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5章の1
暁――
朝霧に霞む海峡を背に、黒服の少女は佇んでいた。
こぼれ始めた朝陽を受けながら、埠頭の地面を見つめていた。
無機質なコンクリート。その中に一か所だけ、即ち彼女の足元だけ、有機物の残渣が広がっている。
血痕である。
点々とした、というレベルではない。バケツでぶちまけたように広く飛び散っている。
しかし、血痕である。
血液の流れた痕跡だけが、埠頭に残っている。それが流れ出た肉体はどこにも見当たらない。
恐らく深紅であった色彩は、今や黒ずんでしまっている。
乾ききっているそれを見降ろしながら、黒服の少女は佇んでいる。
無言で。ただ何かを考えながら。
不意に彼女は銃を抜いた。金色の銃が、朝陽に鋭い光を返す。
瞬間的な動作だ。引き金に右手人差し指、グリップに左手を添え、両手に完璧な構えを作る。
しかし銃口の先には何もいない。夏の暁の空気が緩く流れているだけだ。
少女はしばし、架空の標的を見据えていた。
そして、
「次は仕留めます――絶対に」
朝風に載る決意は、誰の下へと向けられたのか。




