表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/68

5章の10

「なっ……つぁっ!」

 久澄の向こう側から、更紗の短い叫びが聞こえた。

「あっ!」

 晴道は我に返った。

 久澄を押しのけリコンビナントの黒山の前へ躍り出る。ひしめき合う生物たちの中で、白い衣が成すすべもなく揉まれていた。

 暴走した発現抑制は、洗脳だけでなく更紗の細胞時間加速をも抑制していた。

「更紗!」

 そう名を叫んだ瞬間。

「提供者」

 笑顔の生物が発した。

「提供者を捕まえようよ」

 その言葉と共に、一体のリコンビナントが晴道目がけて躍りかかった。

「ぅ……わああっ!」

 バキっ

 身をすくめた晴道の耳を、鈍い音が貫く。

 しかし衝撃は無かった。この場の突然変異は全てが抑制されていると言うのに。

 ――――変異がなくてもオレ様はすげぇぜ?

「……ミラ」

 晴道は恐る恐る身を起こし、目前に開かれた光景を視認した。

 リコンビナントの側頭部にめり込んだままの拳を、彼女は憤然とした動作で引いた。

 ぎろり

 少女は怒りに染まった瞳で振り返った。

「役立たずが邪魔してんじゃねぇよ!」

 怒号と共に放たれた拳。

 それは超駆動無しの、純粋な鉄拳となるはずだった。

 発現抑制は晴道の制御を完全に失っていた。まるで時間切れとでも言うように、突如としてこの場に満ちていた抑制効果が消失した。

 誰も反応できなかった。

「止めろ! 死なすぞ!」

 更紗がそう叫んだ瞬間だった。

 視界の端に影が躍った。

 激しい違和感。その色は白だった。

 時間が流速を緩めたように、世界の変化がスローになる。

 晴道の目前には、久澄の身体があった。そしてその向こうには、吃驚に目を見開くミラの姿。

 クスミシラベ、と、更紗の叫びが聞こえた気がした。

 ミラの拳はもう、すぐそこにあった。

 拳の当初の目標は、無差別に突然変異を抑制させた役立たずの変異種。

 その間に滑り込んだ存在を、誰が予測しただろうか。

 そして、失われた発現抑制。

 四堂ミラは人を殺してはならない。しかし超駆動を取り戻した拳の軌道は、一直線に久澄の頭部を貫いていた。

 ミラが何かを叫んだ。

 直後。

 空気の爆ぜる音が鳴った。

 その音と共に、ミラの身体が視界から消えた。

「……」

 何が起こったのかわからなかった。

 少し離れた地面へ、恐る恐る視線を向ける。

 芝生敷きの地に、彼女は身を伏していた。

「ミ……ラ……?」

 横から殴られて倒れたような姿勢だった。受け身を取ることもできなかったのか、無残に昏倒していた。

 幾度か呻きを上げつつも、ミラはゆっくりと身を起こした。

 身体の下になっていた右腕が露わになる。彼女はそこを、すぐさま左手でぎゅっと押さえた。

 そのわずかな間に、晴道は腕に浮かんだ深紅の銃創を認めていた。

 誰が撃った。

 その答えは、問わずとも明らかだった。

 ミラは座り込んだまま、その人物へと笑いかけた。

「いいぜ、珠希」

 硬直した晴道の耳を、もう一発の銃声が殴りつけた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ