兄、聞こえてるからね~?」


「聞こえるように言ってるからな」


「ふふふっ、やっぱり羨ましいよ」


 こうして話していると、新しく姉が出来たような感覚になる。いや、妹なのか……?


 そんなことを考えたときに、ふと、氷川の誕生日とかを知らないなと思った。

 この数ヶ月、氷川の色々な面を見たつもりだったけど、まだまだ知らないことのほうが多いもんだ。


 この旅行中に、また何か新しい一面を見ることが出来たらいいな……。


 その後も氷川と話していると、時々、あかねが入り込んできたりして。

 暇だと感じる瞬間もなく、バスでの時間はあっという間に流れていった。





「やっと着いた~!」


「本当に目の前まで送ってくれるのねぇ」


「母さん、荷物忘れてる」


「あら、ごめんなさい。上の棚に置いたんだったわ。私も浮かれすぎてるわね~」


 バスを降りるとき、母さんの手にバッグが一つ足りないことに気づいて声をかける。

 きっと母さんの言った通り、どこか浮かれて注意が散漫しているのだろう。


 そして、バスを降りて立ち尽くす氷川もまた同じ気分のようで。


「おお、本物だ」


「なんだよ、その反応」


「だって、ネットで見たまんまだと思って」


 大人びているいつもの様子とは違って、目をキラキラさせている氷川の反応がなんだか子どもっぽくて面白かった。


「にしても、入り口からすごい人だな。いくら夏休み中とはいえ混みすぎだろ」


「有名な施設みたいだからね。普段から混んでるみたいだよ」


「へぇ、そんな有名だったのか」


 南国をモチーフにしたリゾート施設のホテルとだけあって、外観の細かなところからもその雰囲気を感じられた。

 っていうかさっきから思ってたけど、めちゃくちゃ調べてきてるよな……。

 表には出さないようにしているみたいだけど、氷川の素直な気持ちが見え隠れして微笑ましくなる。


「先にチェックインだけしにいきましょうか。藍ちゃんは荷物大丈夫?」


「はい、私はこのリュックだけなので」


「藍さんっ、荷物置いたらプールですからねっ!」


「うん、分かってるよ」


「お前、はしゃぎすぎて突っ走るなよ」


「そうよ、迷子になったら大変だし。藍ちゃんに迷惑かけないようにね」


「中学生なんだからそんなことになるわけないでしょ」


 会話一つの声のトーンからしても、全員どこかテンションが高いような気がする。

 かくいう俺もこの空気に乗せられたのか、無意識のうちに足の運びが早くなっていた。


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