第25話 波乱の勉強会①
「だぁぁ……ちょっと休憩しね?」
「まだ始めて三十分も経ってないよ? もう少し頑張ろうよ……」
「二階堂の言う通りだな。このままだとまた赤点取るぞ」
駅前のファストフード店にやってきた俺たちは、さっそくテスト勉強に励んでいたわけだが……。
開始三十分も経たずに、星野の集中力はもう切れてきてる。
「ほら、無理にやっても効率が悪くなって覚えらんないだろ?」
「せめてあと十分。ギリギリなんだから、頑張らないと別れることになるよ?」
「分かったよ……」
周りにも、ノートと問題集を開いて勉強をしてる学生がそれなりに見える。
同じ制服だけじゃなく、見たことない制服の人もちらほら。
「あっ、あれ氷川さんじゃね?」
ついさっき────数十秒前に再び問題集にとりかかったはずの星野は、レジのほうを指差してそんなことを言い出した。
本当に集中力ないな、こいつは……。
「そんなこと言って、誤魔化そうとしないの!」
「いやいや、マジだって」
「僕は騙されないからね」
「俺が嘘ついたことないだろ」
二人の言い争いを尻目に、レジのほうを確認すると────
「おい、本当なのかよ……」
「えっ?」
俺の声に反応して、二階堂も半信半疑といった様子でレジのほうを見る。
「本当にいたんだ……」
「だから言っただろ?」
どうやら氷川は、隣に並ぶ二人の女子と一緒に来てるようだった。
「一緒にいるやつって誰だ……?」
長い黒髪のおとなしそうなやつと、髪色が明るくて見るからにギャルなやつ。
なんで氷川が、正反対と言えそうな二人を連れてるんだか……。
「大沢さんと今野さん。一応同じクラスだよ、遊介」
「マジか……」
全く記憶にないもんだから、二階堂の言葉に衝撃を受ける。
あんまりクラスメートには興味ないけど、俺ってそこまで覚えてなかったのか。
「氷川さんもこんなとこ来るんだな」
「だね、カフェとかで勉強してそうなイメージだった」
確かに意外ではある。二人とは違った意味でだけど。
前に話したとき、氷川は一回しか寄り道したことがないと言ってたはずだ。
それなのにクラスメートとこんなとこに来るなんて、どういう風の吹き回しだろうか。
俺が考えているうちに、注文した商品を持った氷川たちがこちらへと歩いてきていた。
その様子を見てニヤッと笑った星野に、嫌な予感を抱く。
「おい、何か変なこと考えて……」
「お~い、氷川さん!」
こいつ、やりやがった……。
先に制止しておこうと思った俺の言葉を遮って、声をかける星野。
その声に気がついた氷川は、真っ直ぐ俺たちの座る席に近づいてきた。
「星野くんだ。二階堂くんに……前田くんも。偶然だね」
「この間はありがとな、無事に仲直り出来たからマジで助かったわ」
「解決したなら良かったよ」
二人がやり取りを交わす中、俺はふと氷川の後ろに立つ人物に目がいく。
ギャルっぽい方のやつが、鋭い目付きを星野に向けている。
他のやつは気づいてないようだけど……。
せっかく氷川と勉強できる機会なのに邪魔しやがって────といったとこだろうか。
「キミたちもテスト勉強かい?」
テーブルに広げられたノートや問題集を見てか、氷川がそんなことを聞いてきた。
「あぁ、渚にみっちりと絞られて……」
「ちょっと、透也のためでしょ?」
「あはははは……」
「こいつ、次に赤点取ったら親に別れさせられそうなんだよ」
「またカップルの危機ってわけか。大変みたいだね」
事情を聞いた氷川が苦笑いを浮かべる。
だけどすぐに、何かを思い付いたような笑みに変わって────
「ねぇ、私たちもここに混ぜてもらわない? 大勢で勉強したほうが楽しいだろうし」
氷川は突然、後ろに立っていた二人に向かってそう言い放った。
「えっ、でも……うちは藍に教えてもらおうと思って……」
「うんうん、私も」
大沢と今野の様子を見ていると、三人だけで勉強したいんだろうなというのが伝わってくる。
「けど、私一人で二人を見れるか自信ないんだよね。二階堂くんも頭いいし、前田くんも成績は悪くないはずだよ」
氷川の言葉に、俺は内心でズルいなと思ってしまった。
そんな言い方をされたら、今野と大沢の立場なら断れるわけないだろう。
「……藍がそう言うなら」
「私も、藍が良いなら……」
「というわけだけど、キミたちはいいかな?」
「俺はいいけど。二人もいいよな?」
「もちろん」
「……いいんじゃね」
そして、この流れになると俺のほうも断れなくなってしまう。
イケメン女子モードの氷川、恐るべしだ……。
いかにして学校生活を乗りきっているのか。その一端を、俺は身をもって体感した。




