表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/68

5章の2

 一夜明けた本日も、快晴の夏空が全天を覆っている。

 雲は一つもない。透き通りすぎるほどに透き通った青空に浮かぶのは、白く輝く太陽ただ一つ。

 それがまだ朝日という形容で示される時間。沖田晴道と萩原千景は咲浜医療センターの前庭を歩いていた。

 芝生を踏む二組の足。その歩調は確固としている。

 向かう先は、本土とここ咲浜アイランドを結ぶ連絡橋。正攻法ではここが唯一の脱出経路だった。

 海を渡る術もある。しかし二人は、あくまで正面突破するつもりだった。

 晴道が泳げないのは知っての通り。しかし、例えそのネックが無かったとしても、晴道は橋を渡ると決めていただろう。

 千景と共に、島を出る。

 抗う意思を貫き通す。

 誰も傷つけられない、傷つけきれない。

 そんな自分は甘いんだろうか。異常なんだろうか。一晩では一握り分の解決も掴み取れなかった。

 でも――逃げないと決めた。

 何もできないけれど、せめて抗いの証しとして、逃げることだけはしない。

 手段を持つ少女と共に進むことで、自分も戦うのだと示したい。

 晴道は隣を見た。

 萩原千景。血球振動ヘマトクエイクを有する、血液を爆弾と化す少女。

 彼女は手段を持つ。そして意思を持つ。

 だから彼女の肩にかかった鞄には、血液の充填されたチューブがいっぱいに詰まっている。

 第一病棟跡地を出てから今まで、リコンビナントは一体も襲ってこなかった。何本用意されているのかわからないが、チューブは一本も使われないまま温存されている。

 久澄は〝やり残したこと〟を終えて姿を消し、リコンビナントも襲ってこない。セルが動かなくなったとなると、残る自分たちの敵はオルタのみだ。

 晴道は彼女たちを顧みた。

 珠希、更紗、ミラ。

 リコンビナントと、今は亡きセルの構成員たちから自分を守ってくれた。

 彼女たちは、何かを守るために傷つき、傷つけた。

 でも、根底にある理念は間違っている。

 仲間でないのなら、敵。絶対正義の理論は極端そのもので、一方的極まりない。

 意図はわかる。でも、違う。

 あんたたちは間違っている。

 この言葉を、俺は断罪銃の銃口に向けて発することができるだろうか。

 その行為で、ただ一人の断罪執行者の心を砕くことができるだろうか。

 珠希――

「沖田くん?」

 はっと意識が舞い戻る。

 頭の中で呼んだ名とは違う少女が、こちらを窺っていた。

「あ、どうした?」

「ううん。黙っちゃったからどうしたのかなーって思って」

 千景は軽く笑った。

 しばし無言が落ちていたが、二人は今まで粛々と行進していたわけではない。「お腹すいたよね」「昨日、レバー食べたいって寝言言ってたぜ」「えっ!? うそ!」などと、他愛もない会話をしながら歩んでいた。

「結局一睡もしなかったんでしょ? 大丈夫?」

「昼間に充分寝たから平気だよ。千景こそ、地べたで眠ってきつくなかったのか?」

「全然! ばっちり熟睡できたよ。沖田くんが見張っててくれたからかな」

「リコンビナントが襲ってきても、俺一人じゃどうにもならないけどな」

 はは、と自分で自分を笑う。

 しかし千景は、自然な感じで首を横に振った。

「え?」

 晴道は思わず、千景の顔をまじまじと見つめた。

 彼女は微笑んだ。

 これまでのような凛々しい笑みでは無く、とてもやわらかく。

「例えそうだとしても、沖田くんは私をまもってくれてたよ」

「……」

「だから私も――」

 千景は目を見開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ