4章の6
しばらく歩んだ所で、千景は足を止めた。
「ここは?」
きょろきょろと辺りを窺う。周囲は瓦礫の山。今まで歩んできた所とさして変わらない。
よく見ると、瓦礫に混じって金属製の箱が点在していた。どれも小さい冷蔵庫のような見た目だ。
千景はおもむろに箱に近づくと、
「んぅー……っ。扉が変形してるみたい。くぅ、開けっ!」
気合いを一発入魂。するとガコンと音が立って扉が開いた。
バラバラバラ
中からパック詰めされた物体がなだれ出て来た。
「?」
晴道は千景の後ろから首を伸ばした。
O型 Rh+
そんなラベルが貼ってある。半透明のパックにみっちり詰められているのは赤黒い液体だ。
血?
千景は小さな山になった血液パックに手を突っ込み、無造作に一つを掴み取った。
「輸血用の血液パックだよ。ここはストック庫だったみたい。爆発で吹っ飛んじゃったけど」
軽く肩をすくめて説明する。
間近で見る血液は、深まり始めた闇の中ではリアリティーが感じられなかった。
千景はパックをムニュムニュ揉みながら、
「わ、温まってるなぁ。腐っちゃうよ」
レトルトのカレーみたいな扱いをする。
「千景、こんなものどうするんだよ。誰も怪我なんてしてないぜ」
すると千景は振り返り、
「そっちにある箱、取ってもらえる?」
見やった先を晴道も見る。薄暗い視界、初め何を指しているのか分からなかったが、よくよく目を凝らすと、瓦礫の前にぽつんと一つ、小ぶりの段ボール箱が置いてあった。
立ち上がって箱に近づく。持ち上げると、中の物がカコカコと音を立てた。しかし妙に軽い。
何だろうと思いつつ、晴道は千景の隣に箱を置いた。
「ありがとう」
千景は礼を言うと、おもむろに箱を開けて中身を取り出した。
今度は試験管か?
そう思わせる細長いチューブだった。ネジ式の蓋がついている。箱の中に目をやると、同じ物がぎっしりと詰められていた。重さからプラスチック製だ。
「パックはこうすれば開くみたいだから……」
千景は呟きながら血液パックを開けた。
そしてチューブに、中身の血液を注いだ。
「……千景?」
注ぎ終えたチューブにしっかりと蓋をし、傍らに置く。そして再び空のチューブを手に取り、血液を移す。
淡々と進む単純作業。晴道は怪訝に問いを挟んだ。
「何やってるんだ?」
「血を小分けにしてるの。あんまり多いと制御しづらくなるし、もったいないじゃない」
何でもないように返されるが、説明不足も甚だしい。
晴道が釈然としない表情で口をつぐんでいると、千景はすっと立ち上がった。
「見てて」
手には、中身の無くなった血液パック。千景はそれを逆さにし、わずかに残っていた血液を掌にしごき出した。
つっ、と血液がパックの口から伝い落ちる。掌に着地し、広がる。
千景はパックを放り捨てると、
「いくよ」
晴道へ、挑戦的な顔で微笑みかけた。
血液を載せた掌をぐっと握りしめると、腕を振りかぶり、オーバースローで投擲した。
何かが千景の掌を離れ、飛ぶ。
「え?」
直後。数メートル先で爆発が起こった。
「うわっ!?」
巻き起こった爆風が顔面を殴りつける。煽られたコンクリートの礫が足にぶつかり、跳ねる。
爆音と爆風だけの小爆発は、すぐに収束した。
「……」
あっけにとられつつ千景を見る。
彼女は小さく笑いながら、自らこの現象の正体を示した。
「血球振動の応用だよ。血を激しく振動させると爆発するみたいなの。何でかはよく分からないけど」
晴道は未だ呆けつつも、問うた。
「自分の突然変異……前から知ってたってことか」
一之瀬という人物が接触してくる前から。
千景は頷く。
「この爆発も、できるって知ったのは経験からだよ」
「何で自力で気づいたんだ?」
「だって、昔からおかしかったんだもの」
千景は晴道を見据えながら、
「血が躍るなんて」
その真剣なまなざしに、晴道は息を呑んだ。
千景はふっと目を逸らすと、続けた。




