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「私の息子のサイアスだ。貴女と同じ歳だから、どうか仲良くしてやってくれ」
その人を紹介された瞬間、私は電撃を受けたような衝撃と共に、前世を思い出した。
彼の名はサイアス・コーション。いずれ、この国随一の魔法使いになる人だ。そしてーー。
「私を食べないで!!」
私はしゃがみ込んで頭を抱え、発作的に叫んでいた。
「?」
ガタガタと震える私の様子に、その場にいた父親たちもサイアス様も、きょとんと目を丸くしていた。
⭐︎
この奇行の理由を説明をしよう。
私、セルフィナ・シュヴァインの前世は豚だった。
ーーいや、生まれは確かに人間だったんだけど、呪いで豚にされてしまったのだ。
私はポール王子ーーこのレチョン王国の第三王子だけれど、妾腹で王位継承順位は低いーーの婚約者だったんだけど、ポール王子には既にタチアナという恋人がいた。
タチアナを愛する王子は私を疎み、何とかこの婚約を破棄しようと試みようとしていた。
けれど、この婚約はポール王子の行く末を案じた彼の父親ーーつまり王様ねーーから我がシュヴァイン家に、
「どうか、あの子の後ろ盾となってほしい」
と頼み込み込まれて成立した婚約だった。シュヴァイン家は名門なのだ。
だから、どんなに王子が「婚約を解消したい」と駄々をこねても、王様が了承しない状況だったわけだけど。
それで納得できなかったのがタチアナだった。彼女はどうしても、王子の妻の座が欲しかったらしい。
そして困ったことにタチアナは、魔法使いだった。
魔法使いというのは努力してなれるものではなく、素養が必要だ。そして魔力のない一般人に、魔法攻撃への対処方法はない。
やがて私はタチアナに襲撃され、
「貴女さえいなくなれば、私は妃になれるのよ!」
と魔法の杖の先が私に向けられた。そこで放たれた魔法、それこそが。
「豚になるがいい!」
そう、「豚になる」魔法ーー呪いだったのだ。
呪いの直撃により豚に変えられた私は、
「この豚がわたしを襲ったのです」
とタチアナが衛兵に訴えたことにより、抵抗することもできず殺されたのだった。
殺された後、私の存在が完全にこの世から消滅するまで、なぜか魂と意識だけが大気にふよふよ浮かんでいて、私はその状態で、私だった豚の行く末を知った。
私は調理場で容赦なくぶつ切りにされ、網でじゅうじゅ焼かれ、王子とサイアス様の会食の席で、肉汁たっぷりの豚ステーキとして振る舞われた。そしてーー。
(ひいぃ……!)
サイアス様が私のお肉を一切れ、口に頬張った瞬間、私の意識は途切れた。
⭐︎
このままだと、また私は豚にされて、脂が乗った美味しいディナーにされてしまう。そんなの、絶対にイヤ!
(呪いをどうにかする術を見つけないと)
今の私は十歳。まだポール王子との婚約の話も出ていない頃だ。
そしてやり直している私は知っている。
先に触れたとおり、今、紹介されているサイアス様は、この国一番の魔法使いになる予定の人だ。彼なら、呪いの回避方法について詳しく教えてくれるかもしれない。
お近づきになりたい。けれど。
「サ、サイアス様。私……」
親しくなりたいと思うのに、過去、美味しく食べられてしまったトラウマで言葉が詰まり、足が震えてしまう。そんな私を見かねたのか、
「セルフィナ様」
とサイアス様が私の前に跪いた。
「私は貴女を食べたりしませんよ」
「本当に……?」
サイアス様からかけられた言葉に、私は隠していた顔を上げる。整った綺麗な顔が、気遣わしげに私を見つめていた。
ーーいや、これで安心するのは早すぎる。これを確認しなければ、真の安心は得られない。
私は意を決して口を開いた。
「豚料理はお好き?」
尋ねるとサイアス様は「え? 何でそんな変なことを聞くんだ?」とでもいうような複雑そうなお顔をされたけれど、私があまりに不安げな表情をしているのを見かねたのだろう、
「豚料理は苦手です」
と言い切ってくれた。私はようやく本心から安堵して、
「本当!? 良かったぁ……」
とサイアス様に微笑んだ。サイアス様も優しく微笑み返してくれた。
一方で、傍らでやり取りを眺めていた父親たちがポカンとした顔で呟いた。
「? 一体、どういう会話なんだ、これは??」
これは私の生死を左右する会話です。




