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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ
第1章

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第34話 可愛い姿


 太陽はまだ高いところで輝いているという時間なのに、我が家はどこか忙しなかった。

 花火大会は夜からだけど、はりきった母さんはもう準備を始めている。


「ちょっと遊介、藍ちゃん迎えに行かなくていいの?」


「何回か来てるんだし大丈夫だろ。心配性だなぁ」


「あんたねぇ……。ちゃんとエスコートできるのかしら」


「余計なお世話だ」


 俺は花火が始まる時間に合わせて行けばいいと思っていたけど、それを聞いた母さんと妹から大批判をくらってしまった。

 その二人に押されれば、逃げられるわけもなく。結果として、夕方前には家を出て屋台とかを見て回る予定になったわけだ。


 母さんとの会話から少しすると、インターホンが聞こえてきて俺は玄関へと向かう。


「わっ、前田くんか。ビックリしたぁ」


「なんでそんな驚くんだよ……」


「あかねちゃんが出てくると思ってたから」


「分からなくもないけど……。まぁ入れよ、母さんが待ってる」


「ありがと」


 扉を少し開けただけで伝わってくる夏の暑さに、今から嫌な気分になる。

 だけど、そんな暑さを消してくれるような清涼感が今日の氷川にはあった。


 ────真っ白なワンピース。


 夏らしいといえば夏らしいんだけど。氷川らしいかといえば、少し意外に感じた。


「今日はなんか服の印象が違うんだな」


「……似合ってない?」


「……いや、似合ってると思う」


 浴衣も楽しみではあるけど、このワンピース姿が見れなくなるのは名残惜しいと感じてしまうほどに魅力的だった。

 メガネをかけているんだけど、雰囲気が学校の感じというか……。

 なんか、素の氷川とイケメン氷川の間のような今日の氷川。

 そんな姿をまじまじと見ていると目があって、気まずくなってしまう。


「藍ちゃんいらっしゃい。待ってたわよ~。さっそく取りかかりましょうか!」


「は、はい。今日はよろしくお願いします……!」


 俺よりも待ちわびていたんじゃないかってくらいに興奮気味の母さんが、すぐさま和室の方へと氷川を連れていく。


「あんたも着替えておきなさいよ~」


「分かってるよ」


 一応、俺も甚平があるけど、一人でも簡単に着れるやつだからすぐに終わる。


 今から着替えて甚平で待つのもな……。

 少し時間をもて余すことになった俺は、ひとまずソファにドサッと座り込む。


「あっ、お兄。藍さんは?」


 インターホンが鳴ったのを聞いてか、あかねも二階の自分の部屋から降りてきたみたいだ。

 あかねのほうも友達と花火大会に行くようで、今日は玄関で氷川を待たずに準備をしていたとか。


「ちょうど今、母さんと和室のほうに行ったよ。お前はいいのか?」


「う~ん……あたしはやっぱりやめとく。浴衣って可愛いけどそんな楽じゃないし」


「そういうもんなのか」


「藍さんの浴衣姿が拝めれば、あたしは満足!」


「おいおい……」


 女子中学生とは思えないおっさん発言だな……。


「お兄、藍さん見失ったらダメだからね? どこのゴミ虫が寄ってくるか……」


 いつになく真剣な表情で詰め寄ってきたかと思えば、ぶつぶつ呟くあかね。

 まぁ、それは身に染みて分かってることだからな。

 ってか、ゴミ虫って……。そんな言葉遣い、兄はお前の将来が心配だよ……。


「一応、母さんの暴走に付き合わせた責任は感じてるからな。嫌な思いはさせないよう気を付けるさ」


 肩をすくめながら、俺はあかねにそう伝える。

 こうして俺と氷川が二人で花火大会に行くことになったのも、原因は母さんだ。

 決めたのは俺たち自身と言われたらそれまでだけど。


 思いのほかさっきの氷川の表情が楽しみにしてそうだったので、良い思い出になってほしいと思う。



 早めに甚平に着替えようとソファから立ち上がったとき、服の裾を掴まれた感覚があった。

 振り返ると、何か言いたげな表情のあかねが。


「なんかまだあるのか?」


「……頑張んなよ」


「はっ? なにが?」


「……うっさい! お兄のば~か」


 情緒の忙しいやつだな……。

 顔を真っ赤にしたあかねは、不機嫌そうな態度を丸出しながら和室のほうへと行ってしまった。


「お兄のばか、ば~か!」


 去り際にももう一度言い残して……。

 そんなあかねに呆れはするけども、どこか憎めないやつだなと────閉めていった戸襖を見つめながら思った。





 氷川が浴衣を着付けてもらってる間に、俺の着替えは終わってしまいスマホをいじりながら時間を潰す。

 これなら、もう少しゆっくりしていても良かっただろうか……。

 早く準備してしまったあたり、俺も母さんのことは言えないなと思う。



「完成よ~! うん、すっごい可愛い!」



 そんなこと考えていると、母さんの声とともにリビングと和室を遮っていた戸襖が開かれた。


 そこに立っていたのは────ピンク色の浴衣を着た氷川の姿。


「どうかな、前田くん……」


「に、似合ってるよ」


「ありがと、なんか照れるね……。前田くんも似合ってる」


 短い氷川の髪だけれど、緩く編み込まれながら後ろで留められていて────正直に言うと可愛らしかった。


 編み込まれずに残った髪はフワッと巻かれているから、雰囲気もまた普段と違う。

 なんというか、すごく女の子っぽいなと思ってしまった。


「藍さんマジ可愛すぎ! 写真撮りましょ!」


 見るからにテンションの高いあかねは、氷川が言葉を発する前にもうシャッターを切っている。


「やっぱり藍ちゃん、お顔がすごく整ってるのよね~。だからやりがいあったわ」


「メガネ外すと、全然雰囲気違うんですね!」


「外すともっと可愛いのに。普段からコンタクトにする気はないの?」


「メガネのほうが落ち着くので……」


 学校ではコンタクトなんだけどな……。やっぱり母さん、地味に鋭いとこがある。


「もっと藍ちゃんとお話したいところだけど、そろそろ行かないと混んでくるんじゃない?」


「花火大会なんていつ行っても混んでるだろ」


「なら、はぐれないように……ね?」


 何が言いたいんだこの母親は。なんとなく分かるけども、分かりたくない自分がいる。


「お兄はズルいな~。こんな可愛い人と浴衣デートなんて、一生分の運使い果たしたね」


「運は使い果たしたかもな。だが、デートじゃねぇ」


「あはは……。まあ、デートでもいいんじゃない?」


「おいおい、氷川まで……」


 どうやら、テンションが高いのは全員同じみたいだ。

 どこか特別な高揚感に包まれながら、母さんと妹に見送られて、俺たちは家を出た。


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