第14話 氷川の気持ちと、自分の想い
「キラー出ろキラー出ろぉぉ」
「いいや、一着は譲らないよ」
「あぁぁぁぁ……藍さん強すぎ……」
大きなテレビに向かって三人並んで座る俺たちは、レーシングゲームで白熱した戦いを繰り広げていた。
もっとも、白熱したのは最初の数十分だけだったかもしれないけれど。
「マジで強いな。ホントに初めてか?」
「もちろん、そんなとこで嘘つかないって」
ゲームを始めてから約一時間────最初の内は拮抗した勝負だったものの、氷川が慣れてきてからはもう無双状態。
やっぱり覚えが早いというか、元から持ってるセンスも違うのだろう。
「もうすぐご飯出来るわよ~」
そんな俺たちに向かって、キッチンのほうから母さんが呼び掛けてくる。
「ちょっと待って。藍さん、あと一戦!」
「ふふっ、食べ終わったらまたやろ? せっかくのご飯が冷めちゃうよ」
「そうだな、氷川の言う通りだ」
「むぅ……」
あかねは頬を膨らませてふてくされてるけど、いつもよりは素直にコントローラーを置く。
この素直さは氷川の影響だろうな……。
ゲームに一区切りを付けた俺たちは、ご飯の準備が進められてるテーブルのほうに移る。
「えっ、なにこれ。今日めっちゃ豪華じゃん!」
テーブルを見ると、料理の乗ったお皿が隙間無く並べられていた。
あかねが驚くのも納得できるほどで、普段の食卓ではまず見ない料理ばかり。
「藍ちゃんに食べてもらうって思ったら、気合いが入っちゃってね~」
「なんか、すみません……」
「だったら毎日藍さんに来てもらえば……」
「おい、あかね」
他人を利用して悪巧みを考えるあかねの頭に、俺は軽くチョップを入れる。
氷川はというと、母さんの張り切りを見てか、少し申し訳なさそうな顔を浮かべていた。
まぁ、友達の家に来てこんなものを出されたら誰でも気まずくなるよな。
「母さんも、流石にこれは気合い入れすぎだって」
「だって、藍ちゃんに前田家を気に入ってもらいたいじゃない! それと、あんたの将来のことを思ってよ?」
そんなことだろうと思った。言い返したところで、母さんのこのテンションは続くだろうな。
俺は言葉の代わりに、ため息を吐き出して流すことにした。
「そういえば、父さんは?」
テーブルには椅子が四つ。
父さん、母さん、俺、あかね────ここに氷川が入ると一つ足りなくなるけど、今はピッタリだ。
「さっき電話したら、今日は遅くなるから先に食べててって。あと、藍ちゃんのことを伝えたら面白いくらいに驚いてたわよ」
「藍さんに会ったら、お父さん腰抜かしちゃうかも。遊介がこんな美人さん連れてくるなんて……! とか言ったり」
「うふふっ、確かにそんな反応しそうね」
さりげなく俺への暴言を交えながら、父さんのモノマネをするあかね。
母さんもそれを見て大笑いをしていて。隣を見ると、氷川も楽しそうに笑っていた。
「はぁ……早くしないと冷めるんじゃないのか?」
「そうだったわね、それじゃあ食べましょうか」
いただきます────四人で声を合わせると、各々好きなものへと手を伸ばした。
いつも以上に賑やかな夕食の時間。隙間無く並べられていたお皿の上の料理は、気づけば綺麗になくなっていた。
「ごちそうさま! あ~毎日こんなご馳走だったらいいのになぁ」
「ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」
「藍ちゃんが喜んでくれたのなら、張り切って作った甲斐があったわ」
「藍さん、さっきのゲームの続きやりましょ!」
あかねはテンション高く立ち上がると、氷川の手を引いて連れていこうとしている。
「食べ終わったばっかだし、ちょっとは休憩させてやれよ……」
「ふふっ、大丈夫だよ。ありがとね、気遣ってくれて」
そう言って微笑みながら、あかねと一緒にソファのほうへと行ってしまった。
俺は食べすぎて椅子から動けそうにないし、悪いけどあいつの相手は任せるか。
「ごちそうさま、美味しかった」
「それなら良かった。……ねぇ、遊介」
「……なんだよ」
突然、母さんが真剣な声色で俺の名前を呼ぶもんだから身構えてしまう。
「ここだけの話、藍ちゃんのことはどう思ってるのよ?」
「は、はぁ!?」
しかし真剣だったのは一瞬だけで、すぐニヤついた表情に変えながら、こっそりと問い掛けてきた。
「なんだよ急に。別に、普通の友達としか」
「友達ねぇ。好き、とか高校生の男の子なら思うものじゃないかしら?」
母さんが更に踏み込んでくるもんだから、俺は振り返って氷川たちに聞こえてないか様子を見る。
どうやらゲームに熱中してて、こっちのことには気づいてなさそうだ。
「そんなの思ってないし、仮に俺がそんな感情を向けたら氷川も迷惑だろうよ」
「そうかしら?」
そして母さんも、ソファのほうでゲームをしている氷川を見ながら────
「藍ちゃんを見てると、あんたに気がありそうな感じもしたんだけどね」
「氷川が、か?」
流石に冗談だろうと思ったけど、母さんの表情には茶化すような笑みは一切なかった。
「それはないだろ。もう何十人の告白を断ってるみたいだし、恋愛は興味無いって言ってたしな」
自分に言い聞かせるように────俺は否定の言葉を口にして動揺を抑える。
「ふ~ん。なら、お母さんの勘違いだったのかしらねぇ」
そんな俺の様子を汲んでか、すぐに母さんは引いてくれた。
「でも遊介。女の子は興味の無い男の子の家には上がらないものよ。同じ女性からのアドバイスとして、覚えておくことね」
「……頭の隅にでもしまっておくよ」
俺の心だけじゃなく、氷川の心までも見透かすようなその言葉は、一言返すので精一杯だった。
「こんな時間だし、もう少ししたらお家まで送ってあげなさい」
時計を見ると、もう夜の八時を回っている。
熱くなった顔を冷まそうと、コップに残ったお茶を一気に飲み干した。




