5章の5
地面に跪いていた珠希は、その警告ではっと顔を上げた。飛んでくるチューブを視認するや、その場を跳びすさった。
一瞬遅れて着地、炸裂する爆弾。
先程よりも規模は小さい。しかし爆音は空気を激しく揺さぶり、爆風は地面をえぐった。
晴道は腕を顔の前で組み、爆破の余波をやり過ごした。
なんて威力なんだ……!
前に立つ少女の背へと畏怖の視線を向ける。
血球振動による爆発現象。それを自在に誘起する少女は、おののく晴道を背に悠然と立っている。
かなり広い間合いの先では、珠希と更紗が左右に分かれるように散っていた。
二度、間近で爆発を食らった珠希は、顔をしかめ、手の甲で頬を拭っていた。黒いスーツは土ぼこりにまみれ、所々破れている。
珠希ほどの影響は被っていないものの、更紗も身を傾け、顔をしかめていた。
「血球振動……血中の有形成分を激しく振動させることで、血漿の急激な体積膨張を引き起こす……。おまけに血液自体を動かすこともできるのか? ……分子間引力か。くそっ!」
ぐしゃっと髪をかき上げると、勢いよく珠希を振り向いた。
彼女が向いた先で珠希は、ふらつきながら断罪銃の弾倉を交換していた。
「珠希! 萩原千景は今までの変異種とは危険度が全く違う! 断罪銃一丁で簡単に始末できる相手じゃないぞ!」
「っ」
珠希は歯を食いしばり、弾倉の装填を完了した断罪銃を懐に収めた。
そして流れるような動作で右手を腰へと伸ばし、バックサイドホルスターからもう一丁の銃を引き抜いた。
障害銃の銃口が露わになった瞬間、銃声と共に漆黒の深淵が震えた。
初動がほとんど無い発砲。普通の人間が避けられる代物ではない。
しかし細胞傷害物質の銃弾は、誰の体も捉えないまま虚空へと消えていた。
「なっ……?」
晴道は驚愕する。
珠希が完璧に外した。
自分か、千景か。どちらを狙ったのかも定かではない。
「腕か肩、やっちゃったみたいだね」
千景が指摘する。少しだけ憐れむような声音を交えながら。
図星なのだろう、珠希はぴくりと身じろいだ。
しかし彼女は気丈な口調で詰問を放った。
「萩原千景。あなたは断罪に抗おうと言うのですか」
ふん、と千景が鼻を鳴らす。
「何が断罪だよ。あんたたちは自分に都合のいい正義を振りかざして、人を殺してるだけじゃない。セルもオルタも大差ないよ」
「……それならばあなたは何なのです。何のつもりでそこに立っているのですか」
珠希は千景と晴道を順に見た。
なぜ、沖田晴道の前に立っているのか。なぜ、彼の断罪を阻むのか。
千景の唇から、ふっと笑みが漏れた。




