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子豚令嬢は食べられたくない  作者: しののめ


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5

「私を食べないで!!」


と彼女が叫んだ時、私は電撃を受けたような衝撃と共に、前世を思い出した。


 私は国を一つ、滅ぼしたことがある。


 そして目の前の彼女は、豚だった。


 …………。


 自分でも何を言っているか分からないが、それは紛れもない事実である。


 いや、彼女ーーセルフィナの生まれは確かに人間で、そこは疑いようがない。


 ある日、ポール王子の恋人ーーセルフィナという婚約者がいる身分で他に恋人がいるなど、許し難いことだがーーであるタチアナが「良い豚が手に入ったので王子に献上します」と一匹の子豚を差し入れたらしい。


 丁度その時、王子と会食の予定があったのが、不幸の始まりだった。


 テーブルに乗った、程よい脂が乗った子豚。ナイフを入れるとすっと切れる柔らかさ。一切れ口に含むとーー上質な脂が口に広がる。とても美味かった。


 それと同時に、自分の中の溢れんばかりの魔力が、その肉が何であるかを感知した。

 ーーしてしまった。


(セルフィナ……!?)


 そのあとに何が起こったのか、全く覚えていない。


 が、私の頭には、密かに想いを寄せていた愛しい人の肉を食らったことにショックを受けて、魔力を盛大に暴走させた事実が記録のように残っている。

 もし、あの世界が継続してるのなら城ーーいや国は、全ての人間を巻き込んで木っ端微塵になっていることだろう。


 いや、魔力も爆発するだろう。愛しい人ーー豚を食べさせられたのだから。


 その時の魔力の暴走の副産物として、このやり直しが発生したということだ。


 ーーもはや、滅びた以前の世界など、どうでも良いことではあるが。


 どうやら彼女も前世を覚えているようで、呪いを回避する方法を探していた。魔法使いである自分の力を必要としているのが見て取れた。


 もちろん、彼女の力になりたいとは思う。同時に、私は計算した。

 彼女はまだ、誰のものでもない。ならば自分が婚約者に立候補しても良いのではないか、と。


 そんな折、向こうから婚約の話が持ち込まれたので、私は即座に承諾した。


 さて、セルフィナという少女の前世は、少しのんびりしたところがある心優しい少女であり、今世も変わらず、おっとりしていた。


 ただ、彼女がたまに「ブーブー豚さんブーブーブー」と鼻歌を歌っているのは、前世と異なるところである。


 彼女の豚に対する想いは複雑だ。


 可哀想なことに、豚として食べられた記憶があるようで、豚を食べることに忌避感がある。けれど豚になったことがあるせいで、妙に豚に対して親近感を覚えている節がある。


 屠殺場へ連れて行かれる豚を偶然見たセルフィナは、辛そうに目を伏せた。

 そんな彼女を慰めたいが、まさか領民に「豚食禁止令」など出すわけにもいかない。彼女だって、豚肉が国民の重要な栄養源だと知っているので、そんな馬鹿なことは言わない。


 しかし悲しむ彼女の心を少しでも慰めたくて、こう提案した。


「セルフィナ。もうすぐ建国者レチョンの生誕祭だ。その日に、食肉用の豚を二匹だけ、恩赦しよう」

「まあ! それは素敵なことですわ!」


 なお、この提案が以後、永遠にレチョン生誕祭の恒例になることを付け加えておこう。


 さて。

 私は、思い出したようにセルフィナの口から飛び出してくる「豚チェック」を、うまく切り抜けることに細心の注意を払った。彼女の繊細で優しい心を一つも傷つけたくなかったからだ。


 ーー彼女の唇が「ぶ」の形になると、ビクッと身構えてしまうのは許してほしい。


 そうしているうちに、セルフィナも私に信頼を預けてくれるようになり、その顔に自然な笑みが溢れ出るようになっていった。なんて可愛いのだろうか。


 この幸せな日々を、誰にも脅かされてなるものか、と改めて心に誓った。

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