第29話 幕間──ある日の休日①
鏡を見ながら、櫛を使って最低限に髪を整える。
黒一色の地味な服に、いつものメガネをかけたら────普段の私の完成。
出掛ける準備が十分ほどで終わるなんて、女子高生として良いのかとたまに思う。
でも、これが私の性格なんだからしょうがない。
キラキラした姿は、やっぱり落ち着かないから。
私は別にアウトドア派じゃないし、わざわざ休日に外出しようとは思わないんだけど……。
それでも外に出たのには、ある人に誘われたからって理由があった。
メガネをかけた暗い姿を受け入れてくれる、数少ない人────
「藍さ~ん! ここです~!」
待ち合わせ場所の時計台の下で、無邪気に手を振っている小さな女の子。
名前を呼ばれたから、人が多くてもすぐに見つけられた。
「ごめんね、あかねちゃん。待たせちゃったかな?」
「いえ、さっき来たとこですから大丈夫です!」
待ち合わせのお決まりみたいな言葉を交わす私たち。
今日は、あかねちゃんに誘われてショッピングに来たのだ。
休みの日に、こっちの地味な姿で誰かと出かけるのなんて何年ぶりだろう……。
「今日は洋服を買いに行くんだよね?」
「はい、藍さんに選んでほしいなって。あと、藍さんのお洋服も見に行きましょ!」
「私、ファッションとか詳しくないよ?」
「全然大丈夫です! 藍さんの感想が大事なので!」
誰かの服を選んだことなんて一度も無いから、不安しかない。
あかねちゃんからは、ちょうど一週間前にメッセージをもらった。
前田くんには内緒って言われたから黙ってたけど……私だけで良かったのかな……。
「この間も思ったけど、あかねちゃんってオシャレだよね」
「えへへっ、可愛いお洋服を着るだけでテンションあがるので」
高い位置で結われたツインテールに、とても可愛らしいロリータファッション。
この間もこんな感じの服を着てたから、好きな雰囲気なんだろうなぁ。
「藍さんも、シンプルな服を着こなせて凄いなって。大人の女性って感じで憧れます!」
「あはは……これは地味なだけだよ」
「それは悪く言い換えすぎです」
正直、こんな地味な服装で隣を歩いていいのかなとは思ってしまう。
学校での私の姿なら、まだ見れる絵だったかな……。
「でも、スカートとか着たくなりません? ミニスカートとか、フリルのついたものも似合いそうなのに」
「スカートは制服だけでいいかなぁ。あと、オシャレしてると知らない人に声かけられそうで嫌だし」
具体的には────ナンパ。
そういうのがあったから色々と繋がって、あかねちゃんとの出会いや、今の時間もあるのかもしれないけど……。
だとしても、あまり気分の良いものじゃない。
「確かに。あたしもさっき待ってる間にナンパされました」
「えぇ!? 大丈夫だった?」
「はい! 声低くして口悪く返したらどっかいっちゃいました」
「それは……なんとも……」
「大体、中学生にナンパしてる時点でドン引きなので」
確かにその通りではあるんだけど……。
あかねちゃんって、この見た目でメンタル強いからなぁ。少し分けてもらいたいくらい。
「まぁ、私のこの地味な服はそういうのを避けるためでもあるから」
「そう言われると強くオススメしづらいんですけど……。でも、藍さんだって私が着てるようなお洋服も似合うと思うんですよ」
「さすがにそれは……私には無理だって」
改めてあかねちゃんの服装を見ながら、頭の中で自分が着ているところを想像してみたけど────全くもって似合うイメージが湧かない。
「今日はせっかくのショッピングなんですから! 試着だけでもガンガンしていきましょ!」
「あはは……お手柔らかに……」
間違いなく、あかねちゃんペースで進んでいく。
そう確信した私は、苦笑を浮かべながらも素直に付き合うことにした。




