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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ
第1章

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第32話 夏休みの始まりは


 月曜日の昼近く────平日だというのに、こんな時間でも寝転がっていられるなんて……。これほど幸せなことはあるだろうか。

 ベッドに寝転がりながら、ただぼーっとスマホをいじる。


 高校はというと、先週で一学期が終わり夏休みに入っていた。

 さすがに夏休み一週目から外出する気にはなるわけもなく。だらしない日々の始まりを楽しんでいる。

 そもそも全体で見ても二、三回外出すればいいほうだけど……。

 そんな中、部屋の外では騒がしい音がしていた。


「遊介、そろそろ起きなさ~い。手伝ってほしいことがあるの。間に合わなくなっちゃう」


「はぁ……しょうがないな」


 今日は、氷川を家に招いてバーベキューをするんだとか。

 あかねが母さんにお願いして勝手に話を進めてたらしく、俺も昨日知った。氷川のほうは、それなりに前から知ってたみたいだけど……。


 時計を見ると、約束の時間まではあと三十分くらい。

 とりあえずボサボサの髪だけでも整えておこうと部屋を出る。

 まだ寝ぼけた足取りで、リビングへ降りていくと────テーブルの上に置かれた大量のカット野菜が目に入った。


「おいおい、野菜だけでこの量って……。いくらなんでも張り切りすぎだろ」


 ここに肉や海鮮が加わると考えたら、到底四人で食べきれる量だとは思えない。


「残ったら夜ご飯のときにお父さんに出すから、大丈夫よ~」


 呑気に微笑む母さんを見て、俺は不安な気持ちでいっぱいになる。

 そんな中でふと、母さんよりもテンションが高いであろう人物がいないことに気づく。


「あれ、あかねはどうしたんだ?」


「藍ちゃんのこと出迎えるって、玄関で待ってるわ」


「あいつ……」


 すっかり氷川に惚れ込んでるな……。愚妹の行動には呆れてため息が出てくる。


 俺はそのまま洗面所へと行き寝癖を直すと、一応別の部屋着にも着替えて身なりを整える。

 最低限の清潔さは、ちゃんとあるよな……。


「あれあれ~? 誰かと思ったら、普段と違いすぎて分からなかったよ~」


「白々しい芝居はやめろ。っていうか、お前のほうが違いすぎるだろ……!」


「やだなぁ。あたしはいつだってこうでしょ」


 嫌味ったらしい声が聞こえてきたほうへ視線を向けると俺はギョッとした。

 そこにいたあかねの服装が、出かけるときの気合いが入りまくったものだったからだ。

 髪こそ下ろしているけれど、それ以外のところは家ではまず見ないオシャレモード。


「お前、それでバーベキューするつもりか?」


「バーベキューって言っても、焼くのはお兄なんだから。この服装でも困らないでしょ?」


「お前はもてなす側だろ。客と同じ扱いを受けられると思うな」


「わざわざあたしが、藍さんとの約束を取り付けてあげたんだから! そんなこと言うなら、もう手伝ってあげないけど?」


「そもそも頼んでない。お前が言い出したことなんだから、責任もっておもてなしするんだな」


「むぅぅ……」


 これ以上は付き合っていられないと、頬を膨らましてふてくされているあかねを放って、俺は庭のほうへ行く。


 もうすでにコンロは設置されていた。近くのテーブルには、炭や着火剤などの必要な道具が置かれている。


「さっそく取りかかるか……」


 作業に取りかかろうとしたとき────来客を告げるインターホンが鳴り響いた。


「は~いっ!」


 すぐに遠くから、あかねの声が聞こえてくる。

 うっすら聞こえた声だけで、ウキウキなのが伝わってくるあの浮かれよう……。


 俺は呆れながらも、慌てて火起こしへと取りかかる。

 片手で数えられるほどしかやったことないから、あまりスムーズとは言えない手つき。


「あら~いらっしゃい、藍ちゃん。今日も可愛いわね~」


「すみません、少し早く来てしまって。今日はお招きいただきありがとうございます」


 開いてる窓からそんな氷川の声が聞こえてきた。

 視線を向けると、ちょうど目が合う。控え目に手を振られたから、俺も軽く手を上げて返しておく。


 今日の氷川はメガネをかけた素の姿で、私服を見るのも二度目だった。

 暗い色でかためられた落ち着いた雰囲気を感じるファッション。制服じゃない氷川はやっぱり見慣れない。


「そんなかしこまらなくていいわよ~! いっぱい用意したから沢山食べていってね?」


「はい、ありがとうございます」


「藍さん、こっちがあたしの部屋です!」


「あかね、もうすぐ準備出来るんだから後にしなさい」


「えぇ~。じゃあ後で、メイクのこととか教えてくださいね?」


「私が力になれるか分からないけどいいよ」


 確かに、氷川はある意味で変装の達人だもんな。メイクのことにもそりゃ詳しいかと俺は一人思う。

 でも、あかねは学校の氷川を知らないはずだよな……。

 知らずにお願いしてるとしたら、我が妹ながら中々に鋭いなと感じた。


「やっほ、前田くん。何してるの?」


「あぁ、火起こしだよ。無理やり手伝わされてな」


「お~本格的なんだね」


「鉄板で焼くのじゃ面白くないからって、母さんが……。なんか張り切ってんだよなぁ」


「あははっ、でもいいと思うけどな。一人だとまずこんなことしないし」


 そう言われるとそうだよな……。大がかりな準備だってあるし、それなりに人数がいるからこそやれるものでもあるのか。

 氷川のその言葉で、何となく母さんが張り切る理由も理解できて……。俺も少しだけ作業に熱が入ってくる。


「何回かやってるけど中々難しいんだよな、これが……」


「流石の私も、火起こしはしたことないから。頑張れ……っ!」


 リビングに戻るでもなく、コンロを挟んだ反対側から見守り続けている氷川。

 そこからは静かな時間が流れるけど、不思議と気まずさはなくて。二人で火がつくのをじっくりと待った。


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