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子豚令嬢は食べられたくない  作者: しののめ


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1

「私の息子のサイアスだ。貴女と同じ歳だから、どうか仲良くしてやってくれ」


 その人を紹介された瞬間、私は電撃を受けたような衝撃と共に、前世を思い出した。

 彼の名はサイアス・コーション。いずれ、この国随一の魔法使いになる人だ。そしてーー。


「私を食べないで!!」


 私はしゃがみ込んで頭を抱え、発作的に叫んでいた。


「?」


 ガタガタと震える私の様子に、その場にいた父親たちもサイアス様も、きょとんと目を丸くしていた。


⭐︎


 この奇行の理由を説明をしよう。

 私、セルフィナ・シュヴァインの前世は豚だった。


 ーーいや、生まれは確かに人間だったんだけど、呪いで豚にされてしまったのだ。


 私はポール王子ーーこのレチョン王国の第三王子だけれど、妾腹で王位継承順位は低いーーの婚約者だったんだけど、ポール王子には既にタチアナという恋人がいた。

 タチアナを愛する王子は私を疎み、何とかこの婚約を破棄しようと試みようとしていた。

 けれど、この婚約はポール王子の行く末を案じた彼の父親ーーつまり王様ねーーから我がシュヴァイン家に、


「どうか、あの子の後ろ盾となってほしい」


と頼み込み込まれて成立した婚約だった。シュヴァイン家は名門なのだ。

 だから、どんなに王子が「婚約を解消したい」と駄々をこねても、王様が了承しない状況だったわけだけど。


 それで納得できなかったのがタチアナだった。彼女はどうしても、王子の妻の座が欲しかったらしい。


 そして困ったことにタチアナは、魔法使いだった。

 魔法使いというのは努力してなれるものではなく、素養が必要だ。そして魔力のない一般人に、魔法攻撃への対処方法はない。

 やがて私はタチアナに襲撃され、


「貴女さえいなくなれば、私は妃になれるのよ!」


と魔法の杖の先が私に向けられた。そこで放たれた魔法、それこそが。


「豚になるがいい!」


 そう、「豚になる」魔法ーー呪いだったのだ。

 呪いの直撃により豚に変えられた私は、


「この豚がわたしを襲ったのです」


とタチアナが衛兵に訴えたことにより、抵抗することもできず殺されたのだった。


 殺された後、私の存在が完全にこの世から消滅するまで、なぜか魂と意識だけが大気にふよふよ浮かんでいて、私はその状態で、私だった豚の行く末を知った。


 私は調理場で容赦なくぶつ切りにされ、網でじゅうじゅ焼かれ、王子とサイアス様の会食の席で、肉汁たっぷりの豚ステーキとして振る舞われた。そしてーー。


(ひいぃ……!)


 サイアス様が私のお肉を一切れ、口に頬張った瞬間、私の意識は途切れた。


⭐︎


 このままだと、また私は豚にされて、脂が乗った美味しいディナーにされてしまう。そんなの、絶対にイヤ!


(呪いをどうにかする術を見つけないと)


 今の私は十歳。まだポール王子との婚約の話も出ていない頃だ。

 そしてやり直している私は知っている。

 先に触れたとおり、今、紹介されているサイアス様は、この国一番の魔法使いになる予定の人だ。彼なら、呪いの回避方法について詳しく教えてくれるかもしれない。


 お近づきになりたい。けれど。


「サ、サイアス様。私……」


 親しくなりたいと思うのに、過去、美味しく食べられてしまったトラウマで言葉が詰まり、足が震えてしまう。そんな私を見かねたのか、


「セルフィナ様」


とサイアス様が私の前に跪いた。


「私は貴女を食べたりしませんよ」

「本当に……?」


 サイアス様からかけられた言葉に、私は隠していた顔を上げる。整った綺麗な顔が、気遣わしげに私を見つめていた。


 ーーいや、これで安心するのは早すぎる。これを確認しなければ、真の安心は得られない。

 私は意を決して口を開いた。


「豚料理はお好き?」


 尋ねるとサイアス様は「え? 何でそんな変なことを聞くんだ?」とでもいうような複雑そうなお顔をされたけれど、私があまりに不安げな表情をしているのを見かねたのだろう、


「豚料理は苦手です」


と言い切ってくれた。私はようやく本心から安堵して、


「本当!? 良かったぁ……」


とサイアス様に微笑んだ。サイアス様も優しく微笑み返してくれた。


 一方で、傍らでやり取りを眺めていた父親たちがポカンとした顔で呟いた。


「? 一体、どういう会話なんだ、これは??」


 これは私の生死を左右する会話です。

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