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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ
第1章

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第28話 結果とプレゼント


 授業の終わりを告げるチャイムが鳴れば、教室は一気に騒がしく────ということはなく、様々な反応が。

 期末テストも無事に終わり、徐々にテストの結果も返ってきていた。

 クラスのやつらは、その点数に一喜一憂しているというわけだ。


 俺はいつも通りの平均点くらい。可もなく不可もなく。俺にはこれくらいの点数で十分だろう。


「渚、見てくれ! 赤点回避~!!」


「ホント!? やったじゃん! って、あれだけやったのにこんなギリギリ……」


 それを聞いて、俺も星野のテスト用紙を覗き込んで確認するけど────どの教科もかろうじて赤点回避してるものばかりだった。


「星野の点数が急に上がっても、不正が疑われそうだけどな」


「あははっ、それはそうかもね」


「おいおい、もうちょっと労ってくれても良いだろ」


 ギリギリとは言っても、今回は星野も見逃してもらえるだろう。


 先月は彼女との喧嘩、今月は期末テストで親に別れさせられそうになってるんだもんな。立て続けにカップルの危機だったってのに、よく続いてるよ……。


「そういや、このあと順位表張り出されんだろ? 渚は入ってるだろうし見に行こうぜ」


「えぇ……どうせ一位は取れてないからいいよ」


「張り出される中に入ってるだけ凄いだろ」


 この高校では、合計点の上位三十人が張り出される形で発表されている。

 俺や星野の名前はまず無いだろうけど、前回三位だった二階堂の名前は今回も確実にあるはずだ。


「ほらほら、行くぞ! 人が集まってきちまう」



 そうして俺たちは、一年生の順位が張り出される掲示板の前にやってきた。

 まだ休み時間が始まったばかりなのに、かなりの人数が掲示板の前に集まっている。


「結構見に来る人いるんだな」


「自分の順位が気になるやつもいるだろうけど、やっぱ氷川さんだろ」


「あぁ、そういうことか」


 人気者パワー恐るべしだな……。


「はいは~い、道開けて」


 少しすると、大きな模造紙を持った教師がやってきた。その教師は生徒の間を縫って掲示板の真ん前まで進んでいく。


 そうして、丸まった模造紙の上の部分が画鋲で止められると────紙が開かれた。



 一位 氷川 藍  八七一点


 二位 二階堂 渚 八三九点


 三位 斉藤 彩乃 八二六点



「おっ、二位に上がってんじゃねぇか、渚!」


 模造紙が開かれた瞬間にあがった周りの歓声に混じって、星野が大きな声で反応する。

 だけど、順位表を見上げる二階堂の表情は曇っていた。


「氷川さんは手強いなぁ……」


 大興奮の周りとは対照的に、ものすごい落ち込みようだ。

 少なくともこの場にいる人間では、一番高い順位だろうに……。


 そんな二階堂を慰めようかと思ったけれど、周りから聞こえてきた言葉が俺の喉を締め付ける。


「やっぱ藍すごいね~」


「元から持ってるものが違うんだよ」


「藍は天才だから」


 興奮した様子で呟かれる氷川を称える声が、辺りをどんどん満たしていく。


 ────天才だ。何でも出来る。元々が違う。


 まるで、氷川が何もせずに学年一位を取ったと言うような言葉。

 自分のことではないはずなのに、何故だか俺はこれ以上聞きたくないと思った。

 





「氷川、おめでとう」


「急にどうしたのさ?」


「期末テストの順位が張り出されてただろ。それを見てな」


「あ~そういうこと」


 その日の帰り道、一緒に帰る氷川にも順位表の話を振ってみた。


「あんま興味なさそうなんだな」


「実際、興味ないかな~。張り出されたやつも見てないし」


「そうなのか?」


「見に行くより前に、周りが教えてくれるから」


 そう言われると……順位表が張り出された後の教室では、氷川の席に集まる人がいつもより多かった気がする。


「断トツで一位なんだから、少しはテンション上がってるのかと思ったよ」


「前回は嬉しかったけどね。今回は周りの期待があったから……。仕方なく一位を狙ったって感じ」


「それで実際に一位取れるの凄いけどな……」


「まぁ、勉強は努力をすればそれなりに結果が出るし」


 その言葉、星野に聞かせてやりたい。

 氷川の努力は、なかなか真似できるものじゃないだろうけど。


「何か自分へのご褒美とかはあるのか? 簡単そうに言ってるけど、そういうのがないとやってられないだろ」


「ないない。私の醜い欲望から始めたことだから。特別なことは何もしないよ」


 それを聞いて、なんとも寂しいなと俺は思った。

 自分の、他人の理想に追い込まれるだけのプライベートなんて。


「楽しみを作らないとつらくならないか?」


「……勉強やめて成績落とすほうが怖いから。私に度胸があったら、とっくに今の姿を見せてるよ」


 そう言われてしまっては、俺は何も返せなかった。



「ホント、天才って一言で片付けられちゃうから勘弁してほしいよね」



 冗談めいたように明るい声を作って言っているけど────また、この無理をして作った笑みだ。


 心から笑った顔も知っているからこそ、この顔を見ると複雑な気持ちになる。

 なにか自然と笑顔にしてやれることはないか……。

 そう考えたときに、俺の目にあるものが写った。


「……! 氷川、ちょっと待っててくれ」


 一言そう言い残すと、横断歩道を渡った先にあるオシャレな外観の店へと俺は走った。





「お待たせ、氷川」


「大丈夫だよ。でも、なんでケーキ屋さん?」


「ほら、こんなんで悪いけど……。一位祝いってことで」


 そう言って俺は、ショートケーキとシュークリームの入った小さな紙箱を差し出した。

 さっき駆け込んだ店は、自分じゃまず入ることのないケーキ屋だ。


「えっ、私に……?」


「ご褒美があると、少しは気分的にも楽になるかと思って……」


 一応、初めて女子にプレゼントみたいなことをするから変に緊張してしまう。


 こんなものでも、氷川の気分を明るくさせられるだろうか……。


 おそるおそる様子を伺うと、氷川はケーキの箱を見つめて固まっていた。


「え、えっと……」


「……ふふっ。じゃあ、前田くんの優しさに甘えるとするよ」


 急に吹き出したかと思えば、氷川が真っ直ぐ手を伸ばしてきて────その手が、俺の手と重なった。


 全体的に細くて、長い指。


 俺より少し小さいその手を感じると、妙に呼吸が早くなる。



「こんなご褒美があるなら、次も一位目指さないとな~」



 瞳を弧にして無邪気に頬笑む氷川。



 その表情に、俺は一瞬で目を逸らした。



 なんだろう、今の感覚は……。



 自分でもよく分からなかった。。



 そのまま背を向けるようにして、先に足を進める。



「ほどほどにしてくれよ。じゃないと俺の財布が空になるから」



 こんなことで氷川の気が少しでも楽になるのなら────次のテストのときは、一緒に楽しめるものを考えておこうと思った。


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