4章の12
「だからキミは、同じく抗う意思を見せる萩原千景くんと手を組んだというわけか」
ふっ、と嘆息のような吐息が聞こえた。
「彼女も殺しているよ。――ヒトではなくリコンビナントだけれどね」
瞬間、晴道は顔を上げた。
久澄は微笑みの中に、どこか嘲るような色を加えていた。
「キミの言う〝殺す〟という言葉がどの程度の意味かわからないけれど、リコンビナントを対象に加えるのならば、千景くんは紛うことなく殺人者だ。僕や、オルタと同じようにね」
「千景が……」
リコンビナントを殺している。それは頭の片隅で理解していた。
リコンビナントは人じゃない。だから大丈夫だ。
いつの間にかそんな認識ができあがっていた。むしろ、その認識を作る事で殺害という事実から目を逸らしていた。
改めて指摘され、晴道は唇を噛んだ。
しかし久澄は、言った。
「彼女の行動は粗野で向こう見ずだけれど、正しいよ」
思ってもみない言葉だった。
「彼女はリコンビナントがヒトではないと分かっている。それが免罪符になっているんだろうけれど、彼女は生き延びるためにリコンビナントを殺すことに躊躇が無い。これが彼女の意思なんだ。悪いけれど、綺麗事をかざしたまま逃げおおせようというキミが否定できたモノではないよ」
「……」
久澄の言葉一つ一つが、晴道の胸を深く刺し貫く。
語られる根底にあるモノは、意思、決意。
自分にもそれがあるのならば、こんなにも久澄の言葉に痛みを感じるはずがない。
つまり――俺は甘いってことか?
何の犠牲も無しに事を終えようとする俺の方が、この島では異常だということか?
問えば、久澄調は答えるだろう。イエスと。
八ツ坂珠希も、三小田更紗も、四堂ミラも。確固たる意思の下、殺人を肯定する人物たちは全て。沖田晴道は甘いと。おかしいと。
そして萩原千景も――?
かしゃり、と聞こえた足音が、晴道の狼狽を中断させた。
「晴道くん」
呼ばれ、顔を上げる。いきなり光が飛んできた。
「うわっ」
とっさに手をかざしてキャッチした。久澄の手にあった非常灯だった。
再び顔を上げる。そこには翻る白衣の裾があった。
「久澄っ」
足が出かけたが、踏みとどまった。久澄の体は既に闇にかき消えていた。非常灯をかざすも、姿はどこにも見当たらなかった。
焦る晴道へ、声だけが返ってきた。
「結局キミは、罪人を選んだみたいだね。セルにつかなくてもオルタに抗うのなら、キミは断罪執行者である八ツ坂珠希の標的だ」
「そんなこと……分かってる!」
「あの時は彼女に守られたのに、皮肉だね。今度は彼女に銃口を向けられる。そしてキミは彼女を殺す手段を持たない」
「俺に珠希を殺す意思は無い!」
「それなら、せめてその意思を貫いてみるといいよ。キミ以外の全員にとって異質なその意思を。切り札の発現抑制は未完成のままだけれどね」
ざぁっ、と、風が砂礫を巻き上げる。
間章の終幕のように吹いた風は、ほんの数分前と変わらない涼やかさを抱いていた。
「俺は誰も殺さない!」
晴道の叫びは夜風に載り、人工島の中を駆け抜ける。
それを耳にした人物がどれほどいたのか。ただ一人立ち尽くす晴道には、知り得る術も無い。




