まいちゃんと籾ちゃんのアルバイト
「えっと、太市さん、メイド喫茶って知ってます?」
「テレビで、アニメで、漫画で知ってます」
「えーっと、だとしたら……」
「?」
「ちょっとイメージしているのと違うかもしれません」
放課後、俺とひかりさんは一緒になって最寄りの駅前にいた。
駅近くにある「米神神社」が籾ちゃんが巫女をやってる神社。
その神社の門前に、まいちゃんの働いているメイド喫茶があるらしい。
駅前の喫茶店は一つしかなかった。
ぱっと見、メイド喫茶って感じじゃない。
中に入ってみると……まいちゃんがいた。
「いらっしゃいませ……って、ひかりちゃんとお兄さん~」
メイド服じゃなくて、和装(?)のまいちゃんがいた。
「えへへ、来てくれたんですね~」
平日の夕方、別に電車の時間でもないから、客は俺達だけ。
まいちゃんに案内されて、俺達は窓際の席に着いた。
「お兄さん、どうしてここに~?」
「メイド喫茶って聞いて一度行きたかったから!」
「ふふ、ちょっと違うでしょ~」
「うん、メイド服ってヒラヒラの洋服って思ってたから」
「ここは神社の前だから、和服なんです~」
「でも、かわいいからOK!」
「もう、お兄さんったら~」
まいちゃんはメニューを置いて、カウンターのマスターの方にちらっと目をやってから、
「でも~」
「?」
「お兄さんが~、お願いするなら~、ちょっとだけサービスしても~」
「え? サービスって?」
「ふふ、お楽しみに~」
って、カウンターの方に行ってしまった。
俺はひかりさんに目をやると、
「メイド喫茶っていっても、落ち着いた感じなんですね、和風の」
「メイド喫茶っていってもいいのか知らないけど、一応ね」
ひかりさんはメニューに目をやりながら、
「まいがここのアルバイトをするって言った時、早苗姉さんすごい反対したの」
「ちょっと、わかるかな……だってメイド喫茶って……」
「わたしも知ってる、テレビやアニメで見た事あるから」
「早苗さん、よく折れましたね」
「ここのコーヒー、おいしいの」
「そ、そうなんだ」
ひかりさんは俺にメニューを見せながら、
「和風の喫茶店なのにコーヒーがおいしいってのも、変わってるかしら」
メニューにはコーヒーに紅茶・緑茶に玉露・抹茶。
まいちゃんがお冷を持ってやって来るのに、ひかりさんはコーヒーとあずき白玉。
俺は無難にコーヒーとケーキにした。
「……」
ひかりさんが固まった笑顔で、まいちゃんもポカンと俺を見て固まっている。
「どうかした?」
まいちゃんはオーダー取るとカウンターの方に戻り、ひかりさんは俺をじっと見続けている。
でも、なんだかその目、怒ってるように見えた。
「どうかしました?」
「え、えっと、いや、その!」
すぐにコーヒーとあずき白玉、ケーキが出てくる。
まいちゃんは俺をじっと見つめながら、
「お兄さんが~、お願いするなら~」
「うん? 何? 俺、さっきから気になってたんだけど」
「おいしくなる~、おまじない~、します~?」
って、ひかりさんの怒った顔がまいちゃんに向けられる。
俺、ちょっと興味あるけど……
「ね、まいちゃん」
「何ですか~」
「その、『おいしくなるおなじない』普段からやってるの?」
「まさか~」
俺はさっさとケーキにフォークを入れる。
一口食べてしまう……こうすれば「おまじない」できまい。
でも「おまじない」なんて必要なかった。
そんな事しなくても、このケーキはすごいおいしい。
地元にいた時、おいしいって評判のお店で一度食べた事がある。
そこのケーキもおいしかったけど、今、口にしたのはもっとうまい。
「まいちゃん、このケーキ、半端なくうまいよ」
「え、そうなんですか~」
「働いているのに、食べた事ないの?」
「だって~、お仕事だし~、商品ですから~」
「ほら、あーん」
俺が切り分けたのを差し出すと、まいちゃんはついつい反応してパクッ。
最初は「しまった」って表情なまいちゃん。
でも、すぐにケーキのおいしさに気付いたのか、ダッシュでカウンターに戻ってしまう。
なんだかカウンターでお店の人と盛り上がってるのがわかった。
「ちょ、ちょっと、太市さんっ!」
「どうしたんです、ひかりさん?」
「今、また恋人ゴッコみたいな真似をっ!」
「じゃ、ひかりさんもあーん」
「あーん」
お店には誰もいないから、米神荘と一緒だ。
俺がケーキを差し出すと、ひかりさんはつられて「あーん」。
食べてしまってから、さっきのまいちゃんと同じ反応だ。
でも、すぐにケーキのおいしさがわかって、口元を隠しながら神妙な顔になる。
「ね、ここのケーキ、すごいおいしいでしょ、男の俺にだってわかる」
「はい……おいしいですね」
「今まで食べた事ないんです?」
「はい……いつも白玉ばっかり」
「白玉、好きなんですね~」
それを聞いて、俺はなんだかあんこの入ったものが食べたくなった。
あずき白玉を一口貰えばよかったんだけど、俺は言い出せなかった。
店を出て、すぐに神社の入り口近くにある回転焼き屋で4つ買う。
すぐに一つを食べながら、
「うーん、ケーキもいいけど、あんこもいいよな~」
「ふふ、太市さんって甘い物好きなんですね」
「甘い物好きってわけでもないと思うけど、おいしかったらいいかな~」
「くいしんぼうなんですか?」
「かも……でも、穂のかちゃんにはかなわないかな」
俺とひかりさんは大きな鳥居をくぐり、石段を上がった。
境内に参拝客はいなくて、ほうきで落ち葉を掃く籾ちゃんだけだ。
「あ、ひかりちゃん、兄さん」
あずき色の袴でちょこちょこ駆けて来る籾ちゃん。
「どうしたんですか?」
「ふふ、籾ちゃんの働いているの見たいって」
「そうなんですか」
「まいちゃんのお店にも寄って来たのよ」
「あ、二人だけ食べたんだ、ずるいですっ!」
って、何故か俺を厳しい目で見る籾ちゃん。
「聞いてますよ、兄さん」
「な、何を?」
「穂のかちゃんとデートしたそうですね」
「デートじゃなくて、買い食い」
「ひかりちゃんとデートしたんですよね」
「まいちゃんのバイト先に行っただけ」
「ずるいです、わたくしの裸も見たのに、わたくしだけ何もなし!」
「裸見たって、あれは事故」
「ラッキーさん」
「うう、ラッキーはやめて」
って、俺、さっき買った回転焼きがあるや。
「これでいい? まだ温かいよ」
「!!」
籾ちゃんは新聞紙の包みに入った回転焼きをじっと見て、一瞬はパッと明るくなった。
でも、すぐに神妙な顔で俺を見ながら、
「ほ、本気ですか? 兄さん」
「とりあえず、それで機嫌なおしてくれないかな~って」
「ほ、本気ですか?」
「回転焼き、嫌い?」
籾ちゃんはゆっくりと一つをつまむと口に運んだ。
最初はモソモソ口を動かしていたが、途中で表情がこわばる。
「おいしいです」
「そりゃよかった~」
俺、ひかりさんに目をやった。
何故かひかりさん、俺をにらみつけている。
何でだろう?




