5章の21
「まぁ、セルに入ったんなら、俺も問答無用で始末しろって言うけどさ。二人ともセルは悪だって判断したんだろ?」
「それは……」
「そうだ。俺も千景も、セルに同意する気は全くない」
言葉を濁した珠希に代わり、晴道が答える。
一之瀬は確認できたという風に軽く頷く。
「そして俺たちオルタの断罪も気に食わないから、どっちにもつかなかった、と」
「そうだ」
「じゃ、お前たちにとってもセルは敵だよね」
は?
その唐突な問いに晴道は目を丸くする。
こいつは……俺たちの〝意思〟を問うているのか?
しかし問われていることは事実だ。晴道は頷く。
すると一之瀬は、
「沖田晴道。お前にとって俺たちオルタは、今でも敵だよね? そして同時にセルも敵。だったら、否定で結ばれた三角関係ってのもいいんじゃない?」
と、まるで同盟契約のような言葉を向けてきた。
否定で結ばれた三角関係――即ちオルタ、セル、そして俺たち。
オルタと俺たちの間にあるのは、断罪を巡る解釈の違いと、セルへの揺るぎなき否定心。
「共闘しようって……いうつもりなのか?」
遠慮がちに問うた。その答えは、一之瀬がすっと出してきた右手に明らかだった。
不敵と形容できる笑みを向けてくる男。先に呈された異様な提案が、その笑みの不敵さを余計に煽り立てていた。
しかし晴道は感じた。
この男の双眸にも、意思の溢れる瞳がある。
「俺たちオルタの掲げる理念は変わらない。社会的脅威となる変異種を遺伝情報レベルで消滅させることだ。しかしそれを遂げる手段は多い方がいい」
一之瀬の口調から、再び道化が消えていた。
「沖田晴道。お前は敵味方問わず、人が死ぬのが相当嫌なようだな。確かに俺たちは殺す。断罪と言う名の死刑を下す。でも、これはあくまで死を最小限に留めるための行為だ」
ぴく、と晴道は身じろぐ。
一之瀬の言葉は確かに的を射ていた。
死を最小限に留めるため、八ツ坂珠希は罪人を殺す。わかっている。でも納得したくはない。
だって――
「珠希を殺人者にすることに対して、何も思わないのか。一之瀬」
ぽそりと発した、その言葉。
「は?」
その疑問符は四重になっていた。直後、晴道ははっと我に返る。
こんな所で真意を言うつもりなんて無かったのに!
「い、いや、別に深い意味なんてこれっぽっちも無いぜ」
と慌てて弁明するが、すでに遅かった。
「……はー。そういうこと」
一之瀬が頷いた。
「珠希をまもりたい一心だったんだね」
全てを察したように、一言。それに晴道は、自分の頬がかっと染まったのを感じた。肯定してしまったも同然だ。
「……何だよ晴道……オマエそういう理由でこんなバカやってたのかよ」
呆れたようになじったミラ。彼女の半眼は非難を実に顕著に示している。
「ミラ。粗暴なお前にはわからないだろう。これは実に深い問題だ」
経験豊富そうなフォローを挟んだのは更紗。「どういう意味だよ!」と食いかかってきたミラをさらりと流し、生温かい目で晴道を見上げてきた。
「いやっ……だから別にそんな……」
しどろもどろになりながら、晴道はいまだ無言の珠希をちらりと窺った。
黒服の少女は、その場に直立したままだった。飛び交った言葉が消化できていない、というような、言ってしまえば呆けた顔で佇んでいる。
「……私を……まもる?」
か細く、彼女は発した。
問いだったのだろうか。それとも自問だったのだろうか。わからなかったが――――
ああ。そうだ。
俺はあんた、珠希をまもりたかった。まもる、なんて言葉が合っているのかもわからない。でも俺は確かに、珠希を殺人と言う行為から逃がしたくて、ずっと断罪を阻もうとした。
珠希の漆黒の瞳へと、そう言ってしまいそうになった。
その時、
「……んぅ」
足元で呻き声が上がった。




