第13話 紹介することになるなんて……
重い荷物を持っていたからか、行くときよりも長く感じた帰り道。
ようやく家に着いたと思えば、隣でずっと身軽そうにしていたあかねが大声で母さんを呼び出す。
「ただいま~。お母さ~ん、お兄が女の人連れてきたよ~!」
「お前な、言い方……」
「え~? 女の人なんて言って、どうせまたイラストじゃないでしょうね?」
誤解を招くあかねの言い方も気になったけど……。それ以上に酷い言葉が、部屋の奥から足音と共に聞こえてきた。
「それより、ちゃんとメモしたものは買ってきてくれた────」
玄関まで来た母さんは、俺の隣に立つ人物を見るなり動きが完全に止まった。
「こんにちは、氷川藍といいます。遊介くんとは同じクラスでして……。急にお邪魔してすみません」
丁寧な挨拶と謝罪を口にすると、頭を下げる氷川。
だけども、母さんからは何もアクションが無かった。
フォローをしたほうがいいかと思い、口を開きかけたそのとき────
「あら、大変! どうしましょう~。とりあえず上がって上がって! そんな頭なんか下げなくていいから。くつろいでいってちょうだいな」
ようやく動きだした母さんは見たことないほど大慌てだけども、氷川を迎え入れようとしてくれる。
そんな様子にホッとしていると、唐突にドヤ顔を向けてくるあかね。
ほら、あたしの言った通り────そんな言葉が聞こえてくるかのような顔だった。
「藍ちゃんもジュースでよかった?」
「はい、ありがとうございます」
俺たちはリビングのソファに座ると、母さんが三人分の飲み物を持ってきてくれた。
「にしても、こんなに可愛い子が遊介と友達なんてねぇ」
地味にヒドくないか、母さんよ……。俺だって正直思ってはいるけどさ。
「可愛いだなんて、私は全然ですよ」
「何言ってんの! 藍ちゃん、すごく綺麗な顔の作りじゃない。眼鏡外して、ちょっと髪型セットしたら、モデルさんにだって負けないと思うわよ?」
「あはは……」
母さんの言葉に、苦笑を浮かべて誤魔化す氷川。
学校でのイケメン氷川を、母さんは知らないはずだけど……。あまりにも的確すぎるもんだから俺までドキッとする。
「お菓子も用意するから、ちょっと待っててね」
俺たちの驚きなんて知らない母さんは、そんな言葉を言い残してキッチンのほうへと行ってしまった。
「あっ、藍さんのスマホに付けてるやつ可愛い!」
「でしょ? あかねちゃんは分かってくれて嬉しいよ」
ジュースを飲みながら視線だけ向けると、氷川のスマホについていたのは見覚えのある小さなぬいぐるみ。
一緒にゲームセンターに行ったときに取っていたものだった。
スマホに付けるくらい、氷川は気に入ってるのか。
「前田くんは、このぬいぐるみどうしてる?」
「ぶはぁっ! げほっ、げほっ」
「お兄、汚い」
「大丈夫? ほら、ティッシュ」
「ありがと……」
お揃いでぬいぐるみを持っていることをさらっとバラすもんだから、飲んでいたジュースを吹き出しそうになった。
あかねが知ったらスイッチ入りそうだし、あまりバレたくないんだけどな……。
「あ~どうしたっけかなぁ。それより氷川、最近ハマってるものはないのか?」
「えっ? どうしたの、急に」
「いや、気になったからさ」
「あたしも気になる!」
少し強引だったかもしれないけど、あかねも食いついてきてくれた。ナイスアシストだぞ、あかね。
「ハマってることかぁ。そういえば最近、ゲームが面白いなって思い始めてさ。それこそ、前田くんと一緒にゲームセンターに行ってから────」
「お兄とゲームセンター!? 藍さん、それってどういうことですか!!」
安心したのも束の間、話を逸らす作戦大失敗。
ものすごい速度で反応したあかねは、リビングに響くほどの声と勢いで詰め寄っている。
「え、えっと……どういうことって言われても」
助けを求めるような視線を向けられるけど、あかねの勢いは増す一方。
「付き合ってないのに、そんなデートみたいなこと! お兄に何か弱み握られてるんですか? そうでもなきゃ、こんなパッとしないお兄となんて……」
「あかね、とりあえず落ち着けって」
ソファから立ち上がるほど興奮してるあかねを、ひとまずなだめる。
このまま止めないと、地味に傷つくことを言われ続けそうだったし。
「むぅ……。あっ! そういえば、この小さな猫のぬいぐるみ……」
すると今度は、最初に話に出てたスマホのぬいぐるみをじっと見つめて、考え込むあかね。
「朝、お兄の部屋入ったときに机の上に飾ってあった! どうりでお兄らしくないと思ったら、そういうこと……」
「なに勝手に俺の部屋見てんだよ!」
さては、イタズラで目覚ましを設置しに来たときか。こいつ、勝手に部屋に入って勝手に人の秘密知りやがって。
そんなあかねはソファに座り込むと、何故かふて腐れた様子で俺への悪口を呟き始めた。全部聞こえてるからな、それ。
「前田くん、ぬいぐるみ飾ってくれてるの?」
あかねのテンションとは対照的に、キラキラした瞳で問い掛けてくる氷川。
完全に収集がつかなくなった状況に、俺は深いため息をつく。
「あんた、藍ちゃんとそこまで仲良かったのねぇ」
「母さんまで……」
お菓子を持ってきた母さんは、すごくニヤニヤしていた。
誰か俺の味方になってくれる人は、この家にいないのか……。
「藍ちゃん。親の私が言うのもあれだけど、この子は結構いい子だと思うの。ちょっとサバサバしてるけど、やるときはやる子よ。だから、これからもよろしくね?」
「母さん、恥ずかしいからやめてくれ!」
母さんの言葉で、俺の顔が一気に熱くなる。
「元々、遊介くんに助けてもらったのがきっかけで仲良くなったので。むしろ、私のほうがお願いする側ですよ」
高かったテンションから、いつもの落ち着いたテンションに戻った氷川。
さっきまでの無邪気なものとは違う、うっすらと微笑む外向けの笑みを浮かべていた。
「そんなことがあったのね。うふふっ、遊介もやれば出来るじゃない」
「もう勘弁してくれ……」
あのときの行動は俺らしくなかったと思っているから、掘り返される度に恥ずかしくなる。
「ほら、お菓子持ってきたから食べましょ。あかねも座りなさい」
「お菓子……? えっ、食べる!」
このやり取りしてる間も、呪文のようにブツブツ呟いてたあかねだったけれど、お菓子に釣られてテンション回復した模様だ。
「あっ、ねぇねぇ。藍さんと一緒に夜ご飯も食べたい! いいでしょ、お母さん?」
「え~? うちは良いけど、藍ちゃんのお家の人が困るんじゃないかしら」
「両親は仕事で帰りが遅くて、いつも一人で食べているので。もし、ご迷惑じゃなければ。すみません、図々しいお願いを……」
「それなら、ぜひ食べていってちょうだい。張り切って作っちゃうから!」
俺が入る隙もなく、あれよあれよと話が進んで────今日の夜は、氷川も一緒にご飯を食べることが決まった。




