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クレープいかかです?

 米神荘に帰った途端、俺、また正座させられてます、脱衣所で。

 前には早苗さんが仁王立ち。

「神代くん、君はまたやってくれたようだね!」

「え、えっと、何を?」

「まいと籾のバイト先に行ったそうだな」

「何で知ってるんです?」

「メールが来たのだ」

 言いながらスマホの画面を見せてくれた。

 どうもメイド喫茶のまいちゃんかららしい。

 俺がひかりさんに「あーん」の最中が写っている。

 なんて瞬間を撮ってくれたんだ、こりゃ怒られるだろ。

「ついにひかりに手を出したか、この男は!」

「ちょっとケーキを分けただけで」

「なにーっ! ケーキだとーっ!」

「そこまで声を上げないでも」

 うーん、俺はさっきから穂のかちゃんの足音を期待していたんだけど……

 今日はあの小さな足音が来てくれない。

 自力で早苗さんを攻略しないとダメか。

「まったく、間違いを起こす手前ではないか!」

「あの……」

「何だ、言い訳かい?」

「えっとですね、俺、ひかりさんと一緒にお弁当を食べてます」

「うん、それは一緒のクラスらしいから、別段いいではないか」

「えっと、そこで、『あーん』しあってるんですけど、いいですか?」

 そんな事してないけど……言ってみた。

「なーにーっ!」

 案の定早苗さんかかってきたぞ。

「神代くん、君はひかりとどこまで行ったのかね」

「まいちゃんと籾ちゃんのアルバイト先」

「そんな事ではない、キスとか、もにょもにょ」

「え? よく聞こえません、もう一度お願いします!」

 よく聞こえているけど、早苗さん面白いからいじってやれ。

 って、耳まで真っ赤にして早苗さんは、

「キスとか!」

「他には?」

「むーっ!」

 ああ、頭から湯気立ててる、中学の先生だけど、なんだかかわいいな。

 でも、本気で怒ってきたらコワイから、この辺でやめておかないとね。

 俺はカバンから、帰り道こっそり買ったクレープを出した。

 本当は穂のかちゃんのご機嫌取りで買ったんだけど、今は早苗さんだ。

「早苗さんにお土産です、いつもお世話になっています!」

「!!」

「甘いの、お嫌いですか?」

「!!」

 俺がじっと見つめていると、早苗さんはクレープを受け取ってプルプル震えながら、

「おおお男の子からこんなの貰った事なんてないから……」

「え? 彼氏とかいないんです?」

「そうだ、おかしいか!」

「おかしいでしょ、何で彼氏いないんですか?」

「え? だって私、こんなだし」

「かわいいと……綺麗だと思うけど」

 歳上にかわいいって言っていいかわからないけど、ちょっとおっちょこちょいなところはかわいいかな。

 怒ってる時はコワイけど。

 って、早苗さん、もう耳まで真っ赤でおろおろしているよ。

「大丈夫ですか?」

「ここここっぱずかしいっ!」

「とりあえず、せっかく買ったから食べてもらえません?」

「あ、ありがとう!」

 言ってから、勢いよくパクっと一口。

 唇がモグモグしたと思ったら、顔色が戻って、でも、目尻が下がって、

「おいしい~」

 普段の早苗さんじゃ、想像もできない崩れっぷりだ。

 トロンとした瞳で宙を泳ぐ視線。

 でも、その目が急に元に戻った。

 そして、クレープと俺を何度も何度も交互に見て、

「ここここれは何だっ!」

「クレープです、クレープ、食べた事ないんですか?」

「ここここれがクレープか!」

 なんだか雷でも食らったようなびっくり顔。

「クレープ、変でした」

「い、いや、初めてだったんで……そうか」

「も、もしかしたら今まで付き合った経験とかないんじゃないです?」

「!!」

 また赤くなった。

 今度は頭から勢いよく何か噴き出してる。

「だだだって今まで先生になるのに一杯いっぱいでっ!」

「そういえば……早苗さんってすごい若いんじゃないです?」

「じょじょじょ女性に歳の話しをするのかっっ!」

「何年生まれです?」

「○○年」

「え! 大学出てすぐ先生になったんです!」

「い、いいじゃないっ! バカーっ!」

 あ、行っちゃった。

 なんだか早苗さん、いつもと違ってかわいかったかな。


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