5章の18
誰だ?
初対面なのは明らかだ。こんな奴、会えば一発で覚える。
突如出現したのは、なかなか背の高い青年だった。雰囲気は若い。そこまでは普通だ。その他の身なりが全然普通じゃない。
着ている服は、シルバーグレイのテールコート。素人目に見てもかなり仕立ての良い物のようだ。陽に輝く金色の髪は、後方に向かって針のように逆立てられている。
こんな場所に燕尾服を着て現れるなんて、一体何者だ。
赤で縁取られた金色星のタイカバーから、考えられる選択肢はそんなに多く無かった。
「一之瀬さん!」
「やっほい、八ツ坂」
片手を上げて軽すぎる挨拶をする男――――晴道が予想した、オルタのトップ・一之瀬。
「三小田に四堂も頑張ってるみたいだね。感心だ」
ぐるりと見まわし、まるで部下に掛けるような言葉を発す。
しかし、それとはうって変わり、
「道化が……何をしに来た!」
更紗は忌々しげに言い捨てた。
「何って、そりゃー俺、お前たちの上司だから。現場に来たっていいじゃん」
「オレ様はオマエが上司だなんて認めてねぇからな!」
「つれないなぁ、四堂」
「つーか何でその格好で来てんだよ!」
「何言ってるんだ、テールコートは礼服だよ」
ははは、と一之瀬は笑う。
「一之瀬さん、いい加減に離してください」
「おっと、ごめんな」
実に軽い調子で詫び、ぱっと珠希の腕を離す。
「なぜ止めたのですか」
「うん、八ツ坂だけは素直な部下だ。孤高の上司はとっても嬉しいよ」
「……早く答えてくれませんか」
ジト目だ。まさか珠希にまでこんな表情をさせるとは。
しかし一之瀬は悪びれる様子も無く、両手を肩に広げて言った。
「命令違反は重罪だよ、諸君。だから止めに来たんだ」
ハハっ、と笑う。
はたり。場に静寂が落ちた。
海風に揺らぐ芝生のさざめき。遥か上空を飛ぶ海鳥の鳴き声。
平和なひと時が流れた。
「命令違反……だと?」
更紗の細い問いが、ようやく空気を元に戻した。
それにつられたのか、ミラが勢いよく身を起こし、
「どういう意味だよ、一之瀬!」
食いかかるような口調で問うたが、直後「ってぇ!」と地面に突っ伏す。怪我の事まで頭から吹っ飛んでいたようだ。
命令違反……?
晴道も、その言葉の意味が掴めなかった。
一之瀬は心底呆れた感じで、やれやれと首を振る。
「お前たちは【セル】の解体目的でこの咲浜アイランドに来たんだろー? ついでに【沖田晴道】を保護しろとも言ったけどさ。いつの間にか〝ついで〟がメインになっちゃってない?」
理解を促すように軽く肩をすくめる。
「おまけに千景ちゃんを殺そうとしちゃってさ。自己判断も甚だしいよ? 特に八ツ坂」
びっと向いた一之瀬の人差し指に、珠希は呆けた顔を返した。
「ほら。本部を出る前に言っただろ? 俺。『セルに断罪を処せ』ってさ」
「……ええ」
「それなら、セルじゃない人間に断罪を処すのは命令違反だよ。お前は確かに断罪執行権を持ってるけどさ、お前にある権利は〝執行〟だけで、命令を下すのはこの俺だろ?」
つまり、セルではない人間に断罪銃を向けた行為が違反である。一之瀬の言葉を聞く分にはそう捉えられる。
ちょっと待て。
「味方じゃない奴はみんな敵なんじゃないのか?」
「ん?」
ふいっと向いて来た一之瀬。
その整った顔貌に晴道は、この行動を導く理由になった一つの正義を繰り返した。




