すでに負けていました!
俺もひかりさんも早苗さんも芽衣さんも固まる。
特にひかりさんは「やっちゃった」感ひしひしだ。
でも、食べちゃったパンをしっかり食べてしまうと至福の表情で、
「やきそばパン、おいしい~」
って、早苗さんはそんなひかりさんをチョップすると、
「あんた、消えちゃうのよ、いいの!」
「だ、だってやきそばパンおいしいんだもん」
「だもんじゃないでしょーが、あんたは、消えちゃうのよモウ」
「おいしいものには逆らえないもん、女の子だもん」
「可愛こぶってもダメ」
「だって本当においしいのに!」
「そ、そりゃやきそばパンはおいしいわよ」
「コホン」
俺が咳払いすると、ひかりさんと早苗さんは静かになった。
「あのですね……ひかりさんは前から俺のパンを食べてるんですよ」
早苗さんと芽衣さんがジッとひかりさんを見つめる。
ひかりさんは小さくなりながら、
「だってお腹空いてるのに『あーん』なんてされたら」
「ひかりさんやっぱりお腹空いてたんですよね」
「う……太市さん女の子にそんな事言うんですかっ!」
「お腹空いてるんじゃん……」
「う……まだ言いますか!」
早苗さん、腕組みして難しい顔になると、
「ふむ、ひかりは釣られてないと思ったけど、もう釣られていたのね」
「ですね」
もう、ひかりさんは小さくなって何も言えないでいた。
「なんで神代くんとの試練に負けて、私達は消えないのかしら?」
「その試練って適当言ってるんじゃないんです?」
って、俺の肩を誰かが叩いた。
振り向けば担任の先生が困った顔をしている。
手招きに一緒になって教室を出る。
「神代くん、教室で騒がれると困るねぇ」
「すみません」
「今日は早退していいから、教室から出てってくれないかね」
「!」
俺は担任の先生に顔を寄せると、
「早退していいんですか?」
「ああ、かまわんよ」
「普通『注意』で『早退』していいとか言わないんじゃ?」
「君は米神荘に住んでいるよね」
「はい」
「この辺じゃ越野姉妹は有名なんだよ」
「?」
「特に次女のみのりさんはね……知ってるだろう」
「あー!」
「あの娘を怒らせると面倒なので、この辺じゃ越野姉妹関係は寛大なんだよ」
「みのりさん……神通力」
「知ってるんだろう」
「はい……」
俺は頷くと教室に戻って三人に、
「先生が家に帰れって」
「!!」
「教室で騒がれると面倒なんだって」
ひかりさんと早苗さんはがっくりとうなだれてしまった。
授業も始まって人のいなくなった廊下。
ひかりさんは歩きながら、
「今日のお弁当、食べたのお姉ちゃん達だったのね!」
って、早苗さんが、
「だって最近いつも作ってくれてたじゃない」
「え?」
「だっていつも四つ……穂のかの分も入れると五つ作ってたじゃない」
「えっと……いつもって、早苗姉さんいつもお弁当って?」
「うん、いつも四つあったから、私持って行ってた、私の分じゃないの?」
「そ、それは太市さんの分」
む……いつも俺の分を食べていたのは早苗さんだったようだ。
ひかりさんは俺に目をやりながら、
「そして今日は芽衣姉さんがわたしの分のお弁当を食べちゃって……」
「それで今日は全然なかったんですね」
「ですね」
俺、早苗さんと芽衣さんを見て、
「あの……今日の試練とかいうやつで、俺がひかりさんのお弁当に、食事に折れなかったら越野姉妹は消滅してしまうんですよね?」
早苗さん、胸を張って、
「そうだ、米の神の化身でもある我々七姉妹は、この試練でパン屋の息子の君に負けたら消えるらしいのだ!」
「早苗さんも芽衣さんも、思い切り足引っ張ってますよね?」
「う……」
俺の言葉に早苗さんは愛想笑いを浮かべると、
「さ、昼休みも終わったから帰るか~」
ダッシュで行ってしまった。
芽衣さんも視線を泳がせてから、
「ふん、お弁当食べたの、わざとじゃないんだから!」
言い捨てて行ってしまった。
俺はひかりさんを見ながら、
「えっと、早退します?」
ひかりさんはちょっと考える顔をして、
「ですね……なんだか拍子抜けしちゃったから、早引きしましょうか」
「えっと……風紀委員さんがそんな事言っていいんですか?」
「今はそんな気分なんですー!」
「気分なんですー……か~」
「む、太市さん、一緒に早引きするの、嫌なんですか」
「むむ……ですね、なんだかもう、サボりたい気分かな」
「風紀委員、発動しちゃおうかな~」
「都合いい風紀委員ですね」
俺が言うと、ひかりさんはクスクス笑った。




