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ナンパから助けた地味なメガネ女子の正体は、同じクラスのイケメン女子でした  作者: 結城ユウキ


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第15話 静かな本音


 夕食を食べ終えてから────今も氷川とあかねは、レーシングゲームで白熱した勝負を繰り広げていた。

 だけど、時間も遅くなってきたしそろそろ終わらせどきだろう。

 勝負に一区切りがつくのを待ってから、俺はテーブルからソファのほうに移動する。


「氷川、もう遅いし家まで送るよ」


「えっ、一人で帰れるし大丈夫だよ?」


「ダメよ、藍ちゃん。女の子がこんな時間に一人で出歩くなんて。遊介じゃ頼りないかもだけど、いないよりは効果もあると思うの」


 相変わらず母さんは、俺への信頼があるんだかないんだか……。


「そういうことだ。そんなに遠くないんだし、気にするなって」


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな」


「おう、任せろ」


「藍さんもう帰っちゃうんですか? もっと遊びたいのに……」


「もうすぐ夜の九時なんだぞ。氷川だってやることあるかもしれないだろ?」


「……また遊びに来てくれます?」


 俺にはふてくされた顔をするくせに、氷川には甘えるような顔を向けるあかね。やっぱり態度が違いすぎるだろ……。


「もちろんだよ、また遊びに来るね」


 氷川は微笑みながら、約束とでも言うように小指を差し出す。

 小さい子どものお世話をさせてるみたいだな、とその光景を見て思ってしまった。




 準備をすると俺は氷川と一緒に玄関へ。見送りのためか、母さんやあかねもついてくる。

 靴を履こうとしたとき────ガチャ、外から鍵を開ける音が響いた。そして、すぐに玄関の扉も開く。



「ただいま……おわっ!」



 タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど父さんが仕事から帰ってきたみたいだ。

 玄関に家族勢揃いなのもあって、ずいぶん大きく驚いている。


「あら、おかえりなさい」


「おかえり、父さん」


「おかえり~」


「た、ただいま……。えっと、そっちが氷川さんかな?」


 いまいち状況を飲み込めてないらしい父さん。俺の隣に立つ人物を見て動揺したのが声で分かった。


「はじめまして、氷川藍です」


 父さんにまで会うと思ってなかったのか、やや緊張気味に顔が強張る氷川。

 そんな挨拶を聞いてか、父さんはうっすらと口角を上げると、緊張を解すかのように優しい声色で語りかけてくる。


「はじめまして、氷川さん。遊介の父です。母さんから聞いた通り可愛らしい子だね」


「そんなことないですよ。それより、急にお邪魔しててすみません」


「いやいや。これからも気軽に遊びに来てくれていいからね? にしても、遊介がこんな美人さんを連れてくるなんてな……」


「ぷっ、んふふふふ……っ」


「あかね、笑うな」


 夕食前にあかねが父さんのモノマネをやったときと、全く同じ言葉が実際に出てきた。

 あかねはもちろん、あのモノマネを見ていた氷川と母さんも笑いを堪えている。

 家族全員、同じようなこと言わなくたっていいだろ……。

 そんなやり取りをしてる内に、玄関はすっかり和やかな空気になっていた。


「氷川さん。これからも遊介と仲良くしてやってくれるとありがたいよ」


「はいっ」


「じゃ、ちょっと送ってくるよ」


 父さんと位置を入れ替わるようにして、俺は玄関のドアを開ける。


「うぅ……また来てね、藍さん」


「また遊ぼうね? それじゃあ、お邪魔しました」


「またいつでもいらっしゃいね~」


 寂しそうな顔をするあかね、優しく微笑んでいる母さんに、氷川がそれぞれ挨拶を交わすのを見届けてから────二人で夜の住宅街へと繰り出した。





 まだ六月末だというのに、汗ばむような暑さが漂う夜の住宅街。

 広い感覚で設置されてる街灯の明かりが、俺たちの進む道を照らしてくれている。


「は~今日は楽しかった……!」


「色々とテンションのおかしい家族で悪かったな」


「いやいや、私の家っていつも静かだからさ。ああいう賑やかなの、いいなって思うよ」


 ふと、その声色から寂しさを感じて俺はハッとする。


 あかねのイタズラに腹立ったり、屁理屈ばかりでうるさいと感じることも────氷川からしたら日常では感じられないことなんだ。

 あかねのことだけじゃなく、帰っても親が家にいないってことはあんな夕食とかも出てこないわけで……。


 隣を歩く氷川に視線をやると、今日のことを思い返すかのように遠くの夜空を眺めていた。



「良かったら、また来てくれ。もっとあかねも遊びたがってたし、喜ぶだろうから」



「うん、そうだね。また今度」



 おそらく氷川からは言わないだろうし、言えないだろう。また今度、俺のほうから誘ってみよう。

 氷川が寂しいと感じる時間を減らせたら────無意識の内にそんなことを思っていた。



「あかねちゃん可愛かったなぁ」


「俺も、あんなあかね久しぶりに見たよ」


 いま思い出してみても、別人のような態度の違いだった。

 昔は、俺に対しても素直だったはずなんだけどな。


「確かに、前田くんにはツンツンしてたよね。仲悪いの?」


「仲悪かったら口もきかないだろ。ちょっとした反抗期みたいなもんじゃないか?」


「私には素直で可愛い子に見えたけど」


「氷川にはデレデレだったもんな。学校モードの氷川を見たら、また違った感じでデレそうだけど」


 今日のメガネ氷川を見て、俺の家族はきっと落ち着いた子だって思ったはずだ。

 そんな子が、学校ではイケメン女子の姿をしてるなんて想像もつかないだろう。


「そういえば……キミのお母さんに、学校での姿のこと見抜かれそうなときあって、ドキッとしちゃったよ」


「あれは俺もドキッてした。母さん、たまに鋭いとこ見せてくるんだよな……」


「ふふっ。キミのお母さんもお父さんも、どちらも良い人だったね」


「何事も伸び伸びやらせてくれるって点では、俺もいい親だとは思ってるさ」


「お父さんにも挨拶しちゃったし。なんか結婚の挨拶しにいったみたいだ」


「げほげほっ……!」


 俺の顔を覗き込んでくると、イタズラな笑みを浮かべてとんでもない発言をする氷川。

 母さんのテンション感が伝染したのだろうか……。


「おい、氷川までそのノリしなくていいから」


「あははっ。あのノリも楽しくていいじゃん」


「真剣に付き合っても疲れるだけだぞ」



「なんか────って思っちゃうけどな……」



「ん? なにか言ったか?」


 声が急に小さくなったから、しっかり聞き取れなかった。

 すぐに隣を見るけど、うつむいていて表情が分からない。


「ううん、なんでもない。今日はありがとうね、ここまでで大丈夫だから」


 顔をあげた次の瞬間には、よく見る外向けの雰囲気に戻っていた。



「あっ、ちょっと────」



「おやすみ、前田くん」



 俺が制止するよりも先に、氷川は街灯が照らす夜道を駆けていってしまった。



「おやすみ……」



 去り際のあの笑み────楽しくて笑うときとは違う、何かに思いを馳せてるような表情。

 そんな氷川の顔が、頭にこびりついて離れなかった。


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