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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ


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第4話 そのままって……


「なぁ、帰りにゲーセン寄らね? なぎさも今日は部活休みだろうし。遊介はどうせ暇だろ?」


「僕はいいけど透也とうやはいいの? 彼女のほうは」


「あぁ……昨日、喧嘩した……」


「またお前が何かやらかしたんだろ……」


 帰りのホームルームが終わるなり、そんな話になる。

 星野には、中学三年の夏から付き合ってる彼女がいた。部活の大会で会った他校の生徒らしく、俺は会ったことはないけど。


「今回ばかりは俺は謝らないからな」


 そう言い張る星野の姿に、俺は二階堂と顔を見合わせ苦笑を浮かべた。


「発散しなきゃ、やってらんねえっての」


「落ち込んでるとこ悪いな。今日は予定があるんだ」


 付き合ってやりたいとこだけど、今日の放課後は先約がある。


 約束した人物────氷川のほうをチラリと見ると、ちょうど教室から出ていくところだった。


 昨日と同じ場所でいいのだろうか……。

 そんなことを考えていると、星野にジトっとした視線を向けられていることに気づく。


「なんだよ」


「……怪しい。彼女か?」


「ちげぇよ。いるように見えるか?」


「まぁ、無いわなっ!」


 こいつ、自分が彼女持ちだからって……。

 俺は無言で抗議の視線を向けるけど、実際にいないのだから強くは言い返せない。


「にしても、遊介が予定なんて珍しいね?」


「色々あんだよ。俺はいいから、二人で遊んできてくれ」


 それじゃあな。そう言い残すと、軽い鞄を持って俺も教室を出る。

 途中まで一緒に帰ろうと言われたら断りきれる気もしないので、早足で一階へと降りた。



「あれ、来たんだ」



 昨日の場所に着くと、ちょうど地味なメガネ女子に変化した氷川が出てくるところだった。


「遅くなって悪い」


「私は大丈夫だけど友達は良かったの? てっきり、そっちに行くのかなと思って」


「いやいや、氷川が先約だし。あいつらのほうは断ってきたよ」


「そうなんだ」


 そんな相づちと共に、今度は氷川にジトっとした視線を向けられる。

 今日はよく怪しまれるなぁ。何も悪いことはしてないのに、その視線に何故だかドキっとしてしまう。


「……並んで歩いてたら、私は前田くんの彼女に見えるのかな?」


「はぁ!? な、なに言ってんだよ急に……」


 思わぬ言葉に飛び出してしまった大きな声が、俺たちだけの廊下に響き渡る。


「ふふっ、冗談。けど、キミの友達が怪しんでいるみたいだったから」


 また氷川の策略にハマってしまった。これはイケメンムーブなのか、からかってるだけなのか……。


「馬鹿なことを……って言いたいとこだけど、今日ばかりは気にしないとだな」


「この姿で勘違いされても、私に害は無いから別にいいけどね」


 昨日は、学校のときの癖で素のときもイケメンムーブをしてしまうって言ってたけど……。これはもう天然だろ。サバサバした性格だからとかのレベルでもない。


「俺に害があるから困る」


 いくら氷川だとバレなくても、俺の場合は女子と歩いてるのがそもそも不自然だ。知り合いに見られたら俺が困ってしまう。



「じゃあ、ちょっと時間潰そっか」



 そうして俺たちは、ほとんど使う人のいない階段に腰をかけた。


「にしても、俺には氷川の素の姿を見せてよかったのか? あのまま黙ってたら気づかなかったと思うぞ」


「あ~。それはね、キミは私に気がないなって思ったから」


「気がない……。そんなことで?」


「私に近寄ってくる人たちってさ、付き合いたいとか、自分のスクールカーストを上げたいとか……。そういう気持ちが透けて見えるんだよね。その点、キミはそういうことはないでしょ?」


「まあな……」


 確かに俺は、氷川に対して恋愛感情を抱いているわけでもなければ、特別友達になりたかったわけでもない。


「そういう人たちといると疲れちゃって。ほら、私って本当はこんな人間だから……」


 膝に頬杖をつきながら自嘲気味に言う氷川。

 俺はそんな様子を、ただ黙って見つめた。


「その反応だって、いかにもキミらしい。普通の人なら、そんなことないよって言ってくるのに」


「俺もそう言ったほうが良かったか?」


 氷川がそんな慰めを求めてないことは聞かなくても分かっている。あそこで何か言ったところで、薄っぺらい嘘だとすぐにバレるだろうし。

 それでも俺は、そんな言葉を投げかけてみた。


「ううん。そんなキミだから、私は気持ちが楽でいられるんだし」


 やっぱり人気者は大変そうだなとつくづく思う。

 だけど同時に、少し引っ掛かることも出来て。


「理由は分かったが、邪な気持ちを持ってないやつなら他にもいると思うんだけど。星野だったり、二階堂だったり……って分かるか?」


「さっき教室でキミと話してた人たちだよね。そうだなぁ……」


 二人のことも知っているようで、その名前を聞くと氷川は悩む素振りを見せる。


「う~ん、あの二人もダメかな」


「理由は聞いてもいいか?」


「私に理想を持っているんだろうなって感じる。私にこう居てほしい、私ならこれも出来るんだろう……みたいな」


「なるほど」


「ごめんね。キミの友達のことなのに」


「気にしなくていい。氷川の言う通り、理想像みたいなのは持ってそうだからな」


 まさに、星野からそんな感じの言葉を聞いたことがある。二階堂からだって、氷川にはテストで勝てないとよく聞くし。


「私は、みんなから理想を抱かれるほど大層な人間じゃないよ」


 相変わらずの自嘲気味の笑みを浮かべながら呟かれた言葉。

 けど、それを聞いた瞬間、さすがに否定しすぎだとも思った。


 例えばこの外見の変化を作るにしても、相当な努力をしてきたはずだ。たいして人に興味がない俺でも、それくらいは分かる。


 そんな努力を出来る人が大層な人間じゃなかったら、最低限のことしかしない俺は何になると言うのか。


「暗い雰囲気にしてごめんね。今の愚痴は聞かなかったことにして」


「愚痴なんて誰でも言いたくなるだろ。それを聞いたからって、氷川に対する見る目が変わるわけじゃないし」


 人は誰だって表と裏があるだろう。そして大抵の人間は表で仮面をつけているわけで。

 もともと、氷川に対して特別な興味があったわけでもないから、俺の中でなにかが変わることはない。



「ありがとう。キミはそのままでいてね」



 穏やかな笑みを浮かべたあと────独り言ちるようにそう口にした氷川。



「そのままで?」


「ううん、なんでもない。そういえば、お願いは決まった?」


 露骨に話を逸らされた気がするけど、氷川はいつもの明るさに戻っていた。

 ここで追及するよりかは、俺も一旦忘れることにしておこう。


「……どうしても何かお願いしないとダメか? これといって特に浮かばないんだよ」


「キミは無欲すぎ。常識の範囲内なら何でもいいんだよ? デートしたいとか、女子の手料理が食べたいとか、男子高校生なら思うだろうに」


「どんな偏見だよ……」


 飄々としながら、とんでもないことを言ってくる。

 話して数日の女子とデート出来るほど、俺の心は強くない。

 手料理だったら、お菓子とかで簡単に済ませられるだろうか……。これ以上考えたとこで何も出てこないだろうしな。


「じゃあ、その手料理でお願いするよ。お菓子とかちょっとしたのでいいから」


「手料理ね、作ってきたお弁当を渡すのとかでも大丈夫?」


「いや、そんなしっかりしたものじゃなくても……」


「気にしなくていいの。いつもお昼はお弁当作って持ってきてるから。そのついでだよ」


 俺たちの通う高校には学食があるから、弁当を持ってくるのは女子でもかなり珍しい。

 手間をかけさせることになってしまうけど、これで氷川の気が収まってくれるなら、俺としては受け入れるしかない。


「それじゃあ、明日のお昼をお楽しみに」


「あぁ、男子高校生らしい反応が出来るように俺も心の準備をしておくよ」


「ふふっ。時間も潰れたしそろそろ帰ろっか」


 そう言って立ち上がった氷川の表情に、どこか影を感じたのは俺の気のせいだろうか。


作品を見つけていただきありがとうございます。


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