表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/68

5章の21

「まぁ、セルに入ったんなら、俺も問答無用で始末しろって言うけどさ。二人ともセルは悪だって判断したんだろ?」

「それは……」

「そうだ。俺も千景も、セルに同意する気は全くない」

 言葉を濁した珠希に代わり、晴道が答える。

 一之瀬は確認できたという風に軽く頷く。

「そして俺たちオルタの断罪も気に食わないから、どっちにもつかなかった、と」

「そうだ」

「じゃ、お前たちにとってもセルは敵だよね」

 は?

 その唐突な問いに晴道は目を丸くする。

 こいつは……俺たちの〝意思〟を問うているのか?

 しかし問われていることは事実だ。晴道は頷く。

 すると一之瀬は、

「沖田晴道。お前にとって俺たちオルタは、今でも敵だよね? そして同時にセルも敵。だったら、否定で結ばれた三角関係ってのもいいんじゃない?」

 と、まるで同盟契約のような言葉を向けてきた。

 否定で結ばれた三角関係――即ちオルタ、セル、そして俺たち。

 オルタと俺たちの間にあるのは、断罪を巡る解釈の違いと、セルへの揺るぎなき否定心。

「共闘しようって……いうつもりなのか?」

 遠慮がちに問うた。その答えは、一之瀬がすっと出してきた右手に明らかだった。

 不敵と形容できる笑みを向けてくる男。先に呈された異様な提案が、その笑みの不敵さを余計に煽り立てていた。

 しかし晴道は感じた。

 この男の双眸にも、意思の溢れる瞳がある。

「俺たちオルタの掲げる理念は変わらない。社会的脅威となる変異種を遺伝情報レベルで消滅させることだ。しかしそれを遂げる手段は多い方がいい」

 一之瀬の口調から、再び道化が消えていた。

「沖田晴道。お前は敵味方問わず、人が死ぬのが相当嫌なようだな。確かに俺たちは殺す。断罪と言う名の死刑を下す。でも、これはあくまで死を最小限に留めるための行為だ」

 ぴく、と晴道は身じろぐ。

 一之瀬の言葉は確かに的を射ていた。

 死を最小限に留めるため、八ツ坂珠希は罪人を殺す。わかっている。でも納得したくはない。

 だって――

「珠希を殺人者にすることに対して、何も思わないのか。一之瀬」

 ぽそりと発した、その言葉。

「は?」

 その疑問符は四重になっていた。直後、晴道ははっと我に返る。

 こんな所で真意を言うつもりなんて無かったのに!

「い、いや、別に深い意味なんてこれっぽっちも無いぜ」

 と慌てて弁明するが、すでに遅かった。

「……はー。そういうこと」

 一之瀬が頷いた。

「珠希をまもりたい一心だったんだね」

 全てを察したように、一言。それに晴道は、自分の頬がかっと染まったのを感じた。肯定してしまったも同然だ。

「……何だよ晴道……オマエそういう理由でこんなバカやってたのかよ」

 呆れたようになじったミラ。彼女の半眼は非難を実に顕著に示している。

「ミラ。粗暴なお前にはわからないだろう。これは実に深い問題だ」

 経験豊富そうなフォローを挟んだのは更紗。「どういう意味だよ!」と食いかかってきたミラをさらりと流し、生温かい目で晴道を見上げてきた。

「いやっ……だから別にそんな……」

 しどろもどろになりながら、晴道はいまだ無言の珠希をちらりと窺った。

 黒服の少女は、その場に直立したままだった。飛び交った言葉が消化できていない、というような、言ってしまえば呆けた顔で佇んでいる。

「……私を……まもる?」

 か細く、彼女は発した。

 問いだったのだろうか。それとも自問だったのだろうか。わからなかったが――――

 ああ。そうだ。

 俺はあんた、珠希をまもりたかった。まもる、なんて言葉が合っているのかもわからない。でも俺は確かに、珠希を殺人と言う行為から逃がしたくて、ずっと断罪を阻もうとした。

 珠希の漆黒の瞳へと、そう言ってしまいそうになった。

 その時、

「……んぅ」

 足元で呻き声が上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ