神社でアルバイト
閉店後、俺はまいちゃんと店を出ると、
「あ、しまった!」
「お兄さん~、どうしました~?」
「ケーキのレシピ、盗むの忘れた」
「ふふ、またアルバイトに来たらいいですよ~」
「その時にしっかりチェックするかな」
って、まいちゃんのお腹が「クウ」って鳴るのが聞こえた。
真っ赤になるまいちゃん、愛想笑いしている。
俺はこの間、回転焼きを買った店を見た。
すぐに買ってきて、まいちゃんに渡す。
「一個くらいなら、大丈夫だろ」
「お兄さん……」
まいちゃんは湯気をたてる回転焼きをじっと見ている。
またお腹が「ククー」って鳴った。
「ほら、早くはやく、冷えちゃうから」
まいちゃん、パクっと一口。
モグモグ口が動いてから、俺をじっと見上げて、
「甘くて~、おいしい~」
遅めの夕飯を食べて、風呂から上がった時だった。
いきなり脱衣所のドアが開いて、籾ちゃんが現れた。
「兄さんっ!」
「なななっ!」
実は浴室の前にトイレあるから、脱衣所に入って来るのはしかたない。
でも、俺が籾ちゃんの着替え中に入ってきたら「ラッキー」って言われるんだろうな。
「兄さんっ!」
「なにっ!」
「今日、まいちゃんとデートしてましたねっ!」
「はぁ? メイド喫茶手伝ってただけだよ」
「ウソっ!」
なんだか嫌な予感しかしない。
にらむ籾ちゃんは携帯を出して、
「ほら、デートの現場です、早苗姉に言いますよ」
ああ、回転焼きの時だ。
弁解しても、なんだかこの写真だけ見たらどうしようもない気が。
俺はもう抵抗しないで、
「えっと、何かやって欲しい事とかあるのかな?」
「兄さん、話がわかるようで、わたくし嬉しいです」
「で、何をやったらいいのかな?」
「えへへ、まいちゃんのお仕事を手伝ったのなら、わたくしのアルバイトも手伝って欲しいです!」
そんなわけで、今度は神社のお仕事を手伝う事になっちゃったぜ。
学校が終わってから神社に行くと、
「兄さ~ん!」
「籾ちゃん、来たよ、何するかな?」
「まずは形からです!」
「は?」
「形からなんです、神社ですよ、袴に着替えるんですよ」
「い、いいけど……着替えないとダメなの?」
「だから形からなんですってば」
俺、掃除を手伝ったりとか、裏方だろうって思っていた。
籾ちゃんに引っ張られて社務所に入ると、早速着替えさせられた。
「ちょちょちょっ!」
「兄さん、早く脱いでくださいっ!」
「何で脱ぐの!」
「着替えるのに、何で脱がないんですか!」
あー、なんだかこのキャラ、どこかで経験あるような。
むむ、籾ちゃんは芽衣さんに似てるんだ。
これは……これからがこわいぞ。
でもでも、袴なんて着た事ないしな。
俺、籾ちゃんのなすがまま着替え完了。
「よ、よかった~」
鏡に映った袴姿にホッとした。
「どうしましたか、兄さん」
「いや、こう着替えると、様になってるかなって」
「でしょう、わたくしは兄さまを初めて見た時から似合うと思っていたんです」
「いや、よかった~」
「なにがです、兄さま」
「うん、俺、てっきり襲われるかと思った」
「わたくしが! そんな風に思われていたなんて!」
「はいはい、神社の仕事ちゃんと手伝うから許してゆるして」
って、籾ちゃんのメガネが妖しく光った。
「兄さん、そんな事言っていいんですか」
「?」
「神社の仕事、ご存じですか?」
「えっと、掃除するんじゃないの?」
「そんなのはわたくしだって出来るんです」
って、着替えている部屋のふすまを開く籾ちゃん。
隣の部屋には……たくさんの縁起物が並んでいた。
「もうすぐこの神社ではイベント……もとい放生会があります、その準備があるんです」
最初は失敗していた絵付けも、数をこなしているうちによくなった。
でも、数がハンパなかった、部屋じゅうならんだ縁起物がうらめしく見えてくる。
「もう、やめにしましょう、兄さま」
「その言葉、待ってたよ」
「ルーチン……じゃなくて、日々のお勤めで終わりにしましょう」
「あのさ、籾ちゃん」
「何です、兄さん」
「さっきもだけど、イベントとかルーチンとか、いいの?」
「うっ……だってイベントだしルーチンだもん」
「まぁ……いいんだけどね」
って、俺は台所に連れていかれて、
「毎日ゴハンをお供えするんです」
「へぇ……なんだかおばあちゃんの家みたい」
「おばあちゃん?」
「うん、おばあちゃんの家には仏壇があるからね、毎日ゴハンをあげたよ」
「そうなんですか」
「でも、こんな普通の大きさの茶碗じゃないよ、小さいの」
「ふふ、このゴハン、どう思いますか?」
籾ちゃんは大盛りの茶碗を見せながら微笑む。
「漫画で見る大盛りみたい」
「えっとですね、昔はもっと、こう、山盛りだったんです」
籾ちゃんは手で宙に線を引いて見せる。
なんていうか、とんがり帽子みたいな盛り方になるようだ。
「昔はお米が貴重だったのもあるけど……」
「だから神さまにお供えするんだ」
「兄さん、このとんがった盛り方、何か気付きません?」
「?」
「この形がおにぎりの起源らしいんですよ、らしい……ですけどね」
「へぇ、おにぎりってそんな起源があるんだ」
「らしい……ですけどね」
俺が大盛りゴハンを見て、返事もしないでいると、
「兄さん、どうかしたんですか?」
「うん……早く家に……米神荘に帰りたくなったなって」
「え? どうしてです?」
「うーん、籾ちゃん知ってると思うけど、穂のかちゃん」
「穂のかがどうかしたんですか?」
「夕飯の前に、ちょっと食べるよね、ちょっとじゃないけど」
俺が言うのに、籾ちゃんは思い出したようにクスクス笑うと、
「穂のかはくいしんぼうですからね」
「あのおにぎり、俺も食べたくなった」
「ふふ、兄さん、わたくしもです」




