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なんで?

 昼休みの教室。

 俺とひかりさんは一緒にお弁当だ。

「あの~」

「ななななんですかっ!」

 家では手際よく家事をこなしているひかりさん。

 食事を作ったり洗濯物を片付けたり……

 でも、どうしてかお弁当作るの忘れるかな?

「あの~」

「ななななんですかっ!」

「俺ってひかりさんに嫌われてるんですかね?」

「ななななんでそうなるんですかっ!」

「だって、いつもお弁当、作ってもらってませんよね」

「ちょ、ちょっと忘れただけでしょっ!」

「毎日?」

「ううっ……」

 ひかりさんがわざとやってるわけじゃないのはわかっている。

 今日は朝、ちゃんと準備しているのを見た。

「でも、俺の分はどこに行っちゃったんでしょうね」

「太市さんも見ていたですよね」

「ええ、フタを閉めるところ見てましたから、おいしそうだったし」

「わたし、ちゃんとカバンに入れたつもりだったんだけど……」

 って、ひかりさん、一個のお弁当を俺の方に押しやりながら、

「太市さん食べてください、わたしはいいですから」

 って、言ってすぐ、ひかりさんのお腹が「クー」。

「今、お腹が鳴りましたよ」

「鳴いてません」

 否定すると、またいいタイミングで「キュルルー」。

 俺がじっと見つめていると、

「鳴いてません!」

「鳴りましたよね?」

「鳴いてないもんっ!」

 俺、いつものように購買で買ったパンを押しやりながら、

「なんだかお昼の交換、当たり前になっちゃいましたね」

「うう……太市さんいいですか?」

「何です?」

「いつも交換してもらってますが……」

「?」

「太市さんってパン派なんですか?」

「……」

 じっと見つめているひかりさん。

 パン派……正直言うと、別にパン好きってわけじゃない。

 俺は天井に視線を泳がせてから、

「うーん、ひかりさんは俺の家がパン屋なの、知ってますよね」

「はい」

「だから、パンはいつも見てたから、パン派って訳じゃ」

「でも、いつもパンばっかり買ってますよね」

 ひかりさん、紙袋からパンを出して一口。

 今日はコロッケパンとナポリタン。

 ひかりさんはコロッケの方を頬張りながら、しあわせそうな顔をする。

 でも、すぐに真顔に戻る。

 どうしてすぐ、真面目な顔になっちゃうんだろ。

「ひかりさんはパンは嫌いなんです? 好きなんです?」

「うう……わたしはゴハンが一番と思うんです!」

「そうなんだ」

「購買におにぎり、売ってますよね」

「ええ……」

「なんでパンばっかりでおにぎりにしないんですか?」

「なんでだろ……」

 なんとなく、パンに手が伸びてしまう。

 おにぎりにはちょっと手が伸びないな~って感じだ。

 本当に、自分でもよくわからない。

「やっぱり家がパン屋さんだから、本能でパンなんじゃないですか?」

「それはないと思うんだけど……」

 俺はひかりさんのお弁当を開けて一口。

 ひかりさんのお弁当、冷めてもすごくおいしい。

 俺がパクパク食べていると、ひかりさんがマジマジと見つめている。

 購買のパンもおいしいとは思うけど……

 この弁当と比べるとちょっとね。

 俺はタコさんウィンナーをつまむと、

「はい、あーん」

「あーん」

 この「あーん」に素直につられるひかりさん、ちょっと面白いからやめられない。

 ひかりさん、パクっと食べてから真っ赤になる。

 ちょっとこの恋人ゴッコ、楽しみになってきたかな。

「ひかりちゃんとお兄さん~、ラブラブ~」

「!!」

 声のぬしはまいちゃんだ。

 俺とひかりさんを交互に見ながら、

「お邪魔だった~?」

 って、ひかりさんは耳まで真っ赤になってうつむいてしまう。

 俺は力無く笑いながら、

「どうかしたの、ここに来るなんて?」

「えへへ~、お兄さんに会いたくなったから~」

「言ってるだけだよね」

「わかる~?」

「何か用? ひかりさんに用?」

「ううん、お兄さんに用事~」

「俺?」

 まいちゃん、頷きながら、

「店長さんが風邪をひいちゃったんです~」

「店長さんって、あのメイド喫茶の?」

「はい~、で~、お店が回らないんです~」

「だから?」

「お兄さん~、カウンターやってくれませんか~」

「!!」

「お兄さんの家~、パン屋さんでしたよね~」

「うん、だけど?」

「お仕事~、手伝った事~、ありますよね~」

「それでか……」

 俺、喫茶店のバイトなんてやった事ないから、一度は首を横に振った。

 でも、まいちゃん、すぐにスマホを出して画面を見せながら、

「拒否権は~、ないんです~」

「!」

 画面を見る俺とひかりさん。

 そこには「あーん」の最中の写真が!

 ひかりさん、真っ赤になって席を立つと、

「ちょ、ちょっとお花を摘みにっ!」

 言いながらひかりさんは、一瞬鬼の表情になってまいちゃんを見つめた。

 でも、まいちゃんはニコニコ顔でひかりさんを見つめ返す。

 俺は写真を見ながら、

「うまく撮れてるね」

「えへへ~、早苗ちゃんに送信しちゃおうかな~」

「すれば?」

 だってこの間メイド喫茶で「あーん」の写真を見られてる。

 もう、どうでもいいって感じだ、この手の脅しは。

 まいちゃん、スマホを握りしめてモジモジすると、

「手伝って~」

「嫌」

「意地悪~」

「ふーんだ」

 って、いきなりまいちゃん俺に抱きつくと、

「わ~ん、お兄さんの馬鹿バカ~っ!」

「!」

「あたしの裸見たのに~、遊びだったの~」

「!!」

「遊びだったんだ~」

 ああ、周囲の目が気になる。

 俺、まいちゃんの手を取って教室の外へ……

 って、「転校生、レイプマン?」なんてつぶやきが聞こえる。

 うう、ひかりさんがいてくれたら、まいちゃん止めてくれたんだろうな。

 俺、まいちゃんを廊下に連れ出すと、

「俺の評判ガタ落ち!」

「ごめんなさ~い」

「本気で謝ってる?」

「ちょっと~楽しいかも~ってね~」

「怒るよ!」

「怒ってるんじゃ~?」

 なんだかこっちが怒っても、この調子で肩透かしみたいな感じだ。

「なんだか、バイト手伝うの絶対みたいな感じだけど」

「おねがい~」

 でも、ちょっと考えてから、

「それってアルバイト代出るのかな?」

「はい~」

「うん、簡単な仕事なら行くよ、うん」

 俺は了解した。

 アルバイトをやった事がなかったのもあるんだけど……

 

 アルバイトをやった事がなかったのもあるんだけど……

 喫茶店の仕事、ちょっと面白そうかなって思ったのが一番かな。

 それに、あのおいしいケーキの秘密もわかるかもしれない。

「お兄さんは~、カウンターをおねがいします~」

「俺、ここで何すればいいの?」

「注文を受けて~調理とか~」

 なんだか見れば、全部レンジで出来ちゃう料理ばっかりだ。

「簡単なのばっか……」

「メイド喫茶ですから~」

 それも和風なメイド喫茶だから、メニューはなんだか和菓子屋さんっぽいのが多い。

「メイド喫茶ってケーキとかコーヒーとかオムライスなイメージなんだけど」

「ふふ、お兄さん~、ここは和風なんですよ~」

「うん、でも、それもいいかな」

「どうしたんです~」

「これはこれで萌えるかも~」

「エッチな目で見たら~、早苗ちゃんに言いますよ~」

「やめて、面倒くさいから」

「それとも~、ひかりちゃんに言いますよ~」

「……」

 俺、言葉もなかった。

 なんだか余計な事をひかりさんに言われたら……

 なんだかすごい機嫌を悪くしそうな気がする……

「ねぇ、ひかりさんって怒るとこわい?」

 まいちゃんはプイと顔をそむけて、何も答えてくれなかった。

 するとお店のドアが開く音、お客さんだ。

 まいちゃん早速接客。

 俺はぼんやりとまいちゃんとお客さんのやりとりを見ていた。

 すぐにまいちゃん、俺の所に来て、

「あの~、お兄さん~、オムライスとか作れます~?」

「オムライス?」

「これ」

 メニューを見せてくれるまいちゃん。

 この間は軽く食べただけだから、見てないページだった。

「ふーん、カレーとオムライスなんだ……和風だからどんぶりかと思った」

「どんぶり~、おしゃれじゃないし~」

「むう、おいしいのに」

「あたし~、牛丼好きです~」

「あ、俺も……じゃなくて、コレ、作ればいいの?」

「!!」

「レシピはあるみたいだから、作るね」

「お兄さん~、レシピ見て~、作れるの~」

 俺、なんとなくまいちゃんが不安がっているのがわかった。

 でも、俺、料理はそこそこだ。

 名古屋の頃は両親が忙しければ自分で全部やらないといけなかった。

 最初は料理も食べれる程度だったけど……せっかく食べるならおいしいのがいいって思うようになった。

 オムライスはテレビなんかでもよくやってたから、おいしいのを作るのに何度も挑戦していたりする。

 俺はレシピのノートを見ながら、さっさと作ってしまう。

「ふふ、どうだー!」

「お兄さん~、すごい~」

 まいちゃんがびっくりした目で見ているのがおかしい。

「ほら、はやく持って行く、ケチャップも忘れずに!」

「あ! は~い!」

 まいちゃんはテーブルに。

 俺はそんなまいちゃんの接客をぼんやり見ていた。

 むむ、ケチャップで字を書いてる、おいしくなるおまじない、見てみたいな、この間やってくれなかったし。


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