第33話 やはり、この母と妹は……
「はい、藍さん。お肉焼けたよ~」
「ありがとう、あかねちゃん」
夏休み最初の月曜日────氷川を家に招いて、バーベキューパーティーを開いていた。
コンロの周りは夏の暑さに負けない熱気で満ちている。
「うん、美味しい!」
「えへへっ、あたしもお肉食べよっと」
「あっ、おい! それ俺が焼いてた肉」
「お兄、細かすぎ。 ん~美味しいっ」
せっかく大事に育てあげた肉だったのに……。俺の目の前で焼いてるものまで取ってくるから、油断できやしない。
網の上で焼かれる食材を、思い思いに取って味わっていく。
俺は、いい感じに焼き色のついた海老を箸で掴んで口へと運んだ。
うん、プリっとした食感に海老のうま味が溢れ出してきて美味しい。
「うふふっ、どんどん食べなさいね~」
「は~い! あっでも、ここで食べ過ぎたら今度の海で水着が着れなく……」
「その分、動けばいいだろ」
「毎日引きこもってるお兄には言われたくない!」
普段は面倒くさがりなあかねだけど、夏休みとかの行事では不思議なことにアウトドア派になる。
多分、周りに乗せられやすい性格なんだろうな。
「前も思ったんですけど、藍さんって普通に食べてるのにどうしてそんな細いんですか? 何か秘訣があったりとか!?」
「そんな秘訣なんて……。私も休みの日は引きこもりがちだし」
「え~。だとしたら神様は不公平だぁ」
「あはは……。一つ言えるとしたら、食べる量よりもバランスに気を付けてるかな」
「バランス……?」
「ようは、野菜も食べろってことだろ」
「ぐぬぬ……」
あかねは好き嫌いが多いもんな、特に野菜が。
俺から見たら、別にスタイルを気にするほどでもないと思うけど……。
これを言ったら理不尽な罵りをされるのが目に見えてるから、あかねには黙っておこう。
「そういえばあんた、藍ちゃんとどこか遊びに行かないの? 海とか夏祭りとか」
「行かねぇって。友達とですら計画立ててないんだし」
「これだから、引きこもりは」
本当にこの妹は憎たらしい……。大人数で海や夏祭りに行くとか、漫画や映画の中だけのイベントだろ。
「あのなぁ。お前が想像してるような陽キャなんて、本当にごく一部だぞ?」
「私も前田くんと似たよう感じだしね。今のところ、何も予定ないし」
「それなら、週末にやる花火大会にでも行って来なさいよ!」
「んっ、げほっげほっ!」
「へ……っ?」
母さんから飛び出た爆弾発言に、思わず咳き込んでしまった。
氷川だってポカンとしてるし、無責任にそんなこと言うのはやめてもらいたい。
「そういうのはカップルが行くもんだろ! 俺たちはそんな関係じゃない」
「そんなことないわよ~。仲が良ければ花火大会くらい普通に行くわ。ねぇ、藍ちゃん?」
「ええっと、そうなんですかね……?」
「そうよ! 使ってない浴衣もあるし、藍ちゃん似合うと思うのよ」
「浴衣……」
「あたし、藍さんの浴衣姿見たい!」
「なんでお前が乗り気なんだよ……」
二人の勢いが強すぎて、氷川からしたら断りづらい雰囲気になってきている気がする。
「氷川だって、俺なんかとは行きたくないだろ。圧をかけてたら断りにく────」
「ぜひ、お願いします」
「…………はっ?」
真っ直ぐ放たれた氷川の言葉は、予想をしていなかったもので。理解するのに少し時間がかかってしまった。
理解をしたらしたで、今度は素っ頓狂な声が出て上手く言葉を紡げない。
「良かったわ~! 髪とかも可愛くしてあげるから、楽しみにしててちょうだい」
「あたしも、久しぶりに浴衣着よっかなぁ」
「ま、待ってくれ! 氷川、本気で言ってるのか?」
まだ頭の中で整理をしている最中なのに、勝手にどんどん話が進んでるし……。
動揺を隠しきれないまま、和気あいあいとした空気に割って入るように俺は氷川に聞いた。
「うん、最近お祭りとか行ってなかったから。ダメかな?」
その上目遣いは正直ズルいと思う。
これを断れるやつは、よっぽど心ないやつだけだぞ……。
「だ、ダメじゃないけど……」
「はいはい! あたしも行く!」
「あかねはダメよ。二人だけでデートさせてあげなさい」
「デートじゃねぇから!」
「ぶー。お兄ズルい」
「お前は友達と行くんじゃなかったのかよ……」
ボケが二人いると、突っ込みも追いつかなくなってくる。
結局、母さんとあかねに乗せられるような形で、氷川と花火大会に行く約束が決まってしまった。




