5章の23
「……静謐なる戦慄」
「……え」
「ハハっ。いいんじゃない? 新しいテロ組織の誕生だよ」
両手を肩に上げ、おどけたように発する。
「サイレントクエイク――」
「発現抑制と血球振動で参戦しようってワケだろ? ま、そこそこ期待してるよ」
言うと、一之瀬は背を返した。
「引き上げるよ、諸君。この島の用事は全部終わりだ。急がないと隠蔽工作の邪魔になる」
何の未練も無いように、彼はすたすたと歩み去っていった。
ひらりと、視界に白衣が揺れる。
「まさか、こんな顛末に終わるとはな」
更紗が肩越しの苦笑を投げる。
「あ、置いていくなよ! 立てねぇんだから!」
「まったく世話が焼ける。私の体力も臨界状態なんだぞ」
地面に這いつくばっていたミラを、更紗はひょいと担ぎ上げた。それに一瞬ぎょっとした晴道だったが、ミラは別段何でもないらしく、
「おい、晴道! それに萩原千景っ。セルをぶっ倒すのに協力するんだったらいいけどな、オレ様たちの邪魔するんなら容赦しねぇからな! その腕へし折ってやるぜ!」
と、更紗に抱えられながら宣誓した。
そして、彼女たちは二人同時に挑戦的な笑みを浮かべた。
「言った以上は、揺るぐな、晴道。そして千景――――テロ組織【静謐なる戦慄】」
言い、更紗は歩み出す。伴い、ミラもこの場から遠ざかっていく。
海からの風が、白衣と銀灰色の長髪を緩くたなびかせていた。
揺るぐな――――新しいテロ組織の誕生だ。
晴道は彼女らの背を見つめながら、向けられた言葉を胸中に反芻していた。
すると突然、視界に手が突き出された。
「っ?」
見ると、手の主は不服そうな顔の珠希だった。
「断罪銃を返してください」
への字に曲がった唇から、ぶっきらぼうに要求する。
「言っただろ。誰が返すかよ」
「そうだよ。しつこいよ八ツ坂珠希」
見下すような態度で入ってきた千景を、珠希は憎悪にまみれた目で睨み返した。
「……っ。この爆弾魔……」
「は? 何よ銃刀法違反!」
二人の視線がバチバチと火花を散らす。放っておくといつまでも言い合いを続けそうなので、晴道は仕方なく割って入った。
「いい加減にしてくれよ、二人とも」
「……くっ」
顔をしかめ、珠希が一歩退いた。
「私は認めません。一之瀬さんの命令ですから、この場は引き下がります。しかし! あなたたちが罪人であるという事実は変わりませんからね!」
だんだん声が高くなっていく。そして
「断罪執行者の名に掛けて、次は絶対に仕留めます!」
高々と宣誓し、珠希は背を返した。すぐさま駆け出し、先を行く更紗とミラを追う。
遠ざかっていく黒服。
唯一の断罪執行者である少女。
そうさせたくないから、俺は断罪銃を奪ったんだよ。
声に出さないまま、珠希の背に告げる。
殺さないでくれ、誰も。一人で全てを背負わないでくれ。
「……護る、よ」
ぽそりと、晴道は呟いた。
それに反応したのは、傍らに佇んでいる少女だった。




