女神
「外で食べて来るなら、連絡してくださいっ!」
ひかりさんはおかんむり。
まいちゃん・籾ちゃんはちゃんとゴハンが出て来たのに、
「あの、俺のゴハンはないんでしょうか?」
「こんな時間に帰って来て、不良さんにはないんです!」
「だ、だって、俺、アルバイトで、籾ちゃんと一緒で」
って、俺、籾ちゃんに目をやる。
籾ちゃんはペロっと舌を出してウィンク。
その仕草「兄さんゴメン、ひかり姉に言ってない」そんなところだろう。
「もう、太市さんなんて不良さんは食事抜きなんです!」
「でも、まいちゃんや籾ちゃんはゴハンあるのに……」
「太市さんは連絡ないから、ないんです!」
とほほ、こんなに怒るなんて……俺が電話すればよかったんだ。
ついついアルバイトに入れ込んじゃったし、メイド喫茶でも本気になってしまったからな。
「反省してくださいっ!」
「はい……」
まぁ、怒られるのも当然といえば当然かな、こんな時には電話でもメールでもすればよかったんだ。
「今日はもう部屋に戻って大人しくしててくださいっ!」
「はい……」
俺は肩を落として部屋へ。
窓から外を見て、余計に絶望してしまった。
実はこっそり外出してコンビニでも……
って、米神荘の回りは何もない、真っ暗だ。
こうなったら、みんなが寝静まったところで台所でこっそり……
そんな事を考えていたら、早苗さんが帰って来た音がした。
『ひかり~、ゴハン~』
『お姉ちゃん、何でメール返信しないのっ!』
『会議で忙しかったのよ~』
『学校に電話したら宿直室で寝てるって言ってたわよ』
ああ、なんだか早苗さんが青くなって追い詰められているのが見える。
『お姉ちゃんにゴハンなんてありませんっ!』
『えーっ!』
『ありません』
そこで静かになってしまった。
足音……ひかりさんの部屋に引っ込んでしまう。
俺はこっそり部屋を出ると、リビングで早苗さんと合流。
小声で、
「怒られてましたね」
「ひかり、なんだかすごく怒ってたわ」
「俺もなんです」
「え!」
俺は「え!」の声が大きいのに人差し指を口に立てる。
早苗さんは頷きながら、
「神代くん、君は何をしたんだい?」
「今日は籾ちゃんの所でアルバイト」
「ふむ、それで何でひかりが怒るのか?」
「連絡いれないで、遅くなったから」
「私と一緒か……」
早苗さん、ため息をつきながら、
「ひかりも部屋に引っ込んだから、食事にするとしよう」
「料理、作るんですか?」
「バカ、冷蔵庫の中の食材を勝手に使ったらひかりにまた怒られるぞ」
「やっぱりそうか~」
「大体わかっているだろう」
って、早苗さん、戸棚を開けて固まった。
「どうしたんです?」
「いや、神代くんと一緒に食事と思ったんだが……」
って、出て来たのはカップ麺一個。
「一つしかないんですね」
「うむ」
「俺は我慢しますよ」
「分けっこしても……」
って、早苗さんのお腹が「ククー」って鳴いた。
「俺はもう通り過ぎちゃったからいいですよ」
「本当かい、すまないね」
「じゃ、お休みなさい」
通り過ぎた……ウソだけど、あのカップ麺を二人で分けたら余計にお腹が空きそうな気がしたからだ。
すごすご部屋に戻る……穂のかちゃんの部屋の前で足が止まる。
おいしそうな、カップ麺の香りがしてくる。
それもキツネうどんのにおいに違いない。
においの元、俺は迷わずに、ノックもしないで穂のかちゃんの部屋へ。
「!!」
部屋には穂のかちゃんともう一人、女の人。
あの、初めて七米町に降り立った時、迎えに来てくれた女だった。
「これ、女子の部屋にノックもなしかの?」
「え、えっと……誰さん?」
「わらわは神、女神じゃ!」
って、胸を張って言うと、キツネうどんを食べ始めた。
穂のかちゃんは俺に部屋に入るように手招きしてから、
「お兄ちゃんはみのりちゃんに会った事ないのですか?」
「みのりちゃん……みのりさんって言うんだ」
「会った事なかったんですか?」
「ううん、会った事あるよ、ここに案内してくれた人だよ」
そうだ、ひかりさんから名前聞いている。
「みのりお姉さま、みのりちゃん」
「みのりさん……」
って、みのりさん本人はズルズルとカップ麺をすするのにいそがしい。
食べ終わるのをじっと見守っていると、
「どうしたのじゃ、ひかりとケンカしていたようじゃが」
「あ、ちょっと連絡入れそこねてですね」
「ふむ、今は携帯電話があるでの、連絡せねば責められもしよう」
みのりさんはキツネうどんの器をグッとあおって汁も全部飲んでしまうと、
「ふむ、ここで出会ったのも何かの縁である」
「最初にも会いましたよね」
「あれは早苗やひかりに言われたからじゃ」
みのりさんが穂のかちゃんに目で合図。
すると押入れが開かれ、大量のカップ麺……箱が何個もあった。
みのりちゃんは一つを出して、電気ポットのお湯を注いで俺の前に置いた。
「お兄ちゃんに貸しです」
「この間、ラーメン奢ったよね」
「穂のかがデートしてあげたんです」
「はいはい、それでいいですよ」
「またデートしてほしいです、じゅるる」
「それってデートしてほしいの? 食べたいの?」
「穂のかは食べ盛り」
「はいはい」
俺は目の前のカップ麺にホッとする。
とりあえず空腹、これでちょっとは回復だろう。
「して神代、おぬしは何故ここにいるか、わかっておるのかの」
「え……何故って……」
「おぬしは選ばれた人間なのじゃ」
「え? 俺、選ばれた人間なの?」
「そうなのじゃ」
「誰が……何故俺なんかが?」
「選んだのはわらわじゃ」
「みのりさんが選んだ……よくわからないんだけど……」
「ふむ、これには早苗に話をさせるのがよかろう」
みのりさんは穂のかちゃんのベットに横になる。
「神代太市、おぬしをここに住まわせた本当の理由、教えてやろう」
みのりさんは気だるそうな顔でパチンと指を鳴らす。
と、宙が光り輝いて、コップと酒・一升瓶が現れた。
みのりさんがコップを手にし、一升瓶はまるで魔法でもかかったかのように、コップに酒を注いだ。
「我が術、目の当たりにしたであろう」
「すご……どんな手品?」
「手品ではないのじゃ、これぞ神のちからなのじゃ!」




