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女神のちから「召喚」

 またパチンと指を鳴らす。

「早苗を召喚なのじゃ!」

 って、部屋の中心がまぶしく輝いたかと思うと、全裸で濡れ濡れの早苗さん・芽衣さんが「召喚」された。

「え?」

「「あ!」」

 ついつい声が出て、早苗さん芽衣さんもびっくりした顔で声が漏れていた。

 どうやら二人は一緒にお風呂の最中だったようで、椅子に座った芽衣さんの背中を早苗さんが洗っている……ところを召喚されたらしい。

「ぎゃーっ!」

 早苗さんは真っ赤になって座っていた椅子を投げて来た。

「きゃ~っ!」

 芽衣さんは瞳をハートにして飛びついてくる。

「神代くん、君はもう出て行ってもらうしかないなっ!」

 早苗さん、立ちあがって……穂のかちゃんがどこからともなく取り出したバスタオルを巻きながら震えている。

 芽衣さんは……裸のまま俺に抱きついて、

「もう、しょうがないから、結婚してあげるんだからねっ!」

 俺はしがみついてくる芽衣さんを押し退けながら、二人を召喚したみのりさんをにらんだ。

「ふむ、芽衣は邪魔じゃ、黙っておれ」

 みのりさんが指先を宙で振るうと、一升瓶が「ゴン」なんていって芽衣さんの頭にヒットして黙らせた。

 俺は動かなくなった芽衣さんを引きはがしながら……裸なのに困り果てる。

「うむ、芽衣は要らぬ、部屋に戻すとするかの」

 みのりさんが指を鳴らすと、芽衣さんの姿は消えて……多分自室に飛ばされたんだろう。

「しかし何故芽衣が一緒に召喚されたかの?」

「みのり『召喚』を使ったわねっ!」

「うむ、使ったのじゃ、しかし何故早苗だけでなく芽衣も現れるのじゃ」

「一緒にお風呂入ってて近くにいたからでしょ!」

 みのりさんはコクコク頷きながら、

「これ、早苗、神代に何故ここに住まわせられておるか、説明するのじゃ」

「みのり……私の方が歳上なんだけどその態度?」

「ふん、わらわの方が『ちから』は上じゃ、わらわに逆らうというのかの」

「くっ! ちょっと神通力が使えるくらいで……」

 って、早苗さんが怒りの形相でみのりさんをにらんでいると、みのりさん「パチン」指を鳴らす。

 途端に早苗さんの体に巻かれていたバスタオルが消えてしまった。

「ぎゃーっ!」

 ペタンと座り込む早苗さん。

 両手で大事な所を必死になって隠しながら俺に目をやると、

「みみみ見たら殺すっ!」

「見ませんからっ!」

「今、目、合ったよねっ! 見てるよね!」

「だ、だっていきなりで……」

「うううっ」

 最後の方は涙声だ。

 穂のかちゃんがまたどこからともなくバスタオルを出して早苗さんの体を包む。

 みのりさんはコップ酒をやりながら、

「早苗、説明するのじゃ」

 そんなみのりさんの言葉に俺は早苗さんをジッと見る。

 俺の視線の意味を理解したのか、早苗さんは小さく頷くと、

「神代くんの家はパン屋さんだよね」

「ええ……」

「私達、七姉妹はお米の神さまの化身なのだよ」

「……」

 何を中二病な発言……って言いたいけど、さっきからみのりさんの「召喚」を見てたからつっこまないでいた。

「で、神さまの化身と俺がここに来るのに、何か関係あるんですか?」

「最近お米が食べられてない……聞いた事あるよね?」

「あ、それ、知ってますよ」

「そこでパン屋の息子の君を試す、ゴハンとパンの勝負をする事にしたんだ」

「……」

「ヨーロッパでもアメリカでもオーストラリアでもパンを食べているだろう」

「はぁ」

「日本もそのうち、パンに占領されてしまう……」

 なんだかとんでもない事を言い出した早苗さん。

 俺はもう、なんとなく先が想像ついていた。

「えっと、いいですか」

「何だい、神代くん」

「で、パン屋の息子の俺をここに住まわせて……ゴハン好きに洗脳しようとか、そんな話ですか?」

「大体そんなところだ、パン屋の、パン職人の息子をゴハン好きにして、パンを嫌いにしてしまう」

「うわ……なんだかアニメや漫画でありそうなネタ」

 でも、疑問が残る、どうして俺なの?

 そんな目をみのりさんに向ける、ここで神通力が使えるのは彼女だけみたいだ。

 みのりさん、小さく頷くと、

「うむ、神代が疑問に思うのもわかるのじゃ」

「何で……俺なんですか?」

「パン屋と神でググッた」

 ネットかよ!

 俺がうなだれていると、早苗さんは力無く笑いながら、

「最初はバカらしいと思った、でも……」

「でも?」

「みのりの言う通り、一人の、神代くんをゴハン好きにしたら、そこから一歩が始まる……そんな気がしたんだ」

 真剣な目で言う早苗さんに、正直俺はバカな事をって思った。

 でも、早苗さんの顔を見ていると、なんだかその気持ちが移ってくる。

「早苗さん、それ、本気で言ってますね」

「ああ……バカな事って思いもした、でも、人、一人ゴハン好きに出来ないようなら、日本もパンの文化になってしまうってね」

「……」

「ファストフード……ハンバーガーなんかもパンだよね」

「まぁ、ですね」

 黙ってしまう早苗さん。

 俺は正直そこまでお米にこだわるのが理解できないけど、早苗さんにとっては「本気」なんだ。

 みのりさんはコップ酒をあおってから、

「わらわはそんな事をするまでもないと思っておる」

「……」

「ゴハンがパンに負けるはずがないのじゃ」

 すごいバカらしいけど、この姉妹にとっては本当に本気な事らしい。

 みのりさんの神通力を見れば神さまってのも、ちょっとわかる気もするしね。

 早苗さん、さみしそうな笑みで、

「ひかり以外、もうみんな神代くんに負けてるんだよ」

「え? 俺、もう勝っちゃってるんです?」

「ああ……まず穂のか」

 って、俺と早苗さんの視線が穂のかちゃんに注がれる。

 穂のかちゃん、にっこり微笑んで、

「お兄ちゃんとラーメンデート」

「あれ、デートじゃないから」

 って言うと、穂のかちゃん怒った顔&震える拳でこっちを見てる。

「デートでいいです……」

「穂のかはラーメンのおいしさにクリティカルヒット」

「俺の分も食ってたからな~」

 早苗さんはため息を一つついてから、

「まいにはケーキ、籾には回転焼き……そうそう、ホットケーキも焼いたわね」

「はい……」

「私にはクレープ」

「そう言えばクレープあげましたね」

「もう、神代くんの攻撃に食べずにいるのはひかりくらい」

「ひかりさん……」

「ひかりが神代くんの攻撃を受けて折れたら、私達はこの世界から消える運命」

「お、重いっ! いきなり重いですね! どうなっちゃうんです?」

「消えてしまうの」

「ほ、本当に重いですね……で、ひかりさんが最後の砦なんだ」

「そう、ひかりの料理を食べて、神代くんがゴハン好きになれば、我々はセーフ」

「はぁ……」

「ひかりが神代くんの攻撃を受けておいしいと思えば、折れてしまえば、我々は消える運命」

「質問が……」

「何だい、神代くん」

「俺、負けたら消えるんです?」

「それはないよ」

「え? 俺、消えないでいいんです? 負けても!」

「ああ、この試練は我々米神に与えられたもの、君は負けても何もないのだよ」

「わざと負けてもいいんですけど」

 って、みのりさんはコップにお酒を注ぎながら、

「神の行う試練に不正などできぬ、おぬしが手を抜けば、そこで我々が消えるのじゃ」

「う……俺、別に負けてもかまわないのに~」

「おぬし、わらわ達をバカにしておらぬか、最初から勝つ気でおらぬか」

 ってか、ひかりさんは俺のパンを毎日食べてるんだけど……

 一口目に嫌そうな顔をしていたのは、この「試練」のせいだったんだ。

 でも、食べちゃうとしあわせな顔になるのがかわいいんだよな~

「ふむ、ひかりにも勝負の事をちゃんと話しておかねばな」

 みのりさんが指を鳴らすと、また部屋の中央が光り輝いてひかりさん召喚。

「え!」

 白いパンツにパジャマの上を今まさに袖を通そうとしているところだった。

 ああ、胸、しっかり見てしまいました。見るなと言う方が無理。

 パジャマに着替えたらブラ付けないんだ、そうなんだ。

 ひかりさんと目が合って、俺、笑うしかできない。

「きゃーっ!」

 ひかりさんのパンチが思い切り決まって俺ダウン。

 しばらく視界がチカチカして、なんだかゆがんで見えた、穂のかちゃんほどではないけど、しっかり決まって超痛い。



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