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4章の11

「正確には『リコンビナントに麻酔無し・術後処理無しのサンプル採取を命じたから、彼らは激痛のショックか出血多量で死んだだろう』だけれどね」

 晴道はゆっくりと久澄を向いた。

 驚愕に見開いた己の目が、そこにいる白衣の青年を捉えた。

 彼は微笑んでいた。晴道が突然変異やセルを知る前の時間に見ていたものと同じ顔で。

 そう。久澄調は、日常と同じ笑みを浮かべていた。

「……あんたは……狂ってる」

 絞り出すように言った。久澄は興味深そうに問い返してきた。

「うん? どうしてだい?」

「仲間を……生きてる仲間をみすみす殺すなんて……普通の人間なら絶対にしない」

「確かに、普通の人間ならそうかもしれないね」

 久澄は首肯を返した。

 そして唐突に、まなざしの質を変えた。

「!」

「しかし、変異種である僕たちが普通の人間の感性を持っている必要がどこにある? 僕らの形質がもたらす効果の多くは常人の――……? どうしたんだい? そのポーズは」

 言葉の途中で久澄は首を傾げた。

 それもそのはずだ。晴道はいきなり目をつむり、久澄に向かって両手を思いっきり突き出していたのだから。

 しばしの無言が落ちる。

「……続けろよ。むしろ続けてくれないと、俺がやってる意味が無いだろ」

 恥を忍んで促した晴道だったが、それで久澄は気づいたようだ。

発現抑制サイレンスか! キミも自分の突然変異の使い方を知ったんだね。でも、そのポーズはいささか間抜けなんじゃないのかな?」

「ほっとけ!」

「それに悪いけれど……効果は薄いみたいだよ」

 途端、晴道はがくぅっと肩を落とした。

 久澄は憐れむように声を掛けた。

「突然変異は一日二日で使いこなせる代物じゃないから、そんなに落ち込まなくても大丈夫だよ。……そうだね、今回はキミの努力に報いて突然変異――洗脳ブレインウォッシュ無しで話すことにするよ」

 ぽんぽん、と肩でも叩かれながら言われそうなセリフだ。

 敵に憐れまれるなんて情けないにも程がある。晴道はがばっと起き上がり、当てつけ紛いに久澄を睨みつけた。

「とにかく、あんたは異常だ! 自分の目的さえ果たせれば仲間の命はどうでもいいって事じゃないか

!」

 久澄は唐突な晴道の復活に目を丸くした。

「生物兵器を造って売ってるってだけでもおかしいのに、更には人をサンプル扱いかよ。あんたにとって価値があるのは、人間よりも遺伝子なのか!?」

 言い放ち、晴道は反応を待つ。

 久澄はしばし、口をつぐんでいた。

 笑むでもなく、ただ醒めたようにじっと晴道を見つめている。

 初めて見る表情だった。晴道は奇妙な違和感に襲われつつも、その視線に射られるがまま立ち尽くした。

 何の前触れもなく、久澄は発した。

「それがセルの理念であり、僕の意思だ。僕が納得していれば、キミの言う異常は常に正しい。僕の行動は僕の意思で決まるんだから」

 つらつらと、しかし確固たる口調で言った。

「だから僕は尋ねただろう? キミの意思を。キミの行動を決めるのは、キミ自身の意思だ。同じ立場に立たせるまでした僕を、キミの持論で頭から否定しないでほしい」

「……」

 ふっと久澄の顔が緩む。

「それにこの島にいる人間は全て、確固たる己の意思の下に行動している――キミ以外はね」

「っ!」

 いきなり発された言葉は、晴道にとって侮辱に等しかった。

「俺以外!? 俺だって決意した! オルタにもセルにもつかない。千景と一緒この島を出るんだ!」

 つい先ほど決定した己の決意を、激しい剣幕でまくし立てた。

 久澄は興味深そうに頷く。

「そうか。感じていたけれど、僕らに賛同してくれる気にはならなかったみたいだね」

「当たり前だ!」

「でもオルタにもつかない理由は何だい? 敵の敵は味方。よく言うじゃないか」

 久澄の口からも、その二極化した理論が発せられた。

 晴道は憤り半分に吐き捨てる。

「セルもおかしい。でも、オルタの考えも間違ってる。自分たちの仲間にならないのならば問答無用で死刑って、下手するとセルよりもタチが悪いじゃないか」

「……」

「大体、何であんたたちはこんなに簡単に〝殺す〟のを認めるんだよ。何で意思とか決意とかいう理由で人を殺せるんだ……」

 晴道は目を伏せる。

 なぜ。なぜ殺す。殺せる。幾度となく頭をかき乱した疑問。奇しくも問うた相手が久澄だということに奇妙な感じを覚えつつも、晴道はいつの間にか答えを乞うように無言に落ちていた。

 しかし久澄は、全く想定外の言葉を返してきた。

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