↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子豚令嬢は食べられたくない  作者: しののめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/6

2

 その出会いから程なくして、私とサイアス様との婚約の話が持ち上がった。

 父が随分とサイアス様を気に入ったらしい。曰く、


「お前の挙動不審な様子に、落ち着いて対応できていた。あの男は大物になる」


とのことだ。お目が高い。


「年も近いし、容姿も良いし、将来有望だ。お前が嫌でなければ、話を持って行こうと思う」


 その提案を聞いた時、私の頭には、


(あれ?)


と疑問符が浮かんだ。


 以前、私はポール王子の婚約者だったけれど、今回は、何だか流れが違う。サイアス様との婚約話なんて、前回は持ち上がらなかった。


 ただ、これだけは分かる。


 このサイアス様との婚約を受け入れなければ、そのうち、前回と同じく王家からポール王子との婚約の打診が来るだろう。王家からの必死の頼みこみは、断れない。


 けれど王家も、既に婚約者のいる人間にわざわざ声をかけたりはしない。そう、私に相手がいれば、候補から除外されるのだ。


 ならば私の選択は、ただ一つ。


「サイアス様がよろしければ、ぜひ、そのお話を進めていただきたいですわ」


 ただ、私は初対面で随分な醜態を晒してしまっている。

 お父様が気に入ったとしても、相手がどう感じたかは分からない。


 ーー変な娘だと断られないといいのだけれど。


⭐︎


 そんな私の不安をよそに、婚約はとんとん拍子に進んだ。


「私で良ければ、喜んで」


 そう応じてくださったサイアス様は穏やかな方で優しかった。婚約が成立すると、忙しい中でも頻繁に会いに来てくださる。


 以前とは違う流れでほっと胸を撫で下ろすと同時に、今更ながら、恐ろしいことに気がついてしまった。


 自分はずっと、前世の自分は、呪いにより豚に変えられた人間だと信じていた。


 けれど、それがただの思い込みだったら?


 私の前世は、ただの豚だった可能性があるのでは?


(私が、豚……)


 豚であった事実を受け入れられずに、人間であった記憶を捏造しただけなのでは? と。

 それはそれで衝撃の事実だ。


 そんな考えに囚われると、なんだかご飯も喉を通らない。窓から外を眺めては、はぁとため息をつく日が続いていた。


 そんな折、ふとサイアス様が訪ねてきた。


「セルフィナ」


 手を伸ばし、私の頰に触れてくる。


「最近ふさぎ込んでいると聞いた」


 最近サイアス様は、砕けた話し方で接してくるようになった。


「君を悩ませる物事があれば教えてほしい。二人で共に解決していきたいんだ」

「サイアス様……」


 思いやりのある婚約者の言葉に、じんとなる。ああ、初めて知るこの思い。婚約者ってこんなに優しくて温かい存在なんだ。

 そんな感動を胸に、私は切り出した。


「サイアス様は、ぶ……」

「……!」


 サイアス様は、ぶ、という言葉を聞くと、ちょっとビクッとした。なんだか申し訳ない気がして、ちょっと話を変えてみた。


「いえ、牛料理はお好きですか?」

「……君は?」


 まさかの質問返しである。どうもサイアス様は、私の反応を窺って会話を進める節がある。


「私はーー好きです」

「奇遇だな。私も好きだ」


 サイアス様は安心したように微笑んで答えた。そんな優しい雰囲気に力を得た私は、思い切ってもう一歩踏み込んでみた。


「もし、もしですよ?」

「な、何だろうか」


 物理的にも踏み込んだので、サイアス様はちょっとのけぞり気味だ。


「私の前世が豚だったとしても、サイアス様は私と結婚してくださいますか?」

「……」


 サイアス様は、頭が痛いというように額を押さえた。けれど私の様子を見ながら、慎重に言葉を選んで、こう答えた。


「君の前世が豚だとは思えないが、もし豚だったとしても、君への想いは変わりない」


 そして私の手を取り、その甲に唇を落とした。


「君は私の婚約者であり、未来の妻だ。君を生涯、愛し続けるよ」


 そして、柔らかい微笑みを浮かべた。


 そこに至って、私はふと、その可能性に思い至った。


(もう、王子の婚約者ではない私は、タチアナと何の接点もないのでは?)


 タチアナと遭遇しない=豚にならない。

 なんて素晴らしい方程式だろう。


(もう、怖いことなんて起こらない……!)


 そう、私はあの二人のことは忘れ、サイアス様と共に生きていく。




完

⭐︎続きます⭐︎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。