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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ
第2章

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第44話 幕間──旅行の準備


 この夏休みは、私にとってどこか特別だ。


 いつもとは違う────経験したことのない夏。


 数日前に送られてきたメッセージの画面を閉じて、私は顔をあげる。

 行き交う人々をボーッと眺めていると、明るさと慌ただしさが混じった声が聞こえてきた。


「あっ、あいさんいた! ごめんなさい、遅くなっちゃって」


「ううん。まだ時間より早いし遅れてないよ。私が早く来てただけだから」


「でも、藍さんを待たせるなんて……」


 あかねちゃんと待ち合わせをしていたのは、家から少し離れたところにある大型ショッピングモール。

 普段のお買い物でもあまり来ることがないから、改めてその大きさに驚かされる。


 それにしても、あかねちゃんはもう少し気楽に接してくれてもいいのになぁ……。


「そんな気にしなくていいよ。でも、来る途中に何かあった?」


「バスでちょっと寝ちゃって……。ごめんなさいっ!」


「ふふっ、大丈夫だよ。バスの揺れって気持ちいいもんね」


「それもあるんですけど、実は昨日の夜、水着のリサーチも止まらなくて。いつもより寝るのが遅くなっちゃったんです……」


 前田くんから送られてきたお泊まり旅行のお誘い。

 今日はその旅行先のプールで着る水着を、あかねちゃんと二人で買いにきたのだ。

 突然のことだからビックリしたけど、私にとってはちょうどいい機会でもあった。


「花火大会のときから少し空いたけど、何か夏休みらしいことはした?」


「全然っ! お母さんは遊んでくれないし、お父さんはほぼ仕事だし……。お兄はずっと家にいるから鬱陶しいし!」


「あはは……」


「でも、プールに行けてお泊まりまで出来るなら満足です! しかも、藍さんと一緒に行けるんですからっ」


「私も旅行は久しぶりだから楽しみなんだ」


 両親は仕事で忙しかったし、そもそも中学でイジメられてからは外に出ること自体が少なかった。

 前田くんと出会って、前までの私じゃ考えられなかったことばっかりだ……。


「じゃあもしかして、プールとかも行ったことなかったり?」


「一回も行ったことないよ。今日誘ってくれなかったら、学校の水着で行くところだったくらい」


「スク水の藍さん!? それはそれでレアだったかも……」


 たまに、あかねちゃんの反応って面白いとこあるよね……。


「学校だとみんな一緒でしょ。だからこそ今まで困らなかったけど……。私に似合う水着なんてある気がしないよ……」


「あたしが必ず見つけ出してみせます! あっ、お店着きましたよ」


 話ながら歩いていると、あかねちゃんがリサーチしてくれていたお店に着いたみたい。

 水着なんて買おうと思ったこともないから分からないことだらけだし、ここは頼らせてもらおう。

 ただ、店内に入ると目につくのは、知識の少ない私でも想像通りのものばかりで。


「やっぱりビキニタイプ多いね……」


「布面積が多いほうが、藍さんは好きなんです?」


「まあ、人に見せれるほど良いスタイルじゃないし」


「だったら、藍さんより背が低くてちんちくりんなあたしの身体はどうなるんですか」


 私としてはいつもの調子で口にしてしまったけれど、あかねちゃんの言葉でしまったと思った。


「そ、そういうつもりじゃ……。あかねちゃんは私と違って可愛らしいのが似合うじゃん」


「子どもっぽいって意味で?」


「違うよ。ごめんって……」


「ふふっ、冗談です」


 フォローするつもりで言った言葉で、さらに傷口を広げそうになるし。

 嫌いな自分のことだとしても、人前で口にするものじゃないなと思わされた。

 とにかく、笑顔になってくれたあかねちゃんにホッとする。


「周りの目なんか気にする必要ないんですよ。あっ、でも藍さんの場合はお兄の目を……」


「前田くん?」


「お兄の心を掴むなら、こういう水着とかどうです?」


 そう言ってあかねちゃんが手に取ったのは、王道の形のビキニ。

 思いの外、柄が派手というか……。


「こういうのもありますよ~」


 気が進んでいないのが顔に出ちゃってたのか、私が何かを言う前にあかねちゃんは別の水着を持ってきてくれる。

 ただ、それはさらに私の表情をひきつらせるもので。上なんてかなり布面積が少ないものだった。


「そんなに胸元が開いたやつは……。それこそ、そこはあんまり自信ないし……」


「でも、これ着てるモデルさんだってそんなに大きくないですし」


「モデルさんはきちんと体型管理してるしフォルムが綺麗だから。私が同じなのは身長だけだよ」


「むむむ……。藍さんはもっと自信もっていいのに……」


 注文ばかり悪いとは思うけれど、自信を持つことだけは出来そうにない。

 自分でも探してはいるものの、どうしても私には似合わないって思っちゃうし。

 こうして考えると、私の性格で水着ってなかなかに相性が悪い気がしてくる。


「それなら────これ、かな……」


 ネガティブ思考に陥ってるときでも、あかねちゃんは真剣に選んでくれていて。

 三たび持ってきてくれたのは、前の二着よりもかなり落ち着いた雰囲気のもの。



「これくらいなら。私でも着れるかも」



 見た瞬間、自然と言葉が口から出ていた。

 むしろ、これがいい。心の中でそんな気持ちも芽生えだす。


「良かったですっ。絶対に似合いますよ!」


「探してくれてありがとね。でも、私のばかり見てもらっちゃって、あかねちゃんの水着は大丈夫?」


「ふっふっふっ、あたしは決めてきたんです!」


 そう言うと迷う素振りすら見せずに、決めていたという水着を取りに行くあかねちゃん。

 ただ、その手に持っていたのは、私が着るわけでもないのに苦笑を浮かべるしかなくて。



「どうですか!!」



 持ってきたのは、今日手に取ったどの水着よりも際どいものだった。

 ちょこっとついてるフリルは可愛いかもしれないけれど……。


「いやぁ、あかねちゃんには少し早い気がするなぁ……」


「藍さんに正直に言われるほど!?」


 中学生でその水着は、色々と問題がある気がする。

 なんでもいいから理由をつけて止めなくては。

 そんなことを思っていたら、さっき見た中で、あかねちゃんに似合いそうな水着があったことを思い出す。


 あかねちゃんが普段から着ているガーリーな雰囲気の服に近い水着。


「これ、見かけたときに似合うと思ってたんだよね。どうかな?」


「えっ、可愛い~! 藍さん、あたしの好み理解しすぎですっ!」


 水着を買う────私の人生ではしたことない経験だ。


 こんな夏を知っていいのかな。


 こんなに楽しんでいいのだろうか。


 それに、数日後にはもっと楽しいことだって待っているはず。


 もし、この日々を失ったときがきたら、知ってしまった輝きばかり追い求めてしまう気がして不安になる。

 それでも、私の胸の高鳴りが静まることはなかった。


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