5章の2
一夜明けた本日も、快晴の夏空が全天を覆っている。
雲は一つもない。透き通りすぎるほどに透き通った青空に浮かぶのは、白く輝く太陽ただ一つ。
それがまだ朝日という形容で示される時間。沖田晴道と萩原千景は咲浜医療センターの前庭を歩いていた。
芝生を踏む二組の足。その歩調は確固としている。
向かう先は、本土とここ咲浜アイランドを結ぶ連絡橋。正攻法ではここが唯一の脱出経路だった。
海を渡る術もある。しかし二人は、あくまで正面突破するつもりだった。
晴道が泳げないのは知っての通り。しかし、例えそのネックが無かったとしても、晴道は橋を渡ると決めていただろう。
千景と共に、島を出る。
抗う意思を貫き通す。
誰も傷つけられない、傷つけきれない。
そんな自分は甘いんだろうか。異常なんだろうか。一晩では一握り分の解決も掴み取れなかった。
でも――逃げないと決めた。
何もできないけれど、せめて抗いの証しとして、逃げることだけはしない。
手段を持つ少女と共に進むことで、自分も戦うのだと示したい。
晴道は隣を見た。
萩原千景。血球振動を有する、血液を爆弾と化す少女。
彼女は手段を持つ。そして意思を持つ。
だから彼女の肩にかかった鞄には、血液の充填されたチューブがいっぱいに詰まっている。
第一病棟跡地を出てから今まで、リコンビナントは一体も襲ってこなかった。何本用意されているのかわからないが、チューブは一本も使われないまま温存されている。
久澄は〝やり残したこと〟を終えて姿を消し、リコンビナントも襲ってこない。セルが動かなくなったとなると、残る自分たちの敵はオルタのみだ。
晴道は彼女たちを顧みた。
珠希、更紗、ミラ。
リコンビナントと、今は亡きセルの構成員たちから自分を守ってくれた。
彼女たちは、何かを守るために傷つき、傷つけた。
でも、根底にある理念は間違っている。
仲間でないのなら、敵。絶対正義の理論は極端そのもので、一方的極まりない。
意図はわかる。でも、違う。
あんたたちは間違っている。
この言葉を、俺は断罪銃の銃口に向けて発することができるだろうか。
その行為で、ただ一人の断罪執行者の心を砕くことができるだろうか。
珠希――
「沖田くん?」
はっと意識が舞い戻る。
頭の中で呼んだ名とは違う少女が、こちらを窺っていた。
「あ、どうした?」
「ううん。黙っちゃったからどうしたのかなーって思って」
千景は軽く笑った。
しばし無言が落ちていたが、二人は今まで粛々と行進していたわけではない。「お腹すいたよね」「昨日、レバー食べたいって寝言言ってたぜ」「えっ!? うそ!」などと、他愛もない会話をしながら歩んでいた。
「結局一睡もしなかったんでしょ? 大丈夫?」
「昼間に充分寝たから平気だよ。千景こそ、地べたで眠ってきつくなかったのか?」
「全然! ばっちり熟睡できたよ。沖田くんが見張っててくれたからかな」
「リコンビナントが襲ってきても、俺一人じゃどうにもならないけどな」
はは、と自分で自分を笑う。
しかし千景は、自然な感じで首を横に振った。
「え?」
晴道は思わず、千景の顔をまじまじと見つめた。
彼女は微笑んだ。
これまでのような凛々しい笑みでは無く、とてもやわらかく。
「例えそうだとしても、沖田くんは私をまもってくれてたよ」
「……」
「だから私も――」
千景は目を見開いた。




