5章の4
ミラ!?
振り向く、が、超駆動を発現させた少女の姿はすでに無い。
千景を拘束するつもりだ。
「ダメだ! 退けミラ!」
更紗が焦燥の叫びを上げた。
その瞬間、晴道の視界は側方から差し込んできた爆煙の幕に遮られた。
「っ!」
爆風が唸りを上げ、体を横から殴りつける。
「がはっ!」
どさっ、と芝生に身体を打ち付けた音が聞こえた。
晴道はそちらを向いた。しかし爆心の向こう側は未だ土煙が濃く残り、ミラの姿は窺えなかった。
「ミラ!」
更紗が叫んだ。しかし返事は返ってこない。
やりすぎじゃないのか。
「千景……」
「大丈夫、手加減はしてるから」
土煙で遮られた向こう側から、千景の声が返ってきた。
晴道の狼狽を見透かした言葉だった。
〝脅威〟
更紗が言いかけた単語が頭に響いた。
意識をほんの少し曲げれば、千景はたやすく人を殺せる。
新の罪人になる。
不意に晴道は気配を感じた。
はっと振り向いた、そこには。
「……」
二組の深淵が晴道を見つめていた。
断罪銃の銃口と、その引き金を引く権利と義務を持つ、ただ一人の少女の瞳。
どくん。胸の奥底で心臓が跳ねる。
「珠希」
あんたは……
二度の呼吸を終えた珠希は、冷たく言い放った。
「遺伝情報レベルで消え去りなさい」
断罪銃の銃口が火を噴いた。
運命を告げる銃弾が、立ち尽くす罪人へと突き進む。
が。
スローになった視界に、再び深紅の爆弾が躍った。
珠希の目が見開かれた瞬間、轟音が空気を激震させる。
「っ!」
同時に起こった爆風が嵐のように吹き荒れた。
「っぐぁっ!」
地震とさえ思えるほどの衝撃が芝生の地面を削る。その上に立つ晴道も爆風をもろに受け、後ろに煽られた。
とっさに足を踏みしめ転倒を防ぐ。
そして止まっていた呼吸を取り戻した頃、
「……死んでない」
晴道はようやくその事実を認識した。
土煙がもうもうと巻き上がり、辺りの視界はままならない。しかし視線の先には、しっかりと地面を踏みしめる自分の両足がある。
銃声は聞こえた。断罪銃の銃口から吹いた火も、この目で見た。
しかし、断罪はまたも阻まれた。
不意に視界に人影が躍る。
土煙が舞う中、その人物は文字通り影に見える、が。
まるで盾にでもなるような位置に躍り出た人物が誰なのか、晴道は知っていた。
海風が吹きつける。
潮の香りを纏った緩い風が、風下へ土煙を運び去る。
その風に髪と、セーラー服の襟をたなびかせながら、彼女はこちらを振り返った。
「守るよ、沖田くん」
萩原千景は、凛々しく笑いかけた。
そして晴道の返事も待たないまま前を振り向いた。その動きと連動して彼女の右腕が投擲動作を取る。
虚空に放たれるは、血液の詰まったチューブ。深紅の液体を満たしたそれは信じられない速度で突き進んだ。
「避けろ珠希!」
更紗が警告を叫んだ。




