5章の9
「……は……?」
晴道は身を引いた。
「ここにある展開の全てが、キミを拒んでいる。キミを異質だと見なしている」
微笑みの中には、鋭い何かがあった。
「正義と正義のぶつかり合いにも、相反する組織同士の戦いにも、晴道くん、キミの居場所は無い。この場所にいるキミはただ無用な存在でしかないんだ」
すっと、久澄は手を差し伸べた。
「孤独だろう、晴道くん。キミの持つ突然変異は本当に貴重だというのに、彼女たちとの柵にしがみ付くがために無用の長物と化している。言っただろう? ここにキミの居場所は無い。ただ孤独しか与えられない」
そのまま一歩、歩み寄った。
「だからキミは去るべきなんだ。こんな所にいても、キミはキミを否定して不必要な自責に苛まれるだけだ。キミが真に行くべき場所はもう用意されているよ」
一歩、歩み寄った。
「そこにある思想はキミの全てを受け入れる。そう、キミを心から欲しているんだ」
歩み寄り、そして足を止めた。
「僕たちは全力でキミを、守るよ」
優しい言葉だった。
「沖田晴道くん」
響いた。
久澄調の言葉は、甘く甘く晴道の心に響いた。
思考にまとわりついた自責という淀みを、無条件に洗い流すかのようだった。
そうだ、俺は何を疑問に思っていたんだ。
必要だと、俺が必要だと、この男は言ってくれているじゃないか。
俺の全てを受け入れると。
守ると。
――――何から。
ここにある正義から。二つの正義から。
俺の正義は?
意思は?
――――決めただろう。
「!」
晴道の目前で、久澄が微笑みを吃驚に変えた。
「消えろ」
その決意は呟きでは収まらなかった。
「消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ消えろぉぉおおおっ!」
晴道は咆哮した。
消えろ!
久澄の発現する洗脳へ、そして自分の中に生まれた甘えへ。晴道は持てる全てを叫んだ。
「俺は決めたんだ!」
全身の細胞からその想いが爆発した。
そして晴道は、忘れていた。
「……そうかい」
まず、不敵な笑みがそれを教えた。




