5章の17
「萩原千景の暴走を食い止めてくれたことには、感謝します」
冷静な声が降ってきた。
「しかし、その温情であなたを見逃すつもりはありません」
一つの戦いが決着したことに対する余韻など、一カケラも無い言葉が続く。
その生真面目全開の口調は――
晴道は弾かれたように立ち上がった。
「珠希!」
じゃきん!
二組の目が互いを睨み合った。
「……何のつもりです」
珠希が詰問する目で問うた。それを睨み返す晴道。これが一組目。
そして二組目は、銃口。
即ち、断罪銃と障害銃。
「何のつもりって、あんたが障害銃を構えてるからだろ」
「当然です。私はあなたを断罪に処す義務があるのですから」
「その手段は俺の手の中にあるけどな」
晴道は挑みかけるように言い返した。
それにカチンと来たのか、
「ふざけないでください! 断罪銃を奪うとは卑怯極まりないですよ!」
「奪ったんじゃなくて、あんたが落としたんだろうが!」
「それはどうでもいいことです! さあ、早く断罪銃を返してください!」
喚き、障害銃を突き出した。
しかしここで臆しては元も子も無かった。
「返したら、あんたは絶対発砲するだろ。それが分かってて誰が返すかよ」
虚勢半分、残りは固い意思で、目前の銃口に対抗する。
この距離で障害銃を使われれば、発現抑制を使う間も無いだろう。だから断罪銃を構えた所でさして利も無いのだが、丸腰でいるよりはましだ。
しかし珠希は、悔しげに唇を噛みしめた。
もしかして……気づいてないのか?
いやまさか。オルタの断罪執行者がそんな間抜けな見落としを……
「更紗さん! 援護してください!」
珠希は晴道へ視線を向けたまま、更紗の助けを乞うた。
ホントに気づいてないのかよ! 顔に出かけた晴道だったが、何とか冷静を装った。
「こっちが先だ。放っておくと出血多量で命を落とす」
二人は一緒に声の方向、即ち下方を見る。
そこには、千景の手首を掴んだ更紗の姿。千景の手首からの出血は止まっておらず、意識も失われたままだ。
「千景!」
「大丈夫だ。止血処理をする。並行して細胞時間加速を施すから、安心しろ」
そう言いながら、更紗は白衣のポケットから出した三角巾を、千景の手首にギリギリと巻きつけた。
ほ、と晴道は安堵する。
「何を安心しているのですか。これは罪人を〝死なせないため〟の処置です」
珠希は厳しい口調で指摘する。が、その術は今の彼女の手には無い。
更に珠希は援護を乞う。
「ミラさん! 晴道を拘束してください!」
超駆動を駆使する接近戦専門の少女を呼ぶ、が。
「……わりぃ……立てねぇ」
情けない声が返ってきただけだった。
「ミラの捻挫の治療は後回しにした」
更紗がさらりと加える。
つまり、今戦えるのは珠希一人だ。しかし彼女は多大なる見落としをしているせいで、行動に出ることができない。右手に構える障害銃は、まっすぐに保持されたままだ。
「……発現抑制の照準器に断罪銃を使うなんて……」
「あんたの障害銃と一緒じゃないか」
「でも、あなたが断罪銃を撃つだなんて!」
珠希が悔恨の表情で喚いた、その時。
「はーい、そこまでだよ」
場違いなほどに明るい声が割り込んできた。
それと同時、珠希の右腕が何者かにがしりと掴まれた。
「!」
その人物を認めた途端、晴道の頭は即座に驚きと疑問に支配された。




