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はらぺ娘

 授業は……あまり成績の芳しくない俺にとってつらかった。

 七米高、結構レベルが高いのではないだろうか?

 ただ、俺にとって助かるのは学食の混み方だ。

 前の学校よりは学食の混み方がぬるい。

 席をとるのは、七米高も確かに難しいけど、購買の争奪戦はないに等しかった。

 パンは人気がないのかな?

 教室に戻って周囲を見回してみると、弁当持参組みばかり。

「あ、太市さん、どこに行ってたんですか!」

 ひかりさんが手を振ってやってくる。

 って、俺はニコニコ顔で、

「ええ、購買でお昼を買ってました~」

 明るくこたえる、ひかりさん、プウと頬を膨らませて、

「この前、お弁当作るって言いましたよね!」

 そう、それは覚えている。

 でもな~

 朝、食事をしながら眺めていたんだけど、弁当箱の数は四つだったんだよな。

 一つは特大サイズの穂のかちゃん用。

 あとの三つはまいちゃん、籾ちゃん、ひかりさん。

「わたし、今日は残り物じゃない、ちゃんと作ったんですから!」

「はぁ」

「はい、どうぞ!」

「はぁ」

「あの……なんだか嬉しくなさそう」

「はぁ」

「さっきから『はぁ』ばっかりで……わたしのゴハンはおいしくないですか?」

「えっと、じゃあ、聞きますが、ひかりさんのお弁当は?」

「ちゃんと……!」

「ちゃんと?」

「え、えっと……」

 途端に視線が泳ぎ始めるひかりさん。

 俺、わざと棒読みで、

「俺、ひかりさんのお弁当うれしいな~」

「……」

「ひかりさん、一緒にお弁当食べましょうか、ね!」

 ふふ、ひかりさんと一緒にお弁当、すごいしあわせ。

 こんなかわいい娘と一緒にお弁当なんて、前の学校じゃ考えもしなかった。

 別に友達がいなかったわけでないし、一緒に昼を食べる友達くらいはいた。

 でも、彼女がいたってわけじゃない、大体一緒するのは男だった。

「ひかりさん、一緒にお昼」

「太市さん……わざと言ってますね?」

「ええ……なんて言うか……」

「なんて言うか? なんです? 太市さん?」

「朝、ゴハンの時に弁当箱四つしかなかったからですね」

「気付いていたなら言ってくださいよっ!」

「いや、昨日の今日だし」

「うう……」

「ひかりさんって、結構うっかりさんです?」

「!!」

「ですよね」

「うう……早苗姉さんと一緒にしないでくださいっ!」

「そうだ、早苗さんも結構抜けてるよね」

 きっと中学の職員室で早苗さんくしゃみをしているだろう。

「わ、わたしの分のお弁当は別にあるんですーっ!」

「ふーん」

 なんだか意地になったひかりさん、ちょっとかわいい。

 家事をやってるときの姿はしっかりしてるから余計かな。

「じゃあ、このお弁当ありがたくいただきますね」

「はい、どうぞ」

 って、受け取ろうとしたら、ひかりさんのお腹が「くー」って鳴る。

 俺とひかりさんの手が止まった。

 お弁当を介して、指と指が重なる。

「今、お腹の虫が鳴きましたね」

「たたた太市さん、聞きましたね」

「鳴きましたね」

「鳴いてないもんっ!」

「えー」

 ひかりさん、耳まで真っ赤、頭から湯気をたてながら、

「お腹、空いてないもんっ!」

 絶対空いているし。

 俺、お弁当を作る時見ていたから、なんとなく言ってみた。

「卵焼き、塩が効いてて楽しみ~」

「わたしの卵焼きは甘口なんですーっ!」

 って、またひかりさんのお腹が「きゅー」っていった。

「お腹、空いてるよね?」

 ひかりさん、肩をプルプル震わせながら……

 でも、いきなり顔色が戻ると、作り笑顔で、

「もう、今度から『ラッキーさん』って言いますよ?」

「うっ!」

「ラッキーさん……」

 きっと今の俺、体が震えまくってるんじゃないだろうか?

 って、思ったらまたひかりさんのお腹「きゅるるるー」。

 俺は醒めた目でひかりさんを見て、

「はらぺ娘……」

「もうっ!」

「お弁当は頂きます、でも」

「?」

「はらぺ娘からお弁当を取り上げて一人占めしたら気分が」

「はらぺ娘はやめてーっ!」

「半分こにしますか?」

「!!」

 俺、席に着いて、ひかりさんに前の席を指差した。

 都合良く前の席は不在なのだ。

 ひかりさん、大人しく座ったけど、すぐに頬染めして、

「あの……お弁当半分こなんて、なんだか恋人みたいではずか……」

「はらぺ娘」

「もうっ!」

「俺、彼女とかいなかったから、ちょっとこんなの憧れてたんですよ~」

「ははは恥ずかしくないんですか?」

 俺は周囲を見回した。

 カップルは何組かいるし……

「えっと、ひかりさん」

「?」

「七米町って田舎ですよね」

「福岡市内とくらべると田舎ですね」

「あの、他にカップルいるけど……」

「??」

「男子と女子でゴハン一緒したら、ヒューヒューとか言われるんです」

「!!」

「前の高校じゃ、そんなのなかったけど……」

 ひかりさん、難しそうな顔。

 俺、シリアスな顔で、

「中学の頃までは冷やかされてたけど、ここはどうなんです?」

「冷やかされたりはないと思うけど」

「じゃ、半分こでいいですよね」

 お弁当を開ける。

 今朝、作っている時にちょっとだけかいだ香りだ。

 卵焼き……実は甘いの、知っている、すごい楽しみ。

 ひじきとか鮭とか和風なお弁当。

 俺がお弁当の蓋にゴハンを分けようとしていると、

「ラッキーさん」

「ラッキーさんはやめて~」

「たたた太市さん、やっぱりこっぱずかしくないです?」

「え? なんで? はらぺ娘さん」

「怒りますよ?」

 って、俺とひかりさんから見える位置のカップルが「あーん」をしている。

 俺はひかりさんに目を戻して、

「別にあれをやってくれってわけじゃなく、純粋に半分こ」

「こっぱずかしい」

「意識してるの、ひかりさんですよね」

「だだだだって恋心が芽生えるかもっ!」

「おおおお俺はうれしいかもっ!」

 って、俺は軽い気持ちで返したつもりだけど……

 よくよく考えたらすごい告白チックだったかも!

 ひかりさんはすごいかわいいから彼女にできたら「ラッキーさん」だぜ。

「あの、わたしは太市さんの買って来たのでいいです」

「え、これ?」

「じゃあ、いただきま……」

 って、ひかりさん、パンを見て固まっちゃった。

「どうしました?」

「え、ええと……」

「パン、嫌いです?」

「え、ええと……」

 ひかりさん、汗をにじませながら、

「いただきますっ!」

 目をつぶってかぶりつく。

 今日のパンはやきそばパンだけど、嫌いなのかな?

 口をモグモグさせて、ひかりさんの表情が落ち着く。

「おいしい……」

 そりゃそうだろ、やきそばパンは上位ランカーだし。

 でも、すぐにひかりさんの表情が険しくなる。

 なんで俺をにらむのかな?



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