表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/68

5章の8

 ぎり、と奥歯を軋ませた。

「お前も難儀だな。晴道」

「……は?」

 不意に掛けられた言葉は、慰めのような響きを抱いていた。

 晴道を連れ走っていた更紗は、ようやく足を止めた。

 腕が離される。更紗は視線だけを巡らせ、しかし無表情に発した。

「いいか。発現抑制は使うな。お前が私欲のために使えば、きっと誰かが死ぬ」

 冷たく言い放った。

 私欲。

「……」

「殺したくないのならば……お前が固執する正義とやらを貫きたいのならば、お前は何もするな」

 再度念を押し、更紗は駆け出した。向かう先はミラを中心に混戦状態となっている場所だ。

 狭間に置かれた晴道。

 両側で繰り広げられる戦闘の音声が両耳から突き抜ける。

 発現抑制を使えば、この場にある突然変異を止めることができる。即ち細胞傷害、細胞時間加速、超駆動、血球振動。

 そうなれば、珠希は断罪銃を抜く。千景は死ぬ。

 そしてリコンビナントと戦っている更紗とミラも、どうなるかわからない。

 俺が動けば、全てが崩れ去る。

「……は」

 晴道は知らず、唇を歪めていた。

 何が突然変異だ。社会的脅威だ。

 周りがこんな状況になっていても、俺は何もできないじゃないか。

 同じ思いを抱く少女を助けることもできない。襲ってくるリコンビナントとの戦闘に手を貸すこともできない。

 戦場から逃がされ、一人で安全な所に突っ立っているだけ。

 それこそが罪なんじゃないのか。

「オルタは間違ってる、セルも間違ってる。今の俺も、絶対間違ってる……」

 これのどこが正義だ。

 殺さないという意思を貫く行為は、こんなにも姑息に感じるものなのか。

 俺だって守りたい。

 何かを成したい。

 しかし――許されない。

「俺が何かすれば……同時に本当の罪まで紡がれる」

 ぽつねんと呟いた。その傍らを、海からの風が駆け抜ける。

 吹きつける風を感じられるのも俺一人だけだろう。

 ここは平和だ。俺の周りには平和が取り捲いている。

 だって、俺は今、戦場にいる資格すら奪われてしまったんだから。

 居心地の悪い平和の中で、正義を抱いて立ち尽くす。行き場の無い思いを精一杯の〝意思〟で抑え、自嘲に顔を歪める。

 沖田晴道の存在は、真に罪だ――

「……はは」

 天を仰ぎ、薄い笑いを浮かべた。

 ふわ

 視界の端に、白い布が躍った。

「更紗……?」

 思い当った人物の名を呟きながら、半ば投げやりな視線を向けた。

 瞬間、目を見張る。

 微笑みがそこにあった。

 リコンビナントの喧騒は、先程よりも随分とこちらに迫っている。

 その輪の影から、まるで躍るように白い影が姿を現した。

 微笑みながら歩むのは、白衣の青年だった。

「く、久澄……」

 声、瞳、身体。晴道の全てが震えた。

 何でこんな所に。自分から殺されに来たようなものじゃないか。晴道は呆然と彼を眺めた。

 ぴた、と彼は前進を止めた。

 晴道を真正面から見つめ、久澄調は発した。

「孤独だろう?」

 いつもと変わらない笑みを浮かべながら、そう発した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ