一人足りない…
朝、眠い目をこすりながらリビングに向かう。
「おはようございます、太市さん」
「おはようございます、ひかりさん」
挨拶を交わしていると、先に席に着いていた早苗さんが俺に目をくれる。
「おはよう、神代くん、ちょっといい?」
「?」
俺はテーブルに着く前に捕まって風呂場の方へ、
でも、今日の朝食のチェックは忘れない。
ゴハン、ベーコンエッグ、サラダにスープ、洋食風かな。
脱衣所に連れ込まれて、早苗さんはドアをロックする。
「なんだかひかりと仲好くなってるみたいね」
「え?」
「太市くんなんて呼ばれてたわよね」
「はぁ……」
「朝、まいや籾もお兄ちゃんみたいに言ってたわよ」
「そうですか」
「話は聞いている、私は不安だよ」
「何が……です?」
俺はどっちかというと、みんなと仲良くなっているように思ってた。
それを不安がられるなんて……
「越野くんはなんとも思わないの?」
「何が……です?」
「越野くんはラッキーだと思っていてもだね」
「そのラッキーはなんだか嫌なんですけど」
「どっちにしても、私はそのラッキーがいつか間違いになるんじゃないかって思ってるんだよ」
むう、それは確かに気をつけないといけないな。
みんなかわいいから、ついついムラムラしちゃうかもしれない。
「いいかい、風呂場には鍵があるんだ」
「!!」
「風呂に入る時は鍵をするんだ、ここ」
って、鍵をかけてみせる早苗さん。
「いいか、もう間違いを起こすんじゃないぞ」
腕を組んで厳しい目をする早苗さんに俺は頷いたが、すぐに足音が近付いてきて、ドアがガタガタ言い出した。
「わーん、トイレー!」
穂のかちゃんの声だ。
俺、早苗さんに、
「ここ、トイレもあるんですよね」
「そ、そうだった……」
って、ガタガタしていたドアが鎮まる。
次の瞬間「バンッ」なんて言ってドアが強引に開かれた。
穂のかちゃんがいそいそと入って来て、トイレのドアに消えて行く。
「あの、早苗さん」
「なんだい、越野くん」
「鍵、壊れましたね」
「うむ、見事にな」
「穂のかちゃんって、すごい力、強いですよね」
「ああ、小さいのにな」
早苗さん、澄まし顔で「コホン」なんて咳払いして、
「ともかくこれ以上間違いを犯したら、私が許さんっ!」
バスに揺られて学校へ。
俺はひかりさんのとなりで、
「早苗さんに注意されたんですよ」
「昨日のはわたしのせいだから、ごめんなさい」
「俺が風呂に入ってると、誰か来る感じがするんだけどな~」
「今まで女ばかりだったから、みんな注意が足りないのかしら」
俺は手であくびを隠しながら、
「あの、ひかりさん、朝のバスで寝過ごした事あります?」
「え?」
「すごい眠い」
「寝てないの?」
「いや……食事の後にこの揺れは眠くなりません?」
「それはちょっとあるかも……」
「ひかりさんのゴハン、おいしいからついつい食べ過ぎちゃってるのかな?」
「ふふ、うまいのね~」
って、ひかりさん、真顔で俺を見つめて、
「ねぇ、太市さん」
「はい?」
「わたしのゴハン、おいしい?」
「ですね~」
俺は家の食事や名古屋の頃の友達の家の食事を思い出してみた。
ついでに外食も思い出したり。
「うーん、ゴハン、すごいうまいかも」
「!!」
「この辺田んぼばっかりだけど、お米もおいしいのかな」
って、ひかりさんの目が今までになくキラキラ。
スッと俺の手を取って、
「太市さんっ! もっと言ってっ!」
「お、おいしいですよ?」
「もっと、ゴハンがおいしいって!」
「ゴハン、おいしいですよ」
「もっと! もっと言って!」
「変なの……ゴハンおいしいです」
「うふふ」
ひかりさんのうれしそうな顔が見れたのはよかったけど……
なんだかちょっと、変な感じが。
俺がじっと見つめていると、それに気付いたのかひかりさんは握る力を強くして、
「ふふ、太市さん、これからもおいしく作りますね!」
「よ、よろしくおねがいします……楽しみだなぁ」
「えへへ、今夜は何にしようかな~」
話している間はよかった、でも、会話が切れるとまたまぶたが重くなる。
何か話して……俺はなんとなく、
「あの、ひかりさん」
「何です?」
「確か米神荘は俺も入れて8人なんですよね?」
「ええ、そうよ、わたし達は7人姉妹なの、女ばっかり」
「7人なんですよね?」
「そうよ」
「早苗さん、芽衣さん、ひかりさん、まいちゃん、籾ちゃん、穂のかちゃん」
「?」
「一人足りません」
「……」
ひかりさんは小さく頷きながら指折り数えていたけど、
「あ、みのり姉さん、抜かしたわね」
「みのり姉さん……姉さんがもう一人いるんですね!」
「えっと、太市さんはきっと会ってると思うんだけど」
「??」
「確か最初に迎えに行ったの、みのり姉さんなんだけど」
バス停にいた女の人だ、あれがみのりさん。
「みのり姉さんはいつもフラフラしてるから……でも、いきなり現れるから」
って、ひかりさん、また厳しい目で俺を見て、
「お風呂場にいきなり現れるかも!」
「あの、俺が覗いたならなんだけど、入って来られるのは俺のせいじゃないです」
「あ、そうだった、わたしがやらかしたんだった」
ひかりさん、自分で頭をコツンしながら微笑んでいた。




