芽衣さん再び!
今日の風呂は何事もなかった。
また誰か入ってきたら、面倒くさい事になるから嫌かな。
「ラッキー」って呼ばれると、なんだか犬みたいですごい嫌。
俺がリビングに戻ってみると、ひかりさんがテレビを見ているところだった。
「あ、お風呂、誰か入らないんですかね?」
俺が聞くと、ひかりさんは時計に目をやって、
「あ、わたしが入ります、テレビ終わったら」
「ドラマ好きなんだ」
「面白いから」
俺もひかりさんの隣に座ってテレビに目をやる。
韓国の時代劇をやっていた。
二人の武人が闘っていて、一方の拳がヒット。
「あ!」
ひかりさん、そのシーンを見て声を上げると、
「太市さん、お腹の具合は大丈夫です?」
「え? お腹?」
「穂のかにやられた所」
「ああ!」
「痛くないんです?」
「別に痛くはないけれど、洗っていたら痕が残っていたかな」
俺がシャツをまくると、ひかりさんが覗きこむ。
「まだ痕、残ってますね」
「いいパンチだったからなぁ」
「ふふ、穂のか、力強いから」
ひかりさんが真剣な顔で痕を触っていると、
「コラーッ!」
「!!」
俺達の背後に、目のすわった芽衣さんがいた。
腕を組んでじっと俺達を見据えている。
「ちょっとあんた達、何してんのよっ!」
「芽衣さん!」
「芽衣姉!」
って、芽衣さん、まず俺の耳をつまむと引っ張って、
「神代くん、何で病院に来ないのっ!」
「え、えっと、もう痛くないし」
「痕、残ってるでしょ!」
「そ、そりゃ、そうなんですが」
「病院に来なさいよっ!」
「耳を引っ張るの止めてください、痛いいたいっ!」
って、芽衣さん、今度はひかりさんに、
「ちょっとひかり、あんた何やってんのよ!」
「え? 芽衣姉さん、何?」
「何じゃないでしょ、素人が怪我とか見てるのよっ!」
「えっ? えっ!」
って、芽衣さんの目が細められ、ひかりさんを見つめる。
「さてはエッチな事をしようとしてたわね?」
「!!」
「若い男にシャツまくらせて、触って、このエロ娘っ!」
言われて真っ赤になるひかりさん。
立ちあがると、
「わたし、お風呂に入るね」
そそくさと行ってしまう。
「ふふ、うまくいったわね」
芽衣さんの小さい声。
すぐに芽衣さん、俺の方に向き直って、
「しょうがないわね、私が診てあげるわよっ!」
言うと、何か薬のような物をポケットから出して、
「病院から持ってきてあげたんだからねっ!」
勝手に持ち出していいのかな~
芽衣さんに引っ張られて俺の部屋に、
「何もない部屋ね」
「引っ越してきたばっかりだし、体一つで来たから」
「まぁ、いいわ、ほら、横になりなさいよ」
俺はベットに腰を下ろすと、シャツをまくる。
むむ、穂のかちゃんのパンチの痕は赤黒い。
見てると痛くなってくるから、目を逸らしてしまった。
って、芽衣さんはドアの所でスマホを見ていたが、俺に向き直ると、
「ちょっとあんた!」
「はい?」
「穂のかとデートしてるの?」
「またそれ……一緒に帰り道でラーメン食べただけですよ」
「むう、デートにラーメンはちょっと雰囲気が……」
って、スマホを見ている芽衣さんの表情がまたピクリ。
「何、まいのお店にも行ったの? メイドマニア?」
「仕事先を見て見たかったんです!」
「本当かなぁ~」
って、すぐにまたピクリとして、
「ちょっとちょっと! 籾の所にも行ったわけ?」
「まいちゃんのお店のすぐ近くですよね」
「何、あんた、巫女マニア?」
「なんでもそっちに持って行きますね」
って、またピクリ……今度は怒りのオーラが見える、何でだろ?
「ちょっとあんた、もうひかりと出来てるの!」
「え?」
「これは何よっ!」
ってメイド喫茶で「あーん」のシーンだった、写メ送ったのまいちゃんだな。
芽衣さん、俺をベットに押し倒すと、
「説明しないさよ、説明っ!」
「え、えっと、ケーキおいしかったから、おすそ分けしたんですよ」
「……」
芽衣さん、スマホをベットに置くと、
「もういいわ、何だか、ほら、穂のかに叩かれた痕、見せなさいよ、診てあげるから」
「あ、はい……」
「邪魔だからシャツ脱いじゃって、薬付いちゃうし」
「はぁ」
言われるのももっともなので、シャツを脱いで芽衣さんに見せる。
芽衣さんはパンチの痕に顔を寄せて、
「本当はこんな事、したりしないんだからね!」
「はぁ」
「穂のかがDVやってるなんて言われたくないだけなんだからね!」
「はぁ」
「ほら、薬、塗ってあげるから、横になりなさいよ!」
「はぁ」
って、横になった途端、お腹の所が冷んやりとした。
芽衣さんは真剣な顔で薬を塗っている、こんな顔を見たら看護師さんなんだなって思う。
「痛くない?」
「大丈夫です」
「結構すごい痕になってるわね」
「すぐ消えると思ったんだけど」
「むむ、もしかしたら内出血とか、内臓破裂とか!」
なんだか声の調子が変だぞ。
「内出血」はもしかしたらって思う。
でも「破裂」ってどうよ、俺、今日、普通に食事してるし。
俺、芽衣さんが大袈裟言ってるって思ってついつい笑ってしまう。
堪えて顔をあげたら……芽衣さん一升瓶あおってる。
「ぷはーっ!」
「めめめ芽衣さん、何やってんですか!」
「お・さ・けっ!」
「そりゃ、見ればわかります!」
「ねぇねぇ、あんた、ひかりと出来ちゃってるわけ?」
うわ、酒臭っ!
それにこのネタ、もう聞きあきた。
「穂のかと出来てるの? ロリコン?」
芽衣さん、また一升瓶を「グイッ」。
「それともメイドマニア? 巫女マニア?」
「ちがっ!」
「むちゅー!」
「むーっ!」
いきなりキスしてきた、しゃべってる最中に!
「ちゅーっ!」
「むーっ!」
し、舌入れてるな、この酔っ払いっ!
「チュポン」なんて言って芽衣さんは離れると、
「じゃあ、今から看護婦さんマニアになりなさい、看護婦さんマニア!」
「芽衣さん、いいかげんにしてくださいっ!」
「ほらほら~『お注射しちゃうぞ~』とか言いなさいよ」
「芽衣さんとんだエロ娘ですねっ!」
「入院患者から没収したエロ本で勉強したのよっ!」
「うわ、なんだか高校生レベル」
って、急に芽衣さんのオーラが桃色から暗黒に。
「そーよ、高校の時、みんなあっという間に経験しちゃってわたしだけボッチ!」
それってボッチって言うのかな?
高校の時に経験って言うけど、俺、まだだし。
ネットや噂ほど、経験してるヤツなんていないんじゃないかな?
大体そんなのって「高校の時」って理由でやっちゃうもんでもないんじゃ?
「ナース連中はどんどん患者の金持ちとひっつくし!」
「はぁ」
「じゃなかったら若い男とひっつくし!」
「はぁ」
「インターンの若い男と出来ちゃうし!」
「はぁ」
「なのになのに、私はどーしてなのよっ!」
俺、思うに、芽衣さんはすごいかわいいし綺麗な方だと思う。
でも、このエロやら酒癖は絶対引くだろ。
きっとこれで今まで失敗してるな。
「さ、これから『ひとつ』になりましょ! 『一緒』になりましょ!」
うん、さっきのぼやきから見て、芽衣さん今まで経験なしと見た!
俺も経験ないけど、今はこの状況をとりあえず避けた方がいいだろう。
もしかしたら、早苗さんの策略かもしれないしね。
もし、俺のカンが正しければ、芽衣さん今まで言い寄られた事はないっ!
逆に強く出たらいいだろう。
俺も未経験だけど、テレビやドラマで知ってる知識総動員だぜ。
よーし、行くぞー!
俺、芽衣さんを押し倒して、
「芽衣さん、いいんだね、最初はすげー痛いって言うけどっ!」
どうよ、強気で押しちゃえ。
あ、芽衣さん、一瞬驚いたぞ。
「きゃーん、神代くん、かっこいいーっ!」
え!
俺、今度は逆に押し倒されちゃった。
さっき塗ってた薬をドバドバ俺に掛けながら、
「えいえいっ! これって実はローション、ア●ゾ●でこっそりゲット!」
ア●ゾ●で買ったらこっそりじゃない気もするけど。
ローションって……芽衣さん最初から犯る気満々だったんだ!
「やさしくしてね!」
馬乗りになってウィンク!
俺、絶体絶命!
って、「ゴン」って音がして、芽衣さん崩れ落ちた。
そこに立っていたのはひかりさんだ。
手……チョップの後かな。
「まったく芽衣姉は!」
「ひかりさん、ありがとう、どうしてわかったの?」
「いや、なんとなく虫の知らせ」
「そ、そうですか」
って、そんなひかりさんの後ろには、早苗さんがこめかみをピクピクさせて立っていた。
「ちょっ……神代くん、君はまたなんて事をっ!」
ひかりさんを押し退けて早苗さんは、
「芽衣と不適切な関係だったとは!」
「早苗さん、どこから見てたんです?」
「さあ?」
「襲われてたのは俺なんですよ」
「そ、そうなのか! 普通男の方が悪いのではないか?」
ひかりさん、ぐったりした芽衣さんを引っ張って運びながら、
「早苗姉さん、ほら、手伝って」
「ひかり、あんた、神代くんの味方なの!」
「早苗姉さんだって、芽衣姉さんの事、知ってるでしょ」
「そ、そりゃぁ……」
早苗さん、言われて芽衣さんの足を抱えながら、
「でも、こーゆーのは普通男の方が……」
そんな早苗さんの足がローションを蹴った。
「むむ、こんな物を買うのは男ではないのかっ!」
早苗さん、抱えていた手を放して、転がっているローションを拾った。
ひかりさんも抱えていた手を放して、一緒になってローションを見ている。
芽衣さん、「ゴン」なんていって床に落ちちゃったけど……目、覚まさないな。
早苗さんとひかりさん、ローションを見て興味津々みたいだけど、
「うん……これって、この間、わたしが受け取った荷物じゃないかしら?」
「え、ひかり、これ受け取ったの?」
「ア●ゾ●の荷物で、間違って開けちゃったら……確かこれだったと思う」
「そ、そうなの……」
「わたし、芽衣姉さん怒ると思って、わからないように梱包し直したから」
「悪いのは、芽衣なわけね」
俺の無罪は証明されたみたいだ。
で、ちらっとひかりさんを見ると、まだローションを見ている。
ひかりさん、俺と目が合うと、ローションを見せながら、
「ね! 太市さん!」
「何です?」
「これってエッチな気分になるんですかっ!」
「え、えっと、それを俺に聞くんです?」
「だ、だって男の人はそんなのに興味があるとばかり……」
「それ、ア●ゾ●でゲットしたの、芽衣さんでしょ、芽衣さんに聞いてくださいっ!」
「え? だって男の人は……」
俺だって知らないよ、そんなの!




